第15話 いつメン集合

 これまでいろんなゲームを一緒に遊んできたいつものメンツで集まっての情報交換の場は“まんまるおもち”こと、もっちゃんが散策中に見つけた雰囲気のいい喫茶店で行うことになった。


 個室に案内されて7人で一つの丸テーブルを囲む。個室自体が十分な広さがあるし、内装も小洒落たものだった。


 細部まで作り込みが凄いなぁ...と感心しながら適当に座る。


「んじゃ、まずは自己紹介からいくか。俺から順に時計回りで。PNプレイヤーネーム:堕ヴィンチ=コメル。よろしくな」


「次は俺か。PN:ベージュ=タブル」


 少年といっても差し支えないほど小柄な男性アバターの正体はGAGでのPNプレイヤーネーム:パプリカ元帥こと、パプリン。


 この世界ではベージュ=タブルというPNにしたらしい...いつも思うんだけど野菜好きなんだろうか?青髪蒼眼の青を基調としたアバターだ。


「はい!次は私ですね!PNはApple Pineappleです!いつもと同じですね!このゲームでもよろしくお願いします!」


 元気はつらつ熱血少女な赤髪黄眼の女の子はApple Pineapple。通称:リンゴ。PNは使いまわしだから覚えやすくていいね。まぁ、人のこと言えないけどさ。


「次、私ですね。PN:シエル=シェールです。今回もよろしくお願いしますね」


 明るい茶髪に橙の瞳、眼鏡で知的さに磨きをかけた外見は見覚えがあるのに見覚えがないという不思議な感覚になる。皆さんご存じ、かわいいかわいい後輩の司だ。


「ん、まんまるおもち。よろ」


 控えめというよりはちょっとめんどくさがりな感じの長身の女性アバターのおもちこと、もっちゃん。


 金髪碧眼でキャラ被りしてるのは事前に教えたらお揃いにしようって言われていたので偶然じゃないな。


 不思議ちゃんと言われることが多いけど、俺から言わせればめんどくさがりちゃんって感じ。


「うふっ♪次は私ね。PNはいつもと同じで漢梅オトメ。いつも通りウメちゃんって呼んでちょうだい♪」


 筋骨隆々な男性アバターでありながら言動の処々に女性的なしぐさが現れるウメちゃん。


 男性のたくましさと女性の繊細さが合わさった心身は最強、というのは本人の談である。


「最後は私だな。ノイマン=D=マリアだ。今回もよろしく頼むよ」


 褐色の肌に映える銀の長髪を靡かせて優雅に紅茶を嗜む姿はいやに画になっている。無二の相方、造里。このゲームでも一緒に暴れてやろう。


「よし、じゃあ早速情報交換といくか!誰から話したい?」


「はい!私からでいいですか!?」


「じゃ、リンゴから」


 元気自慢の子がいるとこういう時に助かる。最年少だからみんな可愛がりがちだし、メンバーの潤滑油一号だな。


「私は職業について調べてみました!

 人が多すぎて人ごみに流されちゃったので、詳しい場所は分からないんですけど、周りの建物よりも2階分くらい大きな建物に入ると冒険者ギルドになってました!

 そこでは冒険者と、えーっと...他にもいくつかの職業に就けるようになってました!私も取り敢えず冒険者になりました!

 10分ぐらいおじさんの話を聞かないといけないみたいです!以上です!」


「ほいほい、さんきゅー。なんか補足とかある?」


 見回して質問を投げると、ベージュ=タブル...言いにくいな、ベージュでいいか。ベージュが雑に手を挙げて情報を追加してくれた。


「俺も冒険者になった。他に職業講習をやってたのは剣士とかの近接系と狩人とか罠師とかのサバイバル系だったな。

 受付嬢NPCの話じゃ、冒険者はそれぞれの職業の一部の能力が使える器用貧乏タイプらしい。

 あと、知り合いが剣士になるために講習を受けたらしいが実技訓練チュートリアルがあったって言ってた」


「なるほどね。他は?」


「いいかな?」


「頼んだ」


 次に手を挙げたのはノイだ。ノイはどうやら魔法職について情報を集めていたらしい。


「魔法系の職業に就くために必要な手順の一つは恐らく弟子入りだろうね。

 住民に聞き込みをしてみたところ...魔法使いの弟子、いわゆる見習いがNPCの中にもいるみたいだ。

 推測だが、その見習い君たちを伝手として本職のNPCに弟子入りするのがメジャーな方法になるんじゃないかな」


「そういう言い方をするってことは他の方法も見つけたんですか?」


 シエルの発言にノイは鷹揚に頷いて続けた。


「この町には図書館があるらしくてね。そこには魔導書の類も所蔵されているとのことだ。

 まだ図書館への入館を許可されていないから如何いかんともし難いが自力での習得も可能だろうよ。習熟度などには個人差が出るかもしれないがね」


 職業を取得するために複数の手段が用意されているのは、昨今のゲームではよくあることだ。


 同じ職業と思わせておいて別職の可能性もあるし、分担して習得を目指すのもありだな。


「職業系はこれぐらいか?じゃあ、次に話したい人ー?」


「じゃあ、あたしが話してもいいかしら?」


「うん、ウメちゃんどぞー」


「あたしは市場を中心に見て回ったわ。東の方に大きめの市場があったの。

 残念ながら品揃えはまだまだだったけど、プレイヤーが出店することも出来るらしいわ。

 そのためには商業ギルドへの登録と商人系の職業の取得が必須なようね」


「もしかしたら流通系のクエストがあって、それを受けると品ぞろえが充実したりするかもな」


 定番っちゃあ定番だな。流通がモンスターのせいで止まったり、この街の周辺で立ち往生してる行商人がいたりとか、ありそうだ。


「そういえばギルド系ってのは現状幾つ見つかってるんだろうな?」


「えっと...冒険者ギルド、商業ギルド、あとは――」


「ギルド、という呼称ではないが教会勢力も似たようなものと考えていいだろうな。もっともかなり細かく枝分かれしているみたいだが」


 ノイに続くようにもっちゃんも補足する。


「近衛兵、的な」


「もっちゃんの言う通り、町や都市ごとの防衛組織もギルドみたいなもんか」


「あの!そもそもギルドって何ですか?いまいち分かってないです!」


 話の中でリンゴがギルドの定義について尋ねてくる。これまでに出てきた組織とそこに所属している人たちから考えれば、おそらく...


「簡単に言うと、NPC由来の組織全般のことだろ。逆にプレイヤー由来の組織はクランってやつだ。事前情報通りならな」


 ベージュの言う通りだろうな。事前情報でクランについて少し触れられていたのは、この明確な線引きのためだったのかも。


「じゃ、つぎー」


 次に話し始めたのはもっちゃんだった。


「ん、クランまだ作れないって」


「そうなんですか?解放条件があるとか?」


 シエルの質問にもっちゃんは端的に返す。


「どこかのギルドで評価爆上げ、だって」


「一定以上、評判とかの隠しステ稼がなきゃならん感じか。もっちゃん的オススメは?」


「冒険者。いろいろあるし...」


 いろいろってのはクエストの種類のことだろうな。冒険者って万事屋みたいなイメージあるし。


「ま、妥当だよなぁ。他なんか言っときたいことある?」


 みんなを見てみるが結構情報は出しつくしたっぽいな。


「じゃ、最後に俺ね。さっきの西区噴水広場の近くにあった小規模な教会で牧師さんからこの世界の歴史?神話?的なのを聞いてきた。

 あとは簡単な地図は手に入った」


「地図あったのか...で、その神話ってのは?」


 伝え聞いた内容を簡潔にまとめてみんなに話す。ついでに地図についても入手経緯を説明した。


「ふむ、堕ヴィ、その牧師さんとやらと親しくなったのであればステータスのAPPの数値に変化があったんじゃないか?

 APPはプレイヤーの行動準拠で変化していくはずだが...」


 ノイの言葉は俺も気になってたことなので、アルベール牧師と別れてすぐに確認はしていたんだが、変化はなかったんだよな。


「いや、数値に変化はなかったな。NPC一人の好感度じゃ数値の上昇には不足してたか、種族あるいは職業レベルの上昇時にステータスが反映されるシステムなのか――」


「...そういえば、ステータスってどうやって上げるんでしょう?レベルアップごとにポイントを貰って割り振るタイプなんでしょうか!?」


 リンゴの質問に答えたのは話を聞きながらメニュー画面を弄っていたノイだった。


「...いや、今公式サイトに併設されている掲示板を流し見したが、どうやらプレイヤーのステータスはレベルアップ時にそれまでの行動から計算してAPP以外の項目に一定量が自動で割り振られるシステムのようだ。

 事前情報ではAPPのみ告知されていたが、まさか全項目そのシステムを導入するとはね」


「APP、不思議...」


「もっちゃんの言う通り、APPの扱われ方だけ違うのはちょい気になる部分ではあるよな。まぁ、その特性上仕方ない部分もありそうだけど」


 もっちゃんの呟きの通り、APPだけちょっと特別なのは引っ掛かるね。


 いわゆる好感度の可視化ってだけなのか、他にも狙いがあるのか...まぁ現状じゃわかんないんだけど。


「ひとまず、現時点での情報は出そろったようだし、堕ヴィくんが貰ったていう地図を見せてもらってもいいかしら?他に地図を手に入れた子はいないようだし」


「そうなのか?冒険者ギルドとかでも簡単な地図はもらえなかったんだ?」


「そうなんです!聞いてみてもダメでした!」


「じゃあ...ほい、マップの全体公開、できてるか?牧師さん曰く、建物配置は最新のものになってるらしい。ただ、何処になにがあるかは記述されてなかったからな。

 書き込んである部分はざっと町中を散策して必要そうな施設を抜き出してみた」


「うわぁ...!凄いです堕ヴィンチさん!まだ初日なのにこんなに書き込んであるなんて...!」


 リンゴの言う通り、散策してる途中からなんか楽しくなっちゃっていろんな情報を書き込んでしまったため、だいぶごちゃごちゃした地図になっていた。


 まぁ、書きこんだ情報は任意で表示非表示が選択できるからさっぱり消すこともできるし、邪魔にはならないだろ。


「貰った地図をインベントリに仕舞ってからメニューのマップを更新してくれ。一つしかないから一人ずつ順番な」


 流れ作業で地図を更新すると、全員にマップ情報が行き渡ったあとに本体を受け取り、インベントリに保管してこの地図の扱いについて話し合うことになった。


「とりあえず、言いふらしたりはなしで頼むな。まだこの情報の重要性が確立されてない以上、迂闊な情報公開は面倒事を引き起こす可能性もある。

 さっき話した宗教関連の話もあるし、NPCに教えるのも基本的には遠慮しといてくれ。ただ、親しい友人とか信用できそうなNPCへの判断は任せる」


 引き継いでノイが話を続けてくれる。


「地図に関してはこんなものだろう...それで皆は結局どのようなビルドで遊ぶつもりなんだ?」


 ノイの言葉で話題は今後の遊び方の話に移っていく。最初に答えたのはまたしてもリンゴ。


「はい!私はたくさん身体を動かせそうなのがいいです!」


「そうなると、戦闘職だろうな。

 職業によっては使いたい武器が使えない、なんてこともあるかもしれないから。

 そこだけは注意した方がいいかもしれん」


 リンゴの志望は分かりやすい。ベージュが言った通り、戦闘職が一番身体を動かすだろうからな。逆に生産職は選ばない可能性が高いわけだが。


「そう言うベジットさんはどういう職業に就きたいですか!?」


「ベージュ=タブルな。んー...しばらくは冒険者だけかもな。

 まだ情報が出揃ってねぇし、せっかくならユニーク系で遊びたいな、とは思ってるけど。あ、でも基本戦闘系しかとらないと思うぞ」


「ふむふむ...」


「もち野郎は?」


「む、ベーちゃん。わたし、もち野郎じゃない。まんまるおもち」


「別にいつものことだろ?いい加減諦めろ。あとベーちゃん言うな」


「むー...わたしはテイマー系が、いい。あったら、だけど」


「良いわねぇ、可愛いモンスターちゃんたちとの触れ合い♪私もそっち系にしようかしら?」


 ウメちゃんの発言にシエルがさらっとツッコむ。


「ウメちゃんは脳筋系選ぶと思ってました...」


「うふ♪そっちも捨てがたいけどねぇ...でもメインは生産系でお洋服とか作りたいと思ってるんですもの。どちらにしても戦闘はサブになると思うわ」


「おぉーなるほど、防具系の生産職ってことですね?身内に生産職いると融通利いて助かります」


「そういうシエルちゃんはどうなの?どんなふうに遊びたい?」


「私は無難に魔法系ですね。できれば魔法コンプとかしてみたいです」


「あら、いいじゃない!」


「ノイ先輩はどうです?私と同じ感じですかね?」


「そうだな、戦闘は私も魔法系になるだろうが...うーむ、まだ決めかねるな。私もベーちゃんと同じくある程度情報が出揃ってから方針を決めることになるだろう」


「ベーちゃん言うなっての...それで?お前はどうすんの?」


 ベージュから向けられた言葉と全員の視線が自分に向けられたのが分かる。だから自信満々に言い放つ。


「全部」


 呆れのため息か苦笑いか、あるいはシンプルな憧憬のキラキラお目めか...三者三葉、十人十色の反応だった。


「あほ」「まぁ...そうかな、とは思ってましたけどね。先輩ですし」「欲張りさん♪」「凄いです!流石ダヴィンチさんですね!」「ダビ君、おばか?」「ま、なんとかするんだろうさ、君なら」


「ま、でも今のままじゃ机上の空論だからな。とりあえず器用貧乏な感じで情報収集しつつ考えていくわ。何種類かビルドを保存できればいいんだけどなぁ」


「んな機能在ったらゲーム壊れるだろ、あほダビ」


「ま、あったとしてもユニークアイテムとか、相当貴重なものだと思います」


 その後は、わいわいがやがや個室の使用時間までギリギリまで話し込んで今後の方針を決めた。


「とりあえずは各自楽しく遊んで、必要なときとか暇なときに声かけて集まる感じで。フレ登録は全員済んだか?」


「バッチリです!」


「よっしゃ、じゃ今日は解散するかー」


 その言葉を皮切りに各々で動き出した。いつでも集まれるからな、このぐらい自由な感じが俺達らしくていいな、と思う。


「シエル、図書館に行くぞ。どうにかして入館証を発行してもらわなければならない」


「え?聞いてないんですけど...もー、ノイ先輩!もう少し後輩を労わってくださいよ!」


「異なことを。後輩は使い尽くしてこそだろう?」


「リンゴちゃん、良ければこれからデートに行かない?商業ギルドの辺りをもう少し見て回りたいのよね」


「行きましょう!...あ、ウメちゃんさん!冒険者ギルドにも寄っていいですか?!私、早くクラン作りたいです!」


「うふふ♪もちろんよ!ついでにあたしも冒険者になっちゃおうかしら?」


 ノイとシエルは図書館に行くことにしたらしい。リンゴとウメちゃんは街の散策の続き。


 ベージュは何も言わずにさっさと行っちゃったけど、後ろ姿からワクワクが隠せてなかったから多分、町の外に出に行ったんだろうな。


 ああ見えて結構、戦闘狂バトルジャンキーなところあるし。


 そんな風にみんなの様子を見ながら次の予定を立てようとしていると、おもちから声をかけられる。


「ダビ君」


「ぬ?どしたの?もっちゃん」


「いっしょ、行こ?」

 

 デートのお誘いだった。


「お、いいよー。ちょうど話し相手欲しかったところなんだよね」


「ん」


「どっか行きたいとこある?」


「お店開拓」


 できれば町の外も見てみたかったけど、もっちゃんの提案も捨てがたい。そっちの方が面白そうだし、開拓しちゃうか!


「いいねーこの町の穴場スポット探しつくしちゃうか」


「ん、家具、見たい」


「クラン用の?ちょっと気が早いんじゃない?見るのは全然いいと思うけど、買うのは保留かな」


「...どうしても、ダメ?」


 女性にしては長身のアバターとはいえ、さすがにこちらの方が身長が高いからな。不思議少女の上目遣いは破壊力抜群だ!


「この町以外でも一目惚れする家具とか見つかるかもしれないじゃん?」


「!たしかに...!」


「予約とか、取り置きとかしてもらえるならありかもだけどね」


「行こ」


 昂揚を隠しきれずに早足で進むもっちゃんに手を引かれて、町の散策を再開した。気分は休日に連れまわされるお父さんだな。


「ほいほい」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る