第11話 地下牢の悪魔
隣国セルガナへと連れて行かれた私は、問答無用で領主の住まう城の地下牢に放り込まれた。
こんなただの鉄の棒で作られただけの牢など、私には何の意味もない。それよりも、私を簡単に国に入れたことを後悔させてやろう。と思ったのだが、少し猶予を与えることにした。
この牢の中に、普通ではない何かがいる。
「ほれ、食事だ」
不愛想な兵士が、牢屋の隅にある小さな小窓から、到底人が食べる物ではない黒ずんだパンと、まるで泥水のように見える液体で満たされた皿を置いて行く。
まともな食事を出す気もない、か。
「おい。奥にいる奴の分はないのか?」
「奥にいる奴のことは気にするな。死にたくなければな」
なにやら思わせぶりな台詞を残し、兵士は地下牢から立ち去った。
さてと、悪いがこんな犬畜生でも食わなそうな物、とても食べる気にはなれない。
黒パンと液体の上に手を添え、二つの物体に力を流し込む。黒パンの存在を変質させ、町で売っている焼き立ての石窯パンに変える。液体も同様に、作り立てで湯気が立っているコーンスープに変質させた。
「んむ、うまい。食べたことのある物にしか変えられないが、この力の使い方は有りだな」
パンとスープを持ったまま、不気味な気配のする奥の牢屋へと移動する。牢屋の壁は石で出来ているが、石壁などあってないようなものだ。
空の牢を二つほど飛び越え、奥の牢にいたのは腰まである長い髪を床に垂らし、起きているのか眠っているのかも分からない、ジッと目を閉じた女だった。その両手と両足には、何か特殊な力を感じる枷が嵌められていた。
「ほれ、お裾分けだ。食え」
と、パンを目の前にぶら下げてみるが、全く無反応だった。
続いてスープを目の前に持っていくと、臭いに反応したのか彼女はゆっくりと目を開けた。
「誰? あなた」
「人に名前を尋ねる時は、まずは自分が名乗れ」
しばしの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「フィア=オルティリア……悪魔よ」
「私はディアーネ=ヴァルフォリア。最強の皇帝だ」
暗闇の中、バサリと外套を翻す。が、それに関しては無反応だった。
「驚かないのね」
「何がだ?」
「私が悪魔であることに」
正直なところ少しは驚いた。なにせ、悪魔は初めて見る。人間でも悪魔と契約する目的で呼び出せば見ることは可能だが、その場合最終的にはその者の魂は悪魔に回収される。下手に強力な悪魔を呼び出せば、最悪問答無用で殺されて終わりだ。
「ただの種族であろう。人の心に巣くう悪魔の方がよっぽど恐ろしい。それに、本当の恐怖の対象は私だ」
フフッと小さく笑った声が聞こえた気がした。
ふと、背後からガチャリと扉を開ける音が聞こえる。
先程の兵士が食器の片付けにでも来たか?
仕方ない、一度戻ろう。
私の牢の前まで来た兵士は、小窓の脇に置かれた空の食器を見て目を丸くした。
「まさか……全部食ったのか?」
「あぁ。中々美味かったぞ」
兵士は頭の可笑しい奴でも見るかのような目をこちらに向け、食器を回収する。そして、戻るのではなく奥の牢へと歩みを進めた。
奥の牢の目の前まで行った兵士は、ビクリと体を震わせた。
「お、起きている……」
「どうしたの? 悪魔が恐いのかしら?」
「う、うるさい! いつも寝ているから驚いただけだ!」
まるで自分に言い聞かせるように怒鳴り散らすと、兵士はわざと大きな足音を立てながらここを出て行った。
「さてと、私はそろそろ行くが、お前はどうする?」
「あなた本当に唐突ね」
フィアの牢に戻った私に、彼女は少し驚いた表情を見せた。
「一緒に行きたいのは山々だけど、この状態では無理よ」
普通の枷で悪魔を拘束することは出来ない。両手両足の枷は悪魔の力を封じる特殊な物だ。これをこの国の領主がしたのだろうか? だとしたら、中々の使い手ということになるな。
私はその枷に手を添える。
特殊な力で構成されているが、私の力を拒否できる程の力は感じない。
枷に力を注ぎこむと、それは黒く腐食したかのようにボロボロと崩れていった。
「嘘……これを解除出来るなんて、あなた何者なの?」
「最強の皇帝と言ったはずだ」
正直、私自身でも自分を良く分かっていない。なので、それ以上答えようがないし、分かっていても答えてやるつもりはない。
枷は外した。あとは彼女の判断に任せよう。
私は牢の出口に向かって歩き出す。
「待って。私も行くわ」
「ならば付いてくるがいい。我が国に攻め入ったこと、後悔させてやる」
最強女皇帝による世界征服(仮 彩無 涼鈴 @tenmakouryuu
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