第38話 決定打を見つけろ

「で。どうすんだ?」

「ああ、まずはリーリアに炎系の魔法を打ってもらう」

「……いいのか? 洞窟内だぞ?」

「抵抗できずに死ぬよりマシだろ」


 ショウの覚悟にアルダートも「それもそうだな」と納得する。


「おい、赤髪の女! ようやくお前の得意な炎魔法の出番………………って、いねぇ!?」

「うそぉん!?」


 アルダートの叫びに慌てて振り返るが、本当に三人の姿はどこにも見当たらない。

 どうやら逃げるという言葉を真に受け、全速力で逃げてしまっていたようだ。


「おいおい――おいおいおいおい!」


 予想外の実態に、流石のショウも頭を抱える。


「ちっ! マジで最後まで使えねぇな、あの無能どもがぁ!」

「この計画の中で一番の例外は君だ、ドラゴンライダー」

「――!」


 と。

 追ってきたデカルトが鎌を振り上げる。


「君さえなければ、さっきの時点で勇者達を倒せたんだ――けどね!」

「あぶなっ!?」


 軽やかに飛び上がり、鎌の軌道から抜ける。


「どうすんだよ!」

「それを今考えている!」


 シャドウスケルトンに一番有効なのは光系の魔法だが……光魔法を持っているモンスターは、この洞窟にいない。炎魔法なんか尚更だ。


 ――それなら。


「おっと!」


 後ろから迫る鎌を寸でのところで躱した。


「おいショウ! どんどん詰められてきてるぞ!」

「そりゃシャドウスケルトンは暗闇の移動を得意とするモンスターからな。この洞窟内じゃ、あいつの方が速い」

「じゃあよ、このまま真っ二つにってことか!?」

「――いや。逃げる必要を無くせばいい」


 逃げるショウは、とあるモンスターを見つける。


「ありがとな」


 ナイトキャットをコアから解放すると――全身クリスタルのゴーレムへ手をかざした。


「【キャプチャー】!」

『マジックゴーレム!』


 新たなモンスターのコアを嵌め込み、全身クリスタルのパーツへ変化させる。


「もう逃がさないよ」


 とうとう追いついた魔人がデュアルの体に鎌を振り下ろしてきた。


 ……が。


「なっ――!?」


 鎌はデュアルを切り裂くことなく、はじかれてしまう。


「そっちが物理特化なら……こっちは魔法特化だ!」


 マジックゴーレム。魔法石の体を持つこのモンスターには、魔法が効かないという特性を持っている。


「おらぁっ!」

「くっ……!?」


 両腕を振り下ろし地ならしすると、シャドウスケルトンの体がよろめく。


 ――まあ、根本的な解決になってないんだがな。


 確かにマジックゴーレムは魔法攻撃に強いが、あくまで攻撃方法はゴーレムと同じ物理攻撃。


 つまり、どちらとも攻撃を受け付けない泥沼状態となっているのだ。


 ――とりあえず、これで時間は稼げる。次は……。


「――アル、下がるぞ」


 鎌を捌きながら一歩、また一歩下がっていく。


 ――次は、こいつだ。


「力、貸してくれ! 【キャプチャー】!」

『ウォータータウロス!』


 洞窟の水場に生息するミノタウロス……ウォータータウロスをキャプチャー。

 エネルギー剣にコアを差し込むと、剣先が水で形成されたものへと変化する。


「おらっ!」

「っ……!」


 デュアルの一撃は、物理特化の魔人にも効いた。


「水魔法の攻撃か……だけど、攻撃力は低いね!」

「知ってるよ」


 そう、このまま足止めできればいい。決定打をここで作らなくても。地上に出れば――


「『地上に出れば、こっちの勝ち』――なんて、思ってたりしてる?」

「――!」


 まるで思考を読むかのようなデカルトの口ぶりに、デュアルの体が強張る。


「そうはさせない――よ!」

「なっ……!?」


 シャドウスケルトンの鎌が振り払われる。

 もちろん。マジックゴーレムスタイルになっているデュアルには効かないが……彼の目的はそこではない。


「……!」

「意趣返し、だよ」


 魔人の一撃により……デュアルが向かおうとしていた通路が、岩石で封じられてしまったのだ。


「このままこの洞窟を抜けてプライ森林に逃げようと考えてたみたいだけど……そうはいかないよ」


 ――くそ!


「こっちだ、アル!」


 退路を断たれ、ショウは別の道へ突き進む。


「ほらほら! 地上に逃げないと!」


 魔人の攻撃は止まらない。鎌を振るい、的確に通路を潰していく。

 なんとか凌いでいった二人だが……アルダートはとあることに気づいた。


「おいショウ! これ……地下に潜ってねぇか!?」


 そう――入口へつながる通路は断たれてしまう為、ショウたちは地下へ向かう道にしか移動することができないのだ。


「ジャハダ洞窟には光魔法も炎魔法のモンスターもいない。そうなれば君たちに勝ち目はない」

「――この、野郎!」


 勝ち誇るデカルトに、アルダートは剣を振り抜く。


「アル、落ち着け」


 が、それをショウが宥める。


「でもどうすんだよ? このまま泥沼試合にするつもりか?」

「いや――そんなことはしない」


 ――頃合いだな。


 と、ショウはくるりとシャドウスケルトンへ背を向けた。


「方法はたった一つ――逃げるんだよ!」

「なっ!?」


 まさかの選択肢に、アルダートさえも驚愕する。


「――バカが! そっちに逃げたところで、地下にしか行けないんだよ!」


 そんなデュアルの姿を見て、デカルトは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。


「おい、てめぇ! このまま逃げ切れるわけねぇだろうが! なに考えてやがる!」


 すかさずアルダートが文句を言う……が。


「大丈夫だ、アル。


 ――見つけた!


『エネルギーチャージ!』

『ウォータータウロス!』


 グリップを握り、強烈な水の刃をシャドースケルトンに撃ち放つ。


「ぐ、ぅっ……!?」


 デュアルの一撃は、見事シャドウスケルトンに当たるものの……まだ倒し切れてない。


「はっ、ようやく諦めたみたいだね」

「諦めた? ……いや、違うね。辿


 そう……ショウが向かっていたのは出口なんかではない。

 むしろこの地下にこそ、決定打は存在していた。


「二人ともありがとな」


 マジックゴーレムとウォータータウロスを解放し……地下にいたモンスターへ手をかざした。


「【キャプチャー】!」

『フリズドウルフ!』

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