第16話 両手に花...じゃ持ちきれない


 おもちと一緒に町の散策を始めてしばらくした頃、そこそこの穴場スポットを開拓した後のことだった。


 一通のメールが届く。


「ん?」


 EDENのアカウントを通して送られてきたメールの送信主は桃花さんだった。


「もっちゃん、ちょい待って。メール来た」


「ん、分かった」


 どれどれ...と、内容に目を通してみると一度会ってフレンド登録をしておきたい、とのことだった。


 たしかにゲームを進めるにつれて進行度の差で逆に会うのが大変になってしまうこともあり得るし、足並みがそろってる今のうちにフレンド登録しておいた方がいいかも。


「もっちゃん、ちょっと妹ちゃんたちとフレンド登録しに行かないとだ。どうする?」


「んー...いつ?」


「すぐだね。中央噴水広場...まぁ、要は一番最初に飛ばされた広場に集合しようって」


 どうやら杏花さん達ゲーマー女子組が早く進めたくてうずうずしているらしい。さっさとフレ登録終わらせて遊ぶのに集中したいんだろうなって。


「んー...んー...行く」


「珍しいね?どうかした?」


「ダビ君、妹いるって言わなかった。せっかくなら、会ってみたい」


 あー...たしかに、言ってなかったかも。でもリアルの事情だし、最近できた義妹だしで、わざわざ話さんでもいいかなーって思ってたんだけどね。

同じゲーム遊んでたらそのうちばったり会うこともあるだろうから、その時にでも話そうかなって思ってた。


「ってなことがあってね」


 まぁ、集合場所に向かう道中でかいつまんで事情を話す。「...そうなんだ」って言ったきり、他に反応はなかったけど、もっちゃんはリアクション薄いだけで話はちゃんと聞いてくれてる事が多いから大丈夫だと思う。


 ...たまに、マジで1ミリも話聞いてないこともあるけど。



#####



「おっ...?あれかな?」


 サービス開始直後に比べれば幾分かマシになった広場だったけど、それでもいつものメンバーで集まった西区の噴水広場に比べたら圧倒的に人が多い。


 なんとか見つけた少女の集団にもっちゃんがはぐれてないかを定期的に確認しながら近づいていく。


 人数もぴったりだし、何人か『Jardinier』で会った時のアバターに雰囲気が似てる人がいるから多分あの集団のはず...と、向こうもこちらに気づいたようで話を止めてこちらに視線を向けてくる。


 一団に近づくと、その輪から二人の女の子が近づいてきて声をかけてくれた。もっちゃんはついてきてくれてはいるが、俺の背中にぴったりと張り付いて離れない。まぁ、初対面の人と話すのあんまり得意じゃないからね、しょうがないかも。


「えっと...はじめさん、ですよね...?」


 鮮やかなの桃色の髪にこれまた鮮やかな翡翠の瞳、身長などの体格はあんまり変えてないだろうと推測できるからこっちが桃花さんかな。


 そしてもう一人、桃花さんと一緒に近づいてきたのは杏花さんだろうね。彩度薄めの白っぽい桃色の髪に、髪とは対照的に彩度が高いオレンジの瞳。


「うん、そういう君は桃花さんでいいかな?それでそっちが杏花さん?」


 控えめの声で周りのプレイヤーに聞かれないように注意しつつ確認を取ってみる。


「そうです」


「はい!えっと、それで――「あ、その前に」――はい?」


 二人とも後ろに引っ付いてきたもっちゃんが気になっているようで、チラチラと視線をやっては説明して欲しそうにこっちを見てるけど、その前に一つ言っといたほうがいいかな。


「マルチ慣れしてないからしょうがないかもだけど、名前はPNプレイヤーネームでお願いね。多分、注視しようとすれば頭の上に出てくるはずだから」


 この辺かな、と額の上あたりを指さして視線を誘導する。


「あ、はい!分かりました!えっと...堕ヴィンチ=コメル、さん?」


「...堕ヴィンチさん、でいいですか?」


「いいよー。堕ヴィンチでも、ダビでも、堕ヴィーでも、好きに呼んで。そっちは――」


 二人のおでこの上あたりを注視すると、名前が表示される。桃花さんが“百華モモカ”で杏花さんが“AnZ”だった。


百華モモカさんとAnZさんね...これ、読み方って“あんず”でいいの?」


「はい。ところで、そちらの方は...」


 早々に自己紹介を済ませてもっちゃんのことを聞こうとする二人。そんな二人の勢いにもっちゃんも困っているかと思いきや、明後日の方を向いて鳥の姿を目線で追ってた。


「紹介するね。こっちの不思議ちゃんは“まんまるおもち”。よく一緒に遊んでるゲーマー仲間みたいな感じかな。集合すること話したら付いてきたいって言うから連れてきちゃった。んで、もっちゃん...こっちの二人がさっき話した義妹ちゃんたちね」


「ん、よろです。まんまるおもち」


「あ、はい。よろしくお願いします。とう――じゃなくて百華です。こっちが――」


「AnZです。よろしくお願いします」


「とりあえず、他の子も待たせちゃってるから、こっち見て待ってくれてる子達と合流しようか。それで、ちょっと場所変えてもいい?目立っちゃってるからさ」


「大丈夫です」


 というわけで、以前『Jardinier』の庭に案内した時の子達と合流した。


「こんにちはー!」「こんちゃー」「こ、こんにちは」


「こんにちは。さっそくで悪いんだけど、ちょっと場所移してもいい?さっきから視線がいてぇの」


「はーい!...でも、どこに?」


 ミライさん、だっけ...?が賛成してくれて、他の子たちも特に異論はないようで一先ず移動することに。とはいえ、みんな落ち着いて話せる場所の心当たりはあんまりないみたいだ。


「じゃあ、さっき二人で見つけた穴場スポットに案内するか。もっちゃん、いい?」


「んー...しょうがない」


「さんきゅーさんきゅー。というわけで、ついて来て。いい感じにスイーツが美味しいカフェがあったんだよねぇ」


「おぉ!スイーツ!OFTON初スイーツだ!」



#####



 道中で少し話を聞いたところ、先程起動したばかりだったらしい。珍しく学校がお昼で終わったんだとか。


 ついでに軽い自己紹介もお互いに済ませた。


 来栖 未来さん PN:ライム

 蛭間 ゆかさん PN:マヒル

 茂原 常陸さん PN:火太刀ヒタチ

 鷲沢 春姫さん PN:カメリア

 車井 千夏さん PN:リンドウ


 いっぺんに言われたけど、分かりやすいPNばっかりだったから覚えるのに苦労はしなさそうかな。ちなみに車井さんのPNはこの前、俺の庭で見た草花蜥蜴のリンドウから取ったらしい。交配の研究、結構頑張ったからそう言われて嬉しかったね、正直。


「いやーまじでラッキーだよね!リリース開始日にちょうど学校の行事が重なってさ!私、放課後まで待てそうになかったもん!」


「ライム、ずっとソワソワしてたしね。ま、みんなそうだけど」


「だよねー。ハルちゃんとチカちゃんも楽しみにしてたもんねっ」


「う、うん」「えぇ、大勢で一緒に遊ぶマルチ?のゲームはこれが初めてですから♪」


 道中は非常に賑やかなだった。女の子はお喋りが好きな子が多いって言うからなぁ。向こうから話してくれるから話題にも困らないし助かる。


 賑やかな道中を経て、辿り着いたのはさっきいつものメンツで集まった『渡り鳥の憩い場』とは別だ。店の名前はカルム・フィーユ。内装とかを見る感じ、女性客をメインターゲットに見据えてそうな感じがする。


 ...今ふと思ったんだけど、こういうお店の顧客のターゲット層とか決めてるのって運営側なのかな?それともNPCの自発性に任せてあんのかな?


 このゲームのNPCだったら個人の指標に従って経営とかやっててもおかしくなさそうだし、いろんな店をもっちゃんと開拓したけど、内装が使いまわされたりはしてなかったから後者の方があり得そうだなと思う。


「おぉ...いいじゃん!」「まぁ...!」「おっしゃれー」


 反応も上々。席に着くと、さっそくフレンド登録をする。流れでもっちゃんもフレンド登録をしてた。あんまり交友が広いわけじゃないからな...


「? ダビ君、どうかした?」


「保育園の先生とかの気持ちが分かった気がしてね」


 交友広がって良かったね。


「?」


 基本表情筋が死んでるから分かりにくいけど、付き合いが長い連中からしたら分かりやすいぐらいにテンション上がってる。すぅんごいキラキラおめめでフレンド欄をガン見してるもっちゃんとその様子を見て何かを察してる数人の温かい視線...話が脱線しちゃったてるか。


「そういえば、堕ヴィンチさんとおもちさんはもう町の外には出たんですか?」


 カメリアさんの質問に俺たちは否で応える。


「いや、まだ出てないかな。町の中だけで十分楽しめちゃってて出るタイミングを逃しちゃったんだよね」


「お店開拓、楽しい」


 その言葉に少しだけ驚いた様子で百華さんが反応する。


「そうなんですね...てっきりどんどん先に進もうとしてるのかと思って、慌ててフレンド登録をお願いしたんです」


「移動で時間食ったら嫌だもんね?足並みそろってる最初のうちが集まりやすいのは事実だと思うよ。ナイス判断」


「みんなはもう職業に就いたの?」


「はい!とりあえずみんな冒険者にはなりました。この後は装備を見に行こうって話してたんです!」


「いいね。早速町の外に行ってみる感じか」


 この町は最初の町にされているだけあって決して規模が大きいわけではない。もっちゃんとのお店の開拓もかなり進んだし、この後の予定をそろそろ決めないといけない。


 そんな風に考えていると、タイミングよく百華さんからお誘いがかかった。


「それでですね...もしよければ一緒に行きませんか?4人ずつのパーティーを組んだ方が効率がいいってアンAnZちゃんが言ってたので...」


「パーティーって4人が上限なの?」


 百華さんの言葉に引っ掛かりを感じてAnZさんに聞いてみる。


「いえ、上限ではないですけど経験値の効率がいいらしいです。さっき掲示板で情報収集してた時に誰かが言ってました...まぁ、半信半疑ではあるんですけど人数的にもちょうどいいかなって」


「ふぅん、なるほどね」


 さて、どうしたもんか。ぶっちゃけ年下の女の子の中に男一人で孤立するのは嫌だよなぁ...と思っていると、すぐ隣から視線で強めに訴えかけられているのを感じたのでそちらを向く。そちらではもっちゃんが「まさか、一人にしないよね?」と視線で訴えかけていた。


 ...あっ、いいこと思いついた。


「いやーごめんね?俺、まだ職業持ってなくてさ。お待たせするのも申し訳ないし、代わりにもっちゃんを連れて行ってくれないかな?」


「...え?」


 予想外の一言だったんだろう。随分驚いた様子でもっちゃんが先程とは違う種類の視線を向けてくる。


「もっちゃんは確か、もう冒険者になってたよな?」


「ん、だけど――」


 躊躇いを感じさせる声は小さく、伝わりきらなかったようだ。


「おもちさん、ですか?わたしはいいですよ?みんなは――」


「いいよー」「...構わないわ」「う、うん。だいじょうぶだよ」「えぇ、皆さんがいいなら私も大歓迎です♪」


 どんどん固まっていく場の雰囲気にあわあわしているもっちゃん。そんなもっちゃんの耳にこそこそ話をするように口を近づける。


「頼む、もっちゃん。流石にあの中に男一人はキツイ」


「で、でも――」


「それに、もっちゃんいつだったか言ってただろ?友達もっと欲しいって。短い付き合いだけどみんないい子だから、もっちゃんの新しい友達候補として申し分ないと思うんだよな」


「!ダビ君...分かった。おもち、がんばる」


「あぁ!楽しんできてくれ!」


 とういうわけで、もっちゃんを盾になんとかその場を凌いだ。少し悪い気がしたけど、お互いにいい友達になれるかもしれないし、もっちゃんが友達を欲しがってたのも事実だし白一点で華やかなパーティーに入るよりもこっちの方がいいだろう。


 スイーツの代金は俺が持った。ちょっと所持金が心もとなくなったけど、両方に対するちょっとした謝罪も含めてちょうどよかったしな。


「じゃ、ダビ君、いってきます」


「おう、あんまり気張り過ぎるなよー。じゃ、みんなまたどこかであったらよろしくね」


『はーい』


 やる気満々のもっちゃんがなにかやらかさないか少しだけ不安だったけど、装備を買いに行った皆を見送って再び単独行動に戻った。


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