恋文~文字に心染め流し~

幽美 有明

はじめての手紙

 拝啓、貴方様。

 お慕い申し上げております。やはり言葉にすると恥ずかしいものでございますね。初めて書く手紙に何を書けば良いのか、よくわかっておりません。季語を入れた方が良いのかとも思いましたが、季語がなんなのか分からないのであきまめました。


 貴方様は今をどうお過ごしなのでしょう。遠くにいる貴方様のことがよく分からずら、心配になる時もあるのです。ちゃんと食事をしているか、寝れているか、辛いことは無いか。それと、私に会いたいのかとか。


 私は貴方様にとても会いたいと思っております。思うだけで行動に移せぬ我が身を、恨めしくも思うのです。千里より遠い距離が私たちの中を引き裂いておりますから。心だけでもおそばに置いて欲しいと思い、手紙を書いてみようと思ったのです。手紙に心がやどるかどうか分かりませんが。この手紙を私だと思って大切にしてくださると私は嬉しゅうございます。


 暇だから手紙を書いているのではありませんよ。時間が出来たのでちょうど良いと思って書いているのです。手紙を書いている今はずっと貴方様に手紙を書きたいと思って書いているのですから。暇だからなどとは違うのです。言い訳なんかでは無いのです。


 貴方様は時折意地悪ですから、困ってしまうというか。そういうところも好きなのですけど、気が気ではないというか。ソワソワしてしまうのです。そんなつもりでは無いのにと、思ってしまうのですよ。先程の言い訳も、貴方様なら「暇だから書いてたんじゃないか」などと言いそうだから言い訳したのです。困らせるのは私だけにして欲しいものです。私のことはどれだけ困らせても構いませんから、他の人に意地悪をなさらないでください。嫉妬してしまいます。貴方様ならもうおわかりのはずです。


 そういえば私の近況も書いた方が良いのですよね。私は、日々をつつがなく過ごしております。激しく動くことも無く、風がなぐように。穏やかな日々です。体調が悪くなることも、しばしばでございますが。ご心配には及びません。多少の体調不良は慣れたものですから。


 それでも、貴方様は心配してくださるのでしょうね。私が貴方様を心配なさるように。頑張っている貴方様を労って差し上げたい。膝枕ですとか、ぎゅっと抱きしめたりもしたいのです。次に会えた時にはして差し上げますね。楽しみにしくださると嬉しいです。


 好きです、愛しております。身も心も貴方様のそばに居たい。身も心も貴方様のものだと教えてください。私は望んでおります、貴方様のものになることを。早く早く会いたいのです、貴方様に。貴方様の腕に抱かれて、貴方様の匂いにつつまれて居たい。それだけで幸せなのです。幸せで堪らなくなってしまいます。早く貴方様に会えることを心待ちにしております。


 敬具、貴方様を愛する私より

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恋文~文字に心染め流し~ 幽美 有明 @yuubiariake

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