日常の備忘録
黎明
「日常」
街外れにある喫茶店「日常」
そこにはある噂があった__
店の店主は
そしてその男が__殺し屋、だという噂だ。
2018/04/30
___カランコロン
アンティークな雰囲気の外観。中に入ると木材の香りが鼻を抜ける。中はテーブル席が二つ、カウンター席が五つという小さな作りだ。黒髪の若い店主がその奥に見える。
若い店主__瀬屑は客に気づくと笑顔で近づいてくる。
「いらっしゃいませ。見ての通り今は人がいないので……お好きな席にどうぞ」
瀬屑は男に向かって言った。
「この店自慢の珈琲を一つくれ」
瀬屑の眉がぴくりと動く。客の男はそれだけ言って空いている席に座った。
「
瀬屑はにっこり笑ってカウンターの裏に戻ろうとした時、
トン、トン、トン___
何かを3回叩く音が聞こえる。男が机を指で叩いた音だった。その音を聞いた瀬屑はカウンター裏に行くのをやめ、男の前に立つ。
「
一言だけ言って、瀬屑は歩き出す。男は静かにそれに着いて行った。カウンターの裏、さらにその先に進む。
暫くすると、瀬屑はピタリと止まる。目の前には大きな扉があった。
「どうぞ」
ギーと、古さを感じる音が響く。ゆっくり扉を開けるとそこには机が1つ、椅子が2つ、並んで置いてあるだけの部屋があった。瀬屑はその部屋に入り、椅子に座る。その様子を見て男も椅子に座った。
「さて、まず貴方の名前を教えてください」
瀬屑は男に言った。
「森岡だ」
森岡は端的にそう言った。瀬屑は頷き、
「森岡さんですね。早速ですが、ご依頼は?」
と、森岡に問いかける。
「ある男を殺して欲しい」
「その人は__」
瀬屑が聞く前に、森岡が答える。
「
ぽつりと言った森岡に瀬屑は、ほう、と言葉を漏らす。
「理由をお伺いしても?」
瀬屑が聞くと森岡はああ、と答える。
「あいつは俺の彼女を奪ったんだ。結婚まで考えた女だ。それなのに……!! あいつは奪ったんだ!」
瀬屑は黙ってその話を聞いていた。そして、森岡が話終えるのを確認すると、ゆっくり立ち上がる。
「お話いただき、ありがとうございました。依頼を遂行させていただきます」
「金は、取らねえのか」
森岡の言葉に瀬屑は頷いた。
「私は、
胡散臭いその言葉に森岡は怪訝な顔をするが、瀬屑の顔は変わらない。
「また一週間後、この店にお越しください」
そう言ってお辞儀をする瀬屑につられ、森岡は扉を開け、去っていった。
――瀬屑が気味の悪い笑みを浮かべているとも知らずに。
日常の備忘録 黎明 @____reimei
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