勇者••コンドー
tetsuya.
勇者••コンドー
私の友人にコンドーという名の親友がいる。出会いは東京にいた頃、居酒屋のカウンター席で隣になったことから意気投合し、もう10年以上の付き合いになる。
東京で私はバンド、コンドーは芸人のようなことをやっていたが、今は共に関西圏に戻ってきており、時々会って、一緒に飲みに行ったり、出掛けたりしている。
私はバツイチ子持ち、コンドーには奥さんがいるが子供はいない。もともと奥さんは身体が丈夫な方では無いので、コンドーと二人で遠出することが殆ど無いらしく、コンドーは私達親子と何かと一緒に行動する。
この日もコンドーが伊勢に行きたいと言い出したので、私の車と運転で息子と三人で車を走らせていた。息子とコンドーは既に仲良しである。
幼稚園児の息子もいるので、ドライブだけでは退屈であろうとコンドーは気を遣ってくれ、水族館に立ち寄ることになった。
伊勢に珍しいタイプの水族館がある。近くに有名な水族館があるが、どちらかといえば海獣を間近に見ることができるのを売りにしているのがこの水族館だ。
駐車場に車を停め、色々な海の生物を見て回った。メインイベントの海獣のショーがあるというので、それを見る為に私達三人は会場へと移動した。
ショーの内容は、セイウチのはなちゃん(仮名)が仰向けに寝転がって拍手をしたり、口笛のような声を出したり、アカンベーをしたりして、会場は大いに盛り上がっていた。
ショーも終盤にさしかかり、司会のお姉さんが「どなたかステージに来て、はなちゃんに元気を注入してもらいませんかー!」と言いだした。どうやらステージにゲストが立って、そのお尻にはなちゃんが思い切りヒレ足をぶちかまして、闘魂注入!という内容のものだ。
はなちゃんに闘魂注入してもらいたいお客さんが一斉に挙手をしてアピールし始めた。
ふと横を見ると、コンドーも挙手していた。コンドーのぱっと見は、お笑いなどと縁の無さそうな細くて地味なタイプ。面白いことなど言いそうにない感じだ。
しかし、何を思ったのか、司会のお姉さんはコンドーを指名した。まぁ確かに子供ではセイウチのチカラで飛ばされてしまいかねないからな••コンドーは小さくガッツポーズをしてステージに上がった。
最後のショーが始まった••
司会者「お名前、教えていただいていいですか〜」
コンドー「大阪から参りました!コンド〜で〜す!」
よりによって、昔少し流行った、近藤正臣さんのモノマネの人が七三分けをかきあげながら「コンド〜です!」ってギャグをこの場でかましてしまった。桂三枝師匠の「いらっしゃ〜い」の類のギャグだ。
司会者「•••コンドーさんですねー。」
会場「シーン」
司会者も会場の人達もまさか、こんな地味な感じの人間が予想外のことをした為に適応できず、コンドーにとって会場はあっという間に地獄絵図と化した。
私の心の中「コンドー••これはあかんやつやで。まだ、知名度の高いガチョーン!とか、アイーン!ならまだしも、昭和でしかも中途半端なギャグをこんなところでやってしもたら••
現に司会のお姉さんも会場もリアクションに困ってしもうとるやないか。
しかも司会者のお姉さん、業務遂行型ガチスルー姉ちゃんやんか。これはもう、プールにでも飛び込んででもしないとどうにもならんで。コンドー••」
司会者のお姉さんがショーを進行させようと色々話し始めたその時、
コンドー「ホンマすんません!大阪人なもんでマイクを向けられるとつい、面白いこと言わないといけないと思ってしまって!あはははは!わたくし!コンド〜で〜す!」
司会者「•••」
私の心の中「まさに戦いを挑んだものの、予想外に強い相手で、なんとか一太刀でも浴びせ、傷跡を残そうとする勇者のようや!コンドー!お前は勇者や!紛れもない真の勇者や!
そこで、思わぬ救世主が現れた。
救世主「ガッハッハ!古いよ兄さん!コンドーです!は。ガッハッハ!」
50代後半くらいのおじさんが、神ツッコミを入れてくれた。よく通る声だったので、会場の人達にも司会者にもしっかり聴こえた。
コンドー「ちょっと古かったですよね!」
コンドーも地獄に仏だと思ったのか、すかさず言った。
司会者「昔のギャグだったんですねー!面白い方ですね!」
司会者姉さん、若干息を吹き返す。
その言葉で会場は、笑いと拍手が沸き起こった。
その後コンドーは、しっかりはなちゃんに闘魂注入してもらい、記念撮影をし、無事ショーは終了した。
コンドーよ••あの神ツッコミをしてくれたおじさんに感謝しろよ。後でお土産屋さんでキーホルダーでも買って、渡しておけよ。
勇者••コンドー tetsuya. @tetsuya0629souya
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