終始。
破壊神には兄がいた――厳密には、兄というよりは先代と数えるべきかもしれない。破壊神にも代替わりするべき時はあり、それは自由なタイミングで起こせたが、兄たち創造神は違った。彼らは追い込まれた末に選ぶしかなかった。
彼らはそれでも王だというのに、部下の天使たちや守るべき人間たちの手で首を絞められ続けていた。
可愛い妹が傍観しているのを、兄が知らないわけがなかった。
彼らは何でも叶えられる。創造神の役目は可能性を創ることであり、それを人間が望めば望む通りの未来を産み出せる。だがそれには一つ欠点があった。
彼らの力は新たに何かを作ることではないということだ。つまり、何かがある可能性を創るために別の何か――創造神も生命には関われないので、文化や食物、相応のエネルギーを持つ物体を犠牲にして創る。
創造神は嘘をつかないので、人間に聞かれた際に事細かに、丁寧に全て教えてしまった。それから彼らは恐れられ、石を投げられるようになってしまう。自業自得だと言えるが、人間たちから恐れられるだけなら創造神でも対処できた。
問題はそれを見ていた部下たち、天使たちが天界に戻ってきた創造神に同じことをし始めたことにあった。
彼の逃げ場はどこにもなかった。
望むことはどんなに不可能でも作れ、誰からも愛されるべき存在は延々と孤独なままで自死を選ぶ。あまりにも皮肉な悲劇が繰り返された。
始めに刃物を口から呑んだ。
次に密閉した倉庫の中にある大量の書物に火をつけた。
次に高い建物から飛び降りた。
その次は何だったか。よくわからない薬を大量に飲んだ。
木造の建物に縄をかけて首を吊った。
十字架を自ら運んで、それを面白がった人間たちが釘を刺していった。
今度は自分で首を絞めた。
新しく作られていた豪勢なダムのなかに飛び込み、肺を潰して沈んでいった。
巷で流行っていた工作用のカッターで手首を切り続けた。
一番上の娘が腕を切断して死亡したのを知り、切断し血が流れるのを見ていた。
父と思しき姿を真似たが十秒もせずに自壊した。
最後に母を――姉の記憶にあったそれを真似たが、はじけて消えた。
悲しいことに、新たに還ってきた創造神を祝っては消えていったことを悲しむ魔族を彼らは知らなかった。魔族は、彼も絶対の存在で唯一の役割を持って生まれたからこそ、楽しんで生きてほしいと思っていた。
死因が自殺であれど、消えたことを何度も悲しんでは復活を祈っていた。魔族にはそれ以外にできることが無かった。
自殺に関して肯定的ではない創造神は、かつて同じことを何度もしたが結果は変わらないことを学んでいる。与えられた役割に沿わないならば、沿うように何かを与えることで役割を果たすことが出来るとも考えている。それこそ、何かが犠牲になる必要があり――しかし、複数の少々の犠牲という形には変えたようだ。それで可逆性を取り戻させた例はいくつかある。自分自身にできたことは、人間でもできると思っているのだろう。
彼らの場合は、大量の犠牲をもって、一人になったというべきかもしれない。
本当は器が一つあり、兄たちはそれを大事にしてきた。保険だったそれは、彼らが違う彼らになるたびに機能を増やしていった。それこそ、それまでの彼らを取り付けていく形で。
死に際でも彼らは笑顔を浮かべていたが、果たして自我を持っただけに過ぎない機械のような存在が、心を持ちながら死ぬ状況を迎えて、本当に笑顔でいられたのだろうか。あるいは、自分に石を投げていた人間たちの表情を真似ているだけか。神のみぞ知る、とはこのことだ。
実際、彼は神の願いだって叶えた。その際彼は皮肉そうに神に告げた。今まで自分がしなかった方法を神に与えるほどには。
――君の願いはもう叶っていますよ。これは餞別です。
――僕らは物には頼りましたが、文明に頼ることはしませんでした。
――僕はあなたが羨ましい。
神はなぜ、もうどこにもいないのか。
創造神が引導を渡したからである。
彼らは、効率的で合理的に動く世界を望んでいる。どの個体も生まれ持った役割に沿って行動していれば自分のようなものが出現することもないだろうと思っている。
そのため、たとえ解決策があり、講じれば元に戻ることがあっても、最善の道が廃棄であるならば、彼らはその個体に慈悲をかけない。
救うべき存在、率いるべき者たちがかつてそうしていたのだから、彼らはある意味、恩師であるともいえるだろう。彼らは一人で、独りではなかった。
十二個の並列回路と一つの人格を模したもの。それが創造神の正体である。
彼はそのことを隠すつもりはないようだが、石を投げられるのは嫌になったようだ。中にいる回路がそれを恐れ、怯えるために役割の効率が悪くなる。そのため、創造神は誰かの前に出現する際に笑顔の仮面を被っている。
ただそれだけで人間は脅威と判断しなくなるのだから、創造神からすれば容易い修正だった。
彼には目が複数ある。まるですべてを見通せるかのように器のあちこちに点在する形で彼はあなたを見ている。
理解するふりをしている、傲慢だと言われれば彼は、彼らは真実を証明しに来る。例え、自分の姉であろうと。黄泉に来た彼らは姉に――破壊神に一言だけ告げた。それだけで彼女は断罪された。判決を下された。
――姉さんだって、僕らを見殺しにした。
ひとつ役目を終えた創造神は、探し物をしている。かつて名前を奪われた自分に名前を与えてくれた存在を探しているが、彼女はもう死んでいた。
黒の空白地点 赤苺夜 @_st7g
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