「ユキちゃんってさぁ、恋人できたらどんなことされたい?」
「こ、こぃっ!!?」
とある日の夜。
メンバーが部屋へ戻った時刻のこと、Rui子の部屋へ遊びに来てたユキは唐突すぎる問いをかけられていた。
「い、いきなりなに言い出すの!?」
「いやぁ……今日さ、買い物途中でカップル見かけたんだ。やけにイチャついてるカップルが」
「あー……」
割りと珍しくない光景だ。
RROの世界に閉じ込められて既に5年は経っている。ゲームクリアする間に人間関係が変わってることだって不思議ではないだろう。
「いや、ボクは別にいいんだけどね? 手繋いだり、ハグしてみたり……キスなんかもしてたんだよ」
「キっ……キ!? 人前でチューしてたの!? な、なんてハレンチな!!」
キスをチューって言い換えるユキちゃん、可愛いな――なんて考えつつ、Rui子は「まぁまぁ」と手で制す。
「キスはともかく、恋人にされたいことってあるじゃん?」
「うー……それは、まぁ……」
「だから、ユキちゃんはノインくんになにしてほしいのかなぁって」
「な、なななんでノインさんになるの!!?」
「あ、間違えた。ユキちゃんは恋人になにしてほしいのかなぁって」
「そんな言い間違えないよね!? っていうか、ノインさんのことなんてなんとも思ってないし!!」
――ユキちゃん、それで隠せててるつもりなんだ……?
Rui子から……いや、今までユキと関わってきたプレイヤーから見ても、明らかに彼女のノインへの矢印は見え見えである。
「で、で? ユキちゃんは恋人ができたらさ、なにしてほしい?」
「い……いやいやいや! 私たちの目的はゲームクリア! 恋人なんか作ってる暇なんてないし、そもそもそんなのに憧れてないし!」
「ふぅん……?」
頬を赤らめてそっぽを向くユキだが……その動揺が隙を作った。
「じゃあ、さ」
「へっ――えっ、ちょっ!?」
Rui子の目がキラリと光ったと思いきや、彼女の身体をベッドに押し倒してきたのだ。
「こうされたらドキドキしちゃうでしょ?」
「なっ……!」
大胆すぎる行動をされ、ユキの顔が更に赤くなる。
「し、しない!」
「えぇー? 本当に?」
「別にドキドキしないもんっ!」
「嘘はよくないよー、ユキちゃ――」
と。
頑なに否定するユキを見て、Rui子がニヤリと笑い……そっと耳に口を寄せる。
「ユキ先輩♪」
「な、ぁっ……!!?」
ただ呼び方を変えただけ。
それだけなのに、ユキの反応は明らかに変わっていた。
「な、なんでノインさんみたいな呼び方するの!?」
「んー? こっちの方が好きだろ、ユキ先輩?」
「真似しないで! 口調まで真似しないで!」
「どうしてだ?」
「どうして、って……!」
そんなの……決まっている。
ユキはノインのことが――
「先輩、ユキ先輩」
「ひんっ」
「先輩、可愛い反応するんだな」
「やめ、やめてくださいぃっ……!」
「やめてほしいのか? でも嬉しそうだぞ?」
「嬉しくないですってぇ……!」
彼女は気づいてない。
いつもはタメ口のRui子に対して敬語へ変わっていることに。
「せーんぱい」
「な、なんですかっ!?」
「先輩の鼓動、早くなってるよな?」
「んにゃっ……!!?」
と。
Rui子がユキの胸に手を当てる。
彼女の指摘通り、ユキの鼓動は自分でもわかるくらいまで高鳴っていた。
「なぁ先輩、どうしてなんだ? ん?」
「~~~っ!」
――わ、わかってるくせに!
ニヤニヤと笑うRui子を睨み付けるが、そんなのが効くわけがない。それどころか、ますます楽しそうである。
――お、落ち着け……目の前にいるのはRui子ちゃん。ノインさんじゃない、ノインさんじゃない、ノインさんじゃない……!
「先輩、好きだ」
「っ!」
「真剣に戦ってるところも」
「ぅあっ」
「頑張ってリーダー務めてるところも」
「あぁっ!」
「全部知ってるよ、先輩の魅力。この世界の誰よりもな」
「く、ぅうっ!」
だが、相手はRui子。ユキが言ってほしいことなど把握済みであり、彼女の気を緩ませることなど、赤子の手をひねるようなものだ。
「先輩、こっち向いて」
「い……いや。いやですっ!」
「どうして?」
「どうしてもですっ!」
「俺は見てほしいんだけどな……そんなに嫌なのか?」
「う、ううぅっ……!」
寂しそうな声を聞き、ユキはゆっくりと顔を向ける。
そこにはじっと見つめてくるRui子の顔があった。
だが、ユキには別の男の姿にも見えていた。
「ユキ先輩。本当はあるんだよな、してほしいこと」
「は、はいっ!?」
「俺は知ってるぞ。βくん……じゃなかった、βとマイがよくやってることだ」
「そ、それって……!」
あの二人で思い当たることなど……一つしかない。
「先輩、目閉じて」
「な、なんでですか!?」
「わかってるくせに。今からなにするのかって」
「なっ、なっ……!」
「ほら早く。目、閉じて?」
「はぁっ……はぁっ……っ!」
息が荒くなる。
今にも破裂しそうなくらい心臓を高鳴らせ、ユキはぎゅっと目を瞑った。
そっと右頬に手が添えられる。視界を遮断した今、触れられる感覚が研ぎ澄まされていて、それだけでビクリと反応してしまう。
やがて顔が近づく気配を感じ……そして。
「えいっ」
「ぁぃたっ!!?」
突然おでこに走る衝撃。
思わず手で抑えると、そこにはデコピンの構えをしたRui子が満面の笑みを浮かべていた。
「はい、ボクの勝ちー! ユキちゃん、なーにその気になってんのさ!」
「なっ、なっ……!」
「それにしても……ちょっとチョロすぎない? ボク、ユキちゃんの今後が心配だよ」
なんて得意気な顔をするRui子に、ユキは口元をわなわなと震わせ……力一杯叫ぶ。
「る、る、Rui子ちゃんの――バカぁぁぁぁぁっ!!」
……それから少しの間、ユキはノインの顔を謎に見れなかった。なにも知らないノインは謎に傷ついた。
ただ、それだけの話である。
―――――
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
ユキちゃんの照れ顔を書きたかったので、Rui子ちゃんに頑張ってもらいました。ありがとうRui子ちゃん!!
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