夏休み、廃材を燃やすバイト
@takibitaro
第1話 夏休み、廃材を燃やすバイト
ひとつ面白い話してやるよ。
あれは高校二年生の夏休みの日だったかな。
家族で親戚の家に行ってさ、でもそこは田舎だから何も無いし友達もいないし、退屈して俺はスマホばっかりみていた。
で、叔父さんがバイトをしないかと持ち掛けてきた。山の中で廃材を燃やす仕事だ。
叔父さんはそこそこ大きい敷地の山林を所有していて、そしてそこはゴミ山だった。
山の奥に少しひらけた平地があってさ、そこが一面ゴミの山なの。
解体作業とかで出た産業廃棄物やらなんやらを有償で引き取って、敷地の山に「一時保管」するんだって。
そこには廃材とは名ばかりの色んなゴミがあったよ。
椅子とかテレビ、服、電気ケトル。まあ普通の家にあるもの全部そこにぶちまけたと思えばいいよ。それも何世帯分もな。
家を解体した後ってそのゴミをどこに捨てるのか気になったけど、こういう場合もあるんだな。
自分の敷地とはいえ不法投棄みたいなもんだよ。法律は詳しくないけど多分公にはできない。だからこの話も内緒な。
それでバイトの内容だけど、このゴミ山が大きくなり過ぎたんで、燃やして灰にしちまおうって事だった。
もちろんそのまま火を着けるわけじゃない。
敷地の一角に焼却場があるんだ。といってもお前の身長の倍ぐらいの高さのコンクリートブロックで囲んだだけの、ちょっと大きいゴミ捨て場って感じだ。周りはゴミ山なんだけどな。
まあその焼却場にゴミ山のゴミを入れて燃やすだけのバイトだ。
叔父さんはここまで燃やしてくれればいいってゴミ山に適当に杭を立てた。それでも学校の教室一杯分よりは多かったな。
でもそれで一万円。いいバイトだろ?
前にキャンプで焚き火とかやって楽しかったしさ、その延長線でゴミ燃やしてスマホいじってて一万円ならうまいよな。
で、さっそくその日から燃やし始めた。
ゴミぶち込んでそのまま火を着けても着きっこない。
まずは山から木の枝とかを拾って火を大きくして、頃合いをみて燃えそうな、ぬいぐるみとか服とかそういうのを入れていって、次にプラスチック系だ。
プラスチックって元が石油なんだっけ? ライターで炙っても燃えないくせに大きい火だとガンガン燃えるのな。
ただ臭いがやばいからあんまり近くにいない方がいいな。ダイオキシンだっけか。よく知らないけど体に良くないもんな。
そんで火が身長より大きくなったらこれは燃えないだろってテレビとかをぶち込んでいく。
テレビが燃えるのかって思うけど燃えるんだよなあ。
熱で溶けてグネグネ暴れるように変形して、小さく丸まりながら燃えていくよ。その時に中の空気が圧縮されて、「ぽん、ぷしゅうー」って音がするの。
金属じゃなければ大抵の物は火さえ強ければ燃えるんだなってその時学んだね。
たまに火事で黒焦げになった家がテレビで映されるけどさ、確かに家の中の物は殆ど燃えてなくなってるもんな。
火がコンクリートブロックより大きくなったら流石に山火事になりそうでやばいから、ゴミ山から持ってきた椅子に座って休憩だ。
スマホとか落ちてた漫画雑誌見てたよ。
あとは火が落ち着いたらゴミ山からゴミ持ってきてぶち込む。
最初は楽しかったけどこれが結構重労働でさ、というのも焼却場とゴミ山は二十メートルぐらい離れてるから、リヤカーに入れて持ってくるんだよね。
ゴミ山に近付いてスコップでリヤカーにゴミ入れて、焼却場までリヤカー引いてスコップで火の中にゴミ入れて。
その繰り返し。
体力ある高校生でも結構しんどいよ。
まあやってるうちにコツを掴んでさ、ゴミ山にリヤカー突っ込ましてスコップでガサガサって山崩すようにしてゴミをリヤカーになだれ込ませるんだ。
で、リヤカーを引くんじゃなくてダッシュで押して、焼却場で急ブレーキすると慣性で中身がドバァって出ていく寸法だよ。こういうの突放って言うらしいな。
そうやって俺は創意工夫しながら作業してたんだけど、ある時ゴミ山からなんか声がしたんだよ。
ゴミ山の中からだぜ?
叔父さんが来たのかなって思ったけどそうじゃないし、ここは叔父さんの山だから他に誰もこないんだよな。
ちょっとだけ背中が冷たくなったよ。
放っておくのも不気味だからその声の元に向かったんだよ。
なんてことなかった、ただの壊れた赤ちゃん人形だ。不気味でもなんでもない。
よくあるだろ? ボタンを押すと「バブー」みたいに声がでる人形。
何かの拍子で死にかけの電池が復活したのかもな。ただもう叩いても声はしなかった。
脅かせやがってって思ってそいつもゴミと一緒に焼却場にぶち込んで、また作業を再開した。
リヤカーをゴミ山に突っ込ませて、ゴミを積んだらダッシュで押して焼却場に突放。
ゴミが炎の中にドバァって入って炎がまた勢いよく燃える。
そん時にさ、
すんげー音で「オンギャアアアアア!!!」って鳴り響いたのね。
俺もうビビッって尻もちついちまったんだけど、さっきの人形だなって思ったんだよ。あの壊れた赤ちゃん人形。
燃えてる時にまた電池が復活したのかって。また脅かせやがってってさ。
今度の声はしばらく響いててさ、「オンギャアアアアア!!」って何度もうるせえから早く溶けちまえって思ったね。
熱けりゃプラスチックは溶けていくんだよ。
人形の影が炎の中でグネグネと暴れるように変形して、小さく丸まりながら燃えていくんだよ。
そしたらもう電池も溶けたのか音がいつの間にか止んでたな。
それで最後に「ぽん、ぷしゅうー」って空気が抜ける音がしておしまいだ。
やっぱプラスチック燃やすとすっげーくせーの。ツーンと嫌な匂いがしたよ。
一日中最悪な気分だったな。ほんとに。
とまあそんな、バイト中にビビっちまったってだけの話なんだけど、別に笑えるもんでもなかったな。
でもビビったのは恥ずかしいからさ、絶対誰にも言わないでくれよ?
夏休み、廃材を燃やすバイト @takibitaro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます