第39話 逃げた勇者
『フリズドウルフ!』
ベルトを押し込むと。狼の形を模したクリスタルのアーマーへスタイルチェンジする。
「フリズドウルフ……?」
キャプチャーした相手をデカルトは怪訝そうに見つめると、「なんだ」と鼻で笑った。
「なにかと思えばフリズドウルフか。確かに水よりは攻撃力高い。だけどね? 氷魔法は所謂物理攻撃。影は凍らない」
「はぁっ――!」
一気に詰め寄るデュアルだが、避ける価値もないとデカルトは余裕の表情で彼の攻撃を受け止める。
シャドウスケルトンに氷魔法は効かない。どれだけ攻撃しても無意味なのだから。
――だが。
「ぐあっ……!?」
デュアルの攻撃を受けた瞬間……シャドウスケルトンの身体は、大きく後方へ吹き飛んだ。
「バ、バカなっ!?」
ありえない。
フリズドウルフは対象物を凍らせるスキル。だが、実態のないシャドウスケルトンにそのスキルは通用しないはずなのだ。
――そのはずなのに!
「うぐぁっ!?」
「ほら、さっきまでの威勢はどうしたぁ!?」
――あ、当たっている!
鋭い突きも蹴りも、すべて命中しているのだ。
「な、なぜだ!? シャドウスケルトンに氷魔法は効かないはずなのに……!」
「おいおい。さっき自分が何を受けたのか、よーく思い出してみろよ」
「さっき……?」
ショウの諭すようなアドバイスにハッと思い出す。
ウォータータウロスの斧の一撃。
「ま、まさか……!」
逃げずにまともに食らったシャドウスケルトンの体中には、じっとりと水が滴っている。
「まさか――この水を凍らせて、攻撃しているというのかっ!!」
――やばい!
慌てて引き返そうとする魔人だが。
「逃がさねぇよ!」
「なっ……!?」
足が動かない。
いつの間にか地面が凍っていて、シャドウスケルトンの足は固定されているのだ。
「アル、決めるぞ!」
「よっしゃ!」
『アルティメットチャージ!』
ベルトを押し込み、エネルギーチャージ。
「「おぉ――らぁぁぁぁぁっ!!」」
「うがぁぁぁあああっ!」
飛び上がったデュアルの両足は――狼の牙。
牙に勢いよく挟みこまれたシャドウスケルトンは大きく吹き飛んだ。
「ふぅー……間に合った、か」
ダメージを受け、デカルトの姿へ戻る。
シャドウスケルトンのコアは真っ二つに壊れていた。
***
「――お前、自分が何しようとしてたのかわかってんのか?」
「…………」
戦闘が終わり、地べたに座り込むデカルトにショウは腕を組んでいた。
「……復讐して、なにが悪い」
如何にも怒りを表してる彼に、小さな手が震える。
「君もまた、『復讐は何も生まない』なんてこと吐く奴か。『もう済んだ話』? 『平和に暮らせば幸せ』ってか? ……ふざけんな! 僕のお父さんはもう死んだんだ! 何をしたって帰ってこないなら――復讐した方がいいじゃないかっ!」
その瞳に光はない。
どす黒い感情と殺意に満ち溢れ、少年らしからぬ雰囲気を漂わせている。
そんなデカルトに、ショウは――
「――勘違いするなよ。復讐に関して俺は賛成派だ」
「……え?」
彼の衝撃的な発言に、思わず目を丸くする。
「俺が怒ってるのはな。お前が魔神と同化して、いずれ人の手で殺されてしまう可能性を怒っているんだ」
「…………」
「復讐するのに、自分のことを不幸にしちゃダメだろ。復讐するなら、気持ちよくざまぁだ」
「ざ、ざまぁ?」
「そう、ざまぁ。相手を絶望の底に陥れて、ウルトラハッピーエンドだ」
「……お兄さん。僕より悪役が似合うね」
堂々と言い張るショウを見て、デカルトはようやく微かな笑みを浮かべた。
「ところでちょっと聞きたいんだけどさ……お前のそのコア。誰にもらったんだ?」
いよいよ本題。
「シャドウスケルトンはBランクモンスターのコア。そんなもんの、並みの冒険者が……ましてやお前みたいな子供が持ってるわけないよな?」
「…………」
問い詰めるショウにデカルトは黙りこんでいたが、観念したかのように口を開いた。
「……わからない。フルアーマーの装備で。頭には鼠色のローブを羽織っていたから。どんな人かも分からないんだ」
「……そうか」
「ただ……声からして、女性だったと思う」
「女性……か?」
――ヒロインにそんな奴いたっけな……?
「その人が教えてくれたんだ。本当は勇者たちがお父さんを殺したということを」
「あー……まあ、確かにあいつならできそうではあるけど。さっきあいつが言ってたことなんだが、冒険者って命がけの仕事なんだ。もし自分が死んだらと思って撤退するのは、間違った判断じゃないぜ」
「違う、そうじゃない」
だが、デカルトは折れなかった。
「その人に見せてもらったんだ。もしも勇者達が挑んでいたらの未来、を」
「あ? 見せてもらった??」
そんな能力……見たことも聞いたこともない。
所謂パラレルワールド的なビジョンを見せてくれる能力なのだろうが……そんな芸当、この世界のキャラクターにできるわけがない。
出来るとしたら、セーブデータをいくつも小分けしてルート分岐できるプレイヤー側だけであって……
「あと……お兄さんは勘違いしてると思うんだけど、さっきの言葉は比喩なんかじゃないよ」
「……え?」
「勇者たちがお父さんを殺した――そのまんまの意味だよ。あいつらは父さんを囮にして逃げたんだ」
***
「――やめてください!」
ショウたちが街に戻ると……ギルド内でちょっとした騒ぎが起こっていた。
「離してっ!」
「おいおい……どうしたんだよ、アリア。俺たちの仲だろ?」
「お、なんだ?」
「あれ、勇者じゃね?」
「えっ、なんでアリアと揉めてるの?」
「さあ、わからん」
ギルドでは嫌がるアリアの手首を掴むスカイの姿。
「――ちょいちょいちょい!」
慌ててショウがその間に割って入る。
「何やってんの、お前?」
「ショ、ショウさん……!」
「……!!」
スカイから引き剝がすショウの後ろに隠れるアリアを見て――彼の顔が歪んだ。
「あぁ……そういうことかぁ……」
およそ勇者と呼べないような表情を浮かべ、ギラギラとした目つきでショウを睨む。
「やっぱりお前なんだな、ショウ? お前が全部……全部全部全部持っていくんだな?」
「……あのさ」
「お前は全部持ってていいよなあ……暢気にこの街で暮らせるし、帰ったら迎え入れてくれる家族もいる。【勇者の加護】なんかなくたって、慕ってくれる女性もいるしさ。俺が持ってない幸せを、お前は……お前はぁぁぁっ!」
「――!」
スカイが剣を抜いた。
そして一瞬で肉薄するとショウの生首目掛けて一閃。
「「「――っ!!」」」
誰もが……ショウの首が飛ぶ光景を予想した。
だが。
「……なっ!? それ、は……!?」
「ふぃーっ……お前たちが何もせずに逃げ出してくれて、助かったよ」
スカイの剣を弾いたのは……白銀の盾。
古代文字が描かれたそれは、まさしく――
「勇者の、盾……!」
あらゆる攻撃を弾くことができるという、勇者の盾。
そう……これはデカルトに手渡されていたものなのだ。
ショウは最強の盾を目の前に掲げると……床に転がす。
「おい。これをくれてやるから、今日のところは退け」
「……!」
「ショ、ショウさん……!?」
アリアが驚くのも無理はない。
なんていったって、あの伝説の『勇者の盾』なのだ。そう易々と与えていいものじゃない。
「…………」
スカイはショウを憎らしげに睨むと……床から盾を拾い上げる。
「お前は……お前は、いいよなあ……」
「……スカイ」
何か言いかけたショウの言葉を無視し、スカイは項垂れながらギルドから出ていった。
序盤で死ぬ最弱の幼馴染に転生してしまったので、最強の裏ボスと力を合わせて【変身】する 恋2=サクシア @koi2-writer
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