幕間_黒蛇装備と漆黒の刀

「あ、クロエちゃん」

 一時間少々。クロエとナオトが戻ってきた。

「それで。ナオト、お前また何かしでかしたのか」

 ユウは読んでいた四六判の本を机に置くと、呆れたようにナオトに話しかけた。

「いや〜。あんまり遠出すんなって怒られちまった」

「お前とペトラは危なっかしいからな、釘を刺されて当然だ。また碌でも無いところに行っていたんだろ」

 わざとらしく、ため息を彼はため息をついた。

「それでこの大きな荷物は何?」

 クロエは医務室に先ほどまでなかったかなり大きな長方形の木箱を指差した。それは例のバジリスク討伐報酬だった。「着るんだったら、みんなで一緒に」というチヅルの提案でここに運び込んでいた。

「アレだよ、あれ。バジリスクの時の」

「ああ、装備とかの報酬ね。アレからもう三週間は経つのかしら。それにしてもよく品が無事だったわね」

「たまたま辺境に住んでいる鍛治師が一括で同職組合ギルドから依頼を受けていたらしい。それで戦禍に巻き込まれずに済んだみたいだ」

 この話は荷物をここに運び込む際に寮母さんが言っていたことだ。

「なるほどね。じゃあ、早速着ましょう」

 クロエはそういうと箱に手をかけた。


「すごい、この鍛治師さん。すごく腕がいいよ」

 測ってもいないのに採寸は抜群で、各人の戦闘様式に沿って、設計がなされていた。〈黒蛇〉バジリスクの皮鎧であることから黒が基調となっている。

違いがあるのは上半身だ。僕のものは胸当てとロングコート。ナオトのものは、同じ胸当てとおそらく大剣と干渉するからであろう、胸下で調整されたチョッキのようなデザインだ。

 ユウとチヅルのものは胸当ての両脇とゆったりとした袖が繋がっている。肩は動かしやすいように露出させられている。

 共通するズボンは膝下まで生地にゆとりがあり、そこでブーツと切り替わるようになっている。機動性を求めるとこの設計になるのだろう。黒無地では単調になるからか、素材の違いを用いて精緻な意匠を凝らしていた。

 特出すべきはクロエの装備だった。ズボンは皆と変わらないが、上半身は非常に軽装で薄い長袖に籠手と胸当てという簡素なものだ。射手だから僕らのように厚手である必要はないが、かといって魔術師のように腕周りを覆っていては弓が引けない。 

 それを考えるとまともな設計なのだが、問題は上半身の体のラインが完全に出ていることだった。

「…なんか私だけ、凄い恥ずかしいのだけど」

「これ使うんだろ」

 ナオトが木箱から何やら取り出し、クロエへと放った。それはフード付きの黒いポンチョだった。確かにこれを羽織ると全体的に整合性のとれたデザインとなる。

 他に注文していた僕とナオトのバジリスクの骨を削って作られた武器、長剣と大剣。それだけの筈だが、さらに一振りの刀が納入されていた。その刀を退けると洋封筒が現れる。

 宛名は『鉄穴のじい』となっている。


ヨスガへ

バジリスク討伐の噂はこの村まで届いたよ。

友達とも宜しくやっているそうじゃないか。

同職組合ギルドが鍛治師の募集がかかっていてな。

折角じゃからて、引き受けさせてもらったわけよ。

各人の寸法は学校の先生づてでいただいたよ。

新装備は気に入ってくれたかな。

そうそう、縁の入学祝いが出立までに間に合わず、先日やっと完成したためそれも同封した。

気張れよ、若人。 

〈じじいより〉


 その文で手紙は締められていた。

 …じゃあ、これは僕の

 全員が見守る中、僕は鞘と柄を持ち、カチンッという音と共に刀身を引き抜いた。それは光を根絶するかのような漆黒を放っていた。この色は鍛冶場で見たことがある。間違いない。最高純度に分けられる白耀鉱石を玉鋼に混ぜ合わせ、鍛錬することでこの刀はできている。あまりにも綺麗な刀身に瞬きを忘れて、見入っていた。

 そのどこまでも暗い刀身がこれから先の未来が一筋縄では行かないことを示しているようにも見えた。

 刀を傾けると、綺麗に覗き込む班員の顔が映る。大鳥さまと恐れられるようになってから実に五年。ここまで信頼のおける友達が出来るまで随分と時間がかかった。

 僕は、この刀をどんな未来が訪れるにしても「友を守る」ために振るうと強く誓った。

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妖精社会 *現在更新停止中 創作 @sousaku_novel

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