露呈する熱意(1)

「──さて、皆準備はいい?」



 朝から気合十分にして迎えた今日この日は、私達、『ノバイスゼロ』の初チームランク戦当日だ。

 大樹の外に集まって各々の調子を確認する。



「もちろん」「ええ、いけるわ」「……ウン」



 みんなの返事とともにデバイスを起動し、操作をする。



「──《通常転移》が選択されました。設定をしてください」



 デバイスから出る機械音声の案内に従い、設定をする。



「──転移者指定…『マヨリ・クラッグ』様、『クシノ・ピスティ』様、『ノエムス・ディニティコス』様、『レイ』様の計4名様。転移先指定…『レロサリムの塔1番ゲート』に設定されました。よろしければ、《実行》を命令してください」



 設定が完了すると同時に、システムに実行命令をする。



「──実行命令がされました。カウントダウンを開始します。10…」



 10カウントの音声が始まった。

 みんなの真剣な眼差しが私に集まる。

 その眼差しをそれぞれしっかり見つめて、決心を固める。




 ──準備はできた。あとは勝つだけ。



「よし!それじゃあ、勝ちに行こうか!」


「「了解!!」」「ウン!」




「…0、《転移》実行──」




◇ ◇ ◇ ◇




 サッキマデノシゼンノケシキガ、さっきまでの自然の景色が、ムキシツナケシキニハヤガワリシタ無機質な景色に早変わりした

 《テンイ》?ッテコトバノアイズデ、って言葉の合図で、ワタシタチハイッシュンデ私達は一瞬でココニキタミタイダここに来たみたいだ


 フシギダ不思議だソレニナンダカスコシ、ツカレタそれになんだか少し、疲れた

 ……キイテミヨウ聞いてみよう



ネェねぇ…《テンイ》ッテナニって何?」


「う〜ん…まあ簡単に言うと、一瞬で、ある場所からある場所に移動できることを『転移』って言うね」



 マヨリガワタシノギモンニコタエルマヨリが私の疑問に答える

 デモソノコタエハワタシノモトメテイタでもその答えは私の求めていたモノトハスコシチガッテイタものと少し違っていた


 キキカタガワルカッタ聞き方が悪かった……。



「……ナンデ、デキルなんで、できるの?」


「なんで…って?──あぁ、そういうことね。『転移』って言葉の意味を聞いてたんじゃなくて、このデバイスの転移機能のことを聞いてたのか」



 ワタシノキキタイコトヲ私の聞きたいことをリカイシテクレタミタイダ理解してくれたみたいだ


 ワタシハウナズク私は頷く

 スコシカンガエルソブリヲミセテ、少し考える素振りを見せて、マヨリハセツメイヲハジメルマヨリは説明を始める



「──まずこのデバイスにはrmに接続できるっていう機能がある。それは前に言ったよね?」


「……ウンうん


「その接続できるっていうのは、ただrmに登録されてる情報を見ることだけじゃなくて、rmに関わるほとんどすべてを扱うことができることを言ってるんだ」


「……スベテヲ、アツカウすべてを、扱う?」


「そう、すべて。少しでもrmが関わるものは、それが人、物、事でも関係なくこのデバイスから繋がることができる。もちろん色んな制限はあるし、不可能なこともある…のかな?その辺は私もあんま詳しくないけど、そういうことだから《転移》ができるの」



 セツメイヲキイテ、説明を聞いて、rmノスゴサガヨリワカッタキガシタrmの凄さがよりわかった気がした

 ジッサイ、ツイサッキワタシハ実際、ついさっき私はソノデバイスヲツカッテそのデバイスを使ってテンイ転移シタした

 ソレハキット、それはきっと、ワタシデハソウゾウモツカナイヨウナ私では想像もつかないようなギジュツガアルノダロウトオモッタ技術があるのだろうと思った



「──さて、ちゃんと予定通り12時半にここにこれたから…ランダムルールが確定するまで少し仮想空間慣れしようか」


「そうね、レイもランク戦は初めてだものね。説明は既にしているとはいえ、体験しなくちゃわからないものもあるわ」



 マヨリノヨテイカクニンニ、マヨリの予定確認に、クシノガワタシヲミナガラドウチョウスルクシノが私を見ながら同調する

 クシノノソンナメンドウミノイイクシノのそんな面倒見のいいコトバヤコウドウガ、言葉や行動が、ワタシノキモチヲココロヨクシテクレル私の気持ちを快くしてくれる



「──よ〜し、それじゃあ行こうか!僕についてきてね」



 ノエムスガツイテクルヨウミンナニノエムスがついてくるようみんなにゴウレイヲカケテハアルキハジメル号令をかけては歩き始める

 ソレニツヅイテワタシタチモそれに続いて私達もノエムスノウシロヲアルテイクノエムスの後ろを歩いていく



「……にしてもあんた、トレーニングルームなんて使ったことあったのね。私なんてどこにあるのかすら知らないわ」


「うん知ってる、だから僕に案内してもらってるんでしょ?」


「……ちょっと言い方腹立つけど、そのとおりね……」


「私もランク戦自体滅多にしないし、仮想空間ちょっと苦手だから今まで来たことなかったけど…なんでノムはトレーニングルーム使ったことあるの?」


「いや、別に僕も昔ちょっと使ったぐらいだし…そもそも『で『聖地』の間取り知らないの二人ぐらいだよ……。どっちかって言うと僕が普通」



 ソンナミンナノカイワヲキイテイタラ、そんなみんなの会話を聞いていたら、ソレマデアルイテイタツウロトハそれまで歩いていた通路とはイッペンシテクツログスペースガアル一変してくつろぐスペースがあるヒロバニデル広場にでる



「──へぇ…広場って1階のとこ以外にもあったんだ……」



 メノマエノクウカンニ目の前の空間にカンタンスルマヨリ感嘆するマヨリ



「ここは中継地点的な役割があるからね。トレーニングルームとかランク戦ルームとか、あとは観戦ルームとかなんかに行くときによく通るよ」


「──試しに何回かランク戦したときは、別の道でルームまで行ってたから知らなかった……」



 マヨリノカイコウカラジョジョニマヨリの開口から徐々にハナシガモリアガッテイルアイダニ、話が盛り上がっている間に、ノエムスハヒロバニデテハノエムスは広場に出てはヒダリニマガッテアルイテイッテイタ左に曲がって歩いていっていた

 ソノアユミニツイテイクナカデ、その歩みについていく中で、トコロドコロニアル所々にあるバイテンラシキモノカラスルニオイニ売店らしきものからする匂いにツラレソウニナッタリ、ソレナリニイルつられそうになったり、それなりにいるヒトダカリノソウオンニオチツイテ人だかりの騒音に落ち着いてイラレナカッタリ、ヒロバノマンナカデいられなかったり、広場の真ん中でソンザイカンヲハナツイロンナジョウホウガ存在感を放つ色んな情報がゼンホウイニウツシダサレテイル全方位に映し出されているスクリーンヲナントナクスクリーンをなんとなくナガメタリシテハ、眺めてみたりしては、ココロガユサブラレル心が揺さぶられる

 デモソンナジカンモナガクツヅカズ、でもそんな時間も長く続かず、アルイテイクウチニトオザカッテイク、歩いていくうちに遠ざかっていく、キョウミヲヒキツケルクウカンニ興味を惹きつける空間にナコリオシサヲカンジナガラ名残惜しさを感じながらゴカンヲヒロバカラハナシタ五感を広場から離した

 ソウスルトコンドハ、そうすると今度は、『トレーニングルーム1~20』トカベニカカレタバショヲミツケルと壁に書かれた場所を見つける

 アンノジョウ、ソノカベノホウヘ案の定、その壁の方へノエムスハアルイテイタノエムスは歩いていた

 「……確か11が空いてたから……」ットツブヤキナガラ、っと呟きながら、モクテキノバショヲサガスノエムス目的の場所を探すノエムス

 ソノシセンニウナガサレルヨウニ、その視線に促されるように、アタリヲミワタシテミレバ、辺りを見渡してみれば、バンゴウガシルサレテイルドアガ、番号が記されているドアが、ツウロノカベニキソクテキニ通路の壁に規則的にナラベラレテイル並べられている



「──よし!ここだね」



 ソウシテそうして『11』トカカレテアルドアノマエニタツと書かれてあるドアの前に立つ

 デモ、イクラマッテモノエムスハでも、いくら待ってもノエムスはナカニハイロウトシナイ中に入ろうとしない



「……そんなとこで突っ立ってないではやく入りなさいよ」



 ビドウダニシナイノエムスヲ微動だにしないノエムスをオシノケテ、イラダタシク押し退けて、苛立たしくドアヘトムカウクシノドアへと向かうクシノ

 「あっ、ちょ─」ットナニカヲイイカケタノエムスダガ、っと何かを言いかけたノエムスだが、スグニソノコトバヲノミコンデ、すぐにその言葉を飲み込んで、ヤエバガミエルクライニ八重歯が見えるくらいにコウカクヲアゲテイタ口角を上げていた



「…ったく、時間もそんなにないのy──」


 ──ドン!!


「っ!!?痛っ!!」



 レイセイデイラレナカッタノカ、冷静でいられなかったのか、ツギノシュンカン、トジタママノドアニ次の瞬間、閉じたままのドアにクシノハセイダイニカオヲブツケ、クシノは盛大に顔をぶつけ、オドロキアトズサッテイタ驚き後ずさっていた

 ミタメハスライドシキノ見た目はスライド式のジドウドアニミエテ、自動ドアにみえて、クシノガチカヅイテモヒラクヨウスガクシノが近づいても開く様子がナカッタカラオドロイタガ、なかったから驚いたが、ソレヨリモ、フダンカラハそれよりも、普段からはソウゾウツカナイヨウナクシノノ想像つかないようなクシノのマヌケナスガタニスコシシンパイニナッタ間抜けな姿に少し心配になった



「……あんた、わざとね?」



 ウラメシソウニソウイッテ、恨めしそうにそう言って、オサエタカオノスキマカラ抑えた顔の隙間からニラミツケテイル睨みつけている

 ソノガンメンガアカクナッテイルその顔面が赤くなってるゲンインハサダカデハナイ原因は定かではない



「さぁねぇ?僕は何もしてないよ?勝手にドジッただけでしょ?」



 アオルヨウナクチョウトタイドニ、煽るような口調と態度に、ヨリイッソウイラダチガツノッテイルより一層苛立ちが募っているヨウスヲミセナガラ様子を見せながらニラミヲスルドクシテイル睨みを鋭くしている

 ソンナフタリノケンアクナそんな二人の険悪なフンイキヲサッシテ、マヨリガ雰囲気を察して、マヨリがトメニハイロウトシテイル止めに入ろうとしている



「そ・れ・に…自分じゃ気づかない緊張ってもんもあるんじゃない?」



 ツヅケテノエムスガコトバヲカケル続けてノエムスが言葉をかける

 ソノコトバガダレノコトヲその言葉が誰のことをサシテイルカハ指しているかはワカリキッテイルコトダッタわかり切っていることだった

 トウノイワレタホンニンハハットシ、当の言われた本人はハッとし、ジョジョニキマリガ徐々にきまりがワルクナッテイッテハ、悪くなっていっては、サラニセキメンシテイタ更に赤面していた


 ドウシテダロウどうしてだろう……。

 コノイッシュウカンミテキタナカダト、この一週間見てきた中だと、ナカガイイヨウデワルイヨウデ仲が良いようで悪いようでソンナフンイキデイツモイルそんな雰囲気でいつもいるフタリナノニ、ソノフンイキガ二人なのに、その雰囲気がスコシワルクナリスギルト、少し悪くなりすぎると、ナゼカ、カナラズ、スグニ、なぜか、必ず、すぐに、マタモトノフンイキニモドルまた元の雰囲気に戻る

 ユガンデイテ、歪んでいて、ソレデイテトトノッテイテそれでいて整っていてヨクワカラナイよくわからない……。



「はいそこまで。ノムは煽りすぎない、クノは落ち着いて。この日のために色々準備してきたんだから、自信持って頑張ろう!」



 チームノススムベキミチヲチームの進むべき道をミチビクカノヨウニ、導くかのように、マヨリガチュウサイニハイルマヨリが仲裁に入る

 フンイキハイイホウコウヘムキ雰囲気はいい方向へ向き、ワタシタチハモウイチド私達はもう一度ルームノドアヘトカラダヲムキナオスルームのドアへと体を向き直す



「……それで、結局このドアはどう開けるのかしら?」


「あぁ、そこにパネルがあるでしょ?そこに手ぇかざしてみてみ?」



 ソウイッテユビササレタパネルニそう言って指さされたパネルにクシノハテヲハコブクシノは手を運ぶ

 スルトスグニ、メノマエノドアガするとすぐに、目の前のドアがヨコヘスライドシ、ナカニ横へスライドし、中にハイレルヨウニナッタ入れるようになった



「──あんまり目立ってないから気づかなかったわ……」


「それだけ周りが見えてないって証拠。ただでさえ初めてのとこなんだから焦らないでよ」



 ウエカラメセンナセリフモ、上から目線なセリフも、チョウシノイイコエデナガサレルコトデ調子のいい声で流されることでソコマデオコルキニナレナイそこまで怒る気になれない

 ソンナジョウズナコトバノそんな上手な言葉のツカイカタニ、マナベルコトガ使い方に、学べることがオオイノデハナイカト、多いのではないのかと、ワタシハカンガエサセラレタ私は考えさせられた


 ソシテ、ワタシタチハジュンニそして、私達は順にパネルニフレテナカニハイッテイクパネルに触れて中に入っていく

 ソコニハマンナカニオオキナソウチガそこには真ん中に大きな装置がアルダケダッタあるだけだった



「……このよくわからない機械?しかここにないわね……これで仮想空間を作るってことかしら?」


「おぉ、正解!今そっち行くからちょっと待ってね」



 ヘヤニハイリ、ナニヤラ部屋に入り、なにやらドアノスグヨコノカベニツイテルパネルヲドアのすぐ横の壁についてるパネルをソウサシテイルノエムス操作しているノエムス

 ソウサガオワッタトオモウトドウジニ、操作が終わったと思うと同時に、ドアカラカチッットカギガカカッタドアからカチッっと鍵がかかったラシキオトガナッタらしき音が鳴った

 ソノオトヲカクニンシタアト、その音を確認したあと、ノエムスハコチラニフリカエリ、ノエムスはこちらに振り返り、アルイテクル歩いてくる



「ええっと…確かこのスイッチ押せば起動するはず──」



 ソウツブヤキナガラ、そうつぶやきながら、ノエムスハトウノスイッチヲオスノエムスは当のスイッチを押す




 アタリガマッシロニナル辺りが真っ白になる

 サッキマデノアンマリヒロクナカッタさっきまでのあんまり広くなかったヘヤノクウカンハドコヘヤラ、部屋の空間はどこへやら、オワリガミエナイクライヒロイ終わりが見えないくらい広いクウカンガミエテイル空間が見えている

 ソレトドウジニ、それと同時に、イッシュウカンマエニモカンジタ一週間前にも感じたアノカンカクヲオモイダスあの感覚を思い出す



「おっ!ちゃんとついた!」「真っ白って…さすがにちょっと不気味だわ……」「やっぱりこの感じ、どうにも苦手……」



 ミンナソレゾレノカンソウヲイッテイルみんなそれぞれの感想を言っている

 ワタシハコノフワフワシタカンジ、スキ私はこのふわふわした感じ、好き……。



「──まぁ、これで仮想空間には入れたわけだけど、ランク戦のときは現実空間に限りなく近い仮想空間で戦うから…どういう設定にしよう?」



 エ、ソウナノえ、そうなの



「……コノカンカクジャナイノこの感覚じゃないの?」



 オモワズトイカケタクナッタ思わず問いかけたくなった

 フワフワシテテスゴイスキダケドふわふわしててすごい好きだけど……。



「うん、ランク戦のときはそうだよ。そもそもランク戦って現実で戦えるための訓練みたいなもんだから、ちゃんと現実を想定した空間にしないと意味ないもんね」



 ソウナンダそうなんだランクセンッテタタカウクンレンナンダランク戦って戦う訓練なんだ……。

 ソウイワレレバタシカニソノトオリダそう言われれば確かにその通りだ


 ソウシテノエムスノセツメイニそうしてノエムスの説明にナットクシテイルト、トツゼン、納得していると、突然、ワタシトミンナノデバイスカラ私とみんなのデバイスからピピピッットスコシウルサイクライノピピピッっと少しうるさいくらいのオトガナル音が鳴る

 オモワズビクットシテシマッタ思わずビクッとしてしまったワタシヲ、ミンナガスコシワラッテイテ私を、みんなが少し笑っていてチョットハズカシカッタちょっと恥ずかしかった



「──あれ?もうランダムルール決まったの?」



 デバイスヲミツメテ、デバイスを見つめて、ソウコエヲモラスノエムスそう声を漏らすノエムス



「思ったより早い…個人戦のときは30分ぐらい前に決まってたけど……」


「今は1時…まだ1時間前ね」


「個人戦のときとチーム戦のときでランダムルールの仕様が違うのかな?あと思いの外時間かかっちゃってるね、急ごうか」



 オクレテワタシモ遅れて私もルールヲカクニンスルトルールを確認すると



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 ─チーム『ノバイスゼロ』様へ〜チームランク戦のご案内〜─


 14時、チーム戦ルーム1にて行われるチームランク戦のランダムルールが決定しました。

 詳細は以下のとおりです。


・対戦相手チーム:次世代の集いシネピオン

・試合方式:殲滅戦(1ゲーム先取)

・戦場:未開拓地1

・参加人数:1チーム最大5人まで

・試合時間:30分+延長10分

・開始方法:ダイブ式


 また、試合開始15分前には所定のルームに入室お願いします。


 ご健闘を。

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 …ットカカレテタっと書かれてた



「──いや、むしろちょうどよかったかもね、先にルール確認できて。予行練習的な感じで色々確認しようか」



 ソウイイナガラ、ノエムスハそう言いながら、ノエムスはデバイスヲソウサシテイクデバイスを操作していく




 トツゼン、マッシロナセカイガ突然、真っ白な世界がイロドラレテイク彩られていく

 アタマガオカシクナルグライノ頭がおかしくなるぐらいのメマグルシイヘンカニ、目まぐるしい変化に、ムカンジョウニカンドウスル無感情に感動する

 セカイガツクリカエラレタトオモエバ、世界が創り変えられたと思えば、コンドハワタシタチノマワリヲムキシツナ今度は私達の周りを無機質なアイイロノカベガカコミハジメル藍色の壁が囲み始める

 サキホドノコウダイナセカイヲ先程の広大な世界をミタアトダト、スゴクセマクルシク見たあとだと、すごく狭苦しくカンジルヘヤガデキテイタ感じる部屋ができていた

 ソンナヘヤノユカニアシガツクそんな部屋の床に足がつく



「……なによ、これ」


「さっきルール確認したでしょ?ほら、あっち行てみ?」



 ノエムスガユビサシタホウニハノエムスが指さした方にはウスグライコノヘヤトハ薄暗いこの部屋とはタイショウテキニ、アカルイヒカリガ対象的に、明るい光がモレテイタ漏れていた

 イワレルママニアシヲハコンデミル言われるままに足を運んでみる



「──!?なによこれ!!」



 オナジコトバヲクリカエスクシノ同じ言葉を繰り返すクシノ

 ケド、ソウイイタイキモチモワカルけど、そう言いたい気持ちもわかる

 ダッテだって……。



「……ジメン地面ナイ無い



 ワタシタチノイルコノヘヤハ私達のいるこの部屋はクウチュウニアルミタイダカラ空中にあるみたいだから



「……いつものrm作った人の遊び心だね」



 ナカバアキラメノクチョウデ半ば諦めの口調でソウハキステルマヨリそう吐き捨てるマヨリ



「嘘でしょ!?ねぇ…これどうやって降りるわけ?」



 メノマエノゲンジツヲ眼の前の現実をキョゼツスルヨウニ拒絶するようにコエヲフルワスクシノ声を震わすクシノ



「そんなの決まってんじゃん!!」



 フクミワライデイマカラオコルコトヲ含み笑いで今から起こることをタノシミニシテイルヨウナ、楽しみにしているような、イセイノイイコエヲハリアゲルノエムス威勢のいい声をはりあげるノエムス

 トタンニマヨリトノエムスガ途端にマヨリとノエムスがワタシノテヲトリ、ツナイダ私の手をとり、繋いだ

 クシノモワタシモドウヨウニクシノも私と同様にテヲツナガレテイル手を繋がれている




 ヒトイキオカレル一息置かれる




「──行くよ!!」




 マヨリノソノアイズデ、マヨリのその合図で、ワタシタチハソラヘトトビコンダ私達は空へと飛び込んだ




 ──クウソウガゲンジツヘトオチテイク空想が現実へと堕ちていく……。




◇ ◇ ◇ ◇




「結局相手来ないじゃん!怖くなって逃げたんじゃないの!」



 ──あいも変わらずうるさい人だ……。


 時間を無駄にしたと言わんばかりに不満をぶちまける隣の仲間に、私は思わず悪態をついてしまう。


 もちろん心のなかでだけどね。



「ストルズ!あんな格下チームと今日本当に戦うの!?あなた頭おかしくなっちゃったんじゃない?」


「さぁね、君をこのチームに入れたときから既に頭はおかしかったんじゃないかな。あとそのセリフ何回目?ジズベール」



 心のなかで済ませるつもりでいた皮肉だが、あまりのうるささに周りの視線も痛いものになっていっているので、ちゃんと声に出すことにした。

 私より一回り小さいその女は、人工の光を多く反射させる明るめの長い金髪の奥に見える、深紫色の瞳を私に向け、持ち前のつり目を鋭く睨ませていた。



「……まあ、おそらくチームランク戦初めてだろうから、開始1時間前にこの広場で対戦者同士で挨拶をするってマナー知らないだけなんじゃないかな」


「だったらあなたがちゃんとそれ教えときなさいよ!私の時間無駄にしないでよね!」


「それについては本当に申し訳ないね、失念していたよ」



 慣れというものは本当に怖いものだ。

 自分の中での常識が相手に通用してないとき、そのことをすぐに気づけないのだから。



「──にしてもよぉ、リーダー。俺は別にお前を疑ってるわけじゃねえけどさ…最近俺たちのチーム結構調子いいじゃねぇか。なのになんでわざわざこのタイミングでそんなチームと戦おうなんて思ったんだ?そこんところがどうしても気になんだが……」



 私の隣から聞こえる男の声。

 その疑問に答えようと、視線をジズから上げ、声の持ち主へと移動させる。



「そうだねぇ……。もちろん理由は色々あるわけだけど、一番はやっぱり、単純に『倒したいから』じゃないかな?」


「いやそんな疑問形に疑問形で答えられても困るんだが……」



 髪質が硬そうな茶髪を短いながらもかすかに揺らし、困惑の表情をしている。



「……んじゃあなんで倒したいんだよ。今の感じだと感情論で言ってるわけだろ?なんか因縁でもあるのか?」


「いや?初めてまともに顔合わせたのは一週間前の喧嘩売りにいったときだよ。そんなにツッコんできてなにか不安なことでもあるのかい?セファ」


「……なぁんかいつにもなくお前らしくない気がして、やっぱ納得いかねぇんだよなぁ……」



 セファの懐疑的な、そのあおぐろい瞳が私を射抜くように向けられる。

 私はその視線を笑顔で軽く受け流した。



「──ええっと…その!……わたしたちは、今日、どう戦えば、いいの?」



 またもや私を見つめる視線が一つ…いや、二つ増えた。

 その二つの視線の元へ私も目を移す。

 ジズよりまた一回り小さい背丈の双子の女がそこにはいる。



「そうだね…今回はちょっと色々特殊だからなぁ……」



 そう言いながら二人の様子をうかがう。


 戦いの作戦を考える上で、メンバーの調子を図るのは重要なこと。

 ちゃんと確認して最適な戦略を立てていかないとね。



「──うん。やっぱいつもと変わらない感じでいこうか。とりあえずソルヴェは斧使って」


「は!はい!!」



 短い赤毛の前髪の下で、ソルヴェの明るい水色の瞳が緊張で揺れている。

 そして、私に話しかけたことを恥ずかしがる顔をうつむき隠すようにし、「うぅぅ……」っとうめき声のような力のない声を発していた。



「──それで、サルヴァはダガー使って」


「……」



 サルヴァの緑と青が混ざり深い色をしている瞳の先が、一瞬私の目に合ったと思ったら、すぐにその視線は下へと私から外され、最後に一回ただ黙ってうなずくだけだった。

 ソルヴェと似ている赤毛の髪は、目の先までかけられていて、その表情をはっきりと見ることはできなかった。



「──途中で変えるかもしれないけど、二人は基本コンビで行動して。……あ!でも最初は私についてきて、相手の出方見てから誰を任せるか決めるから」



 ソルヴェ、サルヴァ…それぞれ銀朱、真朱と言える赤の、対照的な明暗で分かれた髪色が揺れ合う。



「んで?俺達はどう動くんだ、リーダー」


「あぁ、二人も最初は私についてきて。それでそのあとセファは基本私のサポート、ジズベールはまぁ…適当にやって」


「ふん!言われなくても私の好きなようにさせてもらうわ!」


「はいはい。…でも指示出したときはちゃんと言う事聞くんだぞ」


「わかってるわよ、そんなこと!…いちいち言わなくていいから、鬱陶しい!」



 どうやらジズの不機嫌はまだ収まっていないようだ。

 声を荒げるジズに、ソヴェは目の焦点をジズから避けるようにしながら揺らし、怯える。サヴァは居心地悪そうにしながらソヴェの一歩後ろへ後ずさりジズから少し距離を取る。セファはいつものことだと苦笑いをする。


 時間も押してきている。

 そろそろ戦闘準備に入ろうか。



「──今回の相手はいつも戦う相手よりrm格下なのは間違いない。けど、だからといって油断はできないし、『情報が少ない未知数の敵』だと思えば、むしろ今までより警戒すべき相手だとも言える。そこはちゃんと理解しておいて……」



 そっぽ向いているジズを除いて、サルヴァ、セファ、ソルヴェがそれぞれ理解を示すようにうなずく。



「……よし。それじゃあ、勝ちに行こうか」



 試合開始30分前。

 広場の一角でチームを鼓舞する声。

 私達は戦いに向けて気合を入れる。




 ──これは私達が負けることのない戦い。そして、私にとって負けるつもりはない戦いだ。




* * *




 チームランク戦1番ルームに響く試合開始のカウントダウンは残り5分を示している。

 既に辺りは仮想空間で満ちていた。



「──さて、お相手さん方は準備万端なのでしょうか、楽しみですね」



 聞き慣れた機械音声が終わるまでの時間、メンバーの緊張を紛らわすためにも雑談がてら話題をふる。



「……昔っからそうだけど、あなたが敬語使っているの、結構気持ち悪く感じるわ」


「その言い方は少し正しくないね。ちゃんと使い分けているよ、気持ち悪い方とそうじゃない方で。だから安心してね」


「だとしたら今は別に使うときじゃないでしょ、バカなの?」



 正直その通りだ。

 本当は別に敬語にするつもりもなかったのに、なぜか口から出た言葉が敬語になっていた。


 …いや、理由は大体わかっている。

 私が【見放された副虹モナクスィア・カタラ・イリス】のやつらのことを考えていたからだ。

 普段であればこんな失態を犯すこともないのだが…自然と皮肉口調になってしまうぐらいに、私はやつらのことをしっかり嫌悪しているようだ。


 そんなふうに、相手に対する感情を再確認してみては、適当に自分を笑って誤魔化した。



「──そういえばさっき調べて初めて知ったんだけど、相手のリーダーって元Fランクだったんだな、しかもリマ住民」



 心底驚いたというような表情でセファがそう言う。



「あれ?知らなかったの?今日の相手のこと」


「知らなかったも何も『一週間後、できたてチーム叩き潰すことになった』としか俺は言われてねえぞ」


「そんな言い方で報告した覚えはないね……。それに相手チーム自体結構有名な人達だよ?落ちこぼれ人間たちの集まりとして」


「そりゃあひでぇなぁ、色々と」



 何が面白いのか、お互い苦笑を漏らす。



「ついた呼び名が【見放された副虹モナクスィア・カタラ・イリス】。どこから出たかはわかんないけどね」


「あぁ〜…なんかその呼び名はどっかで聞いた気ぃする。……でも言う割には今は落ちこぼれてる感じはしてなかったぞ、相手のrm」


「今の状態を見れば、ね?クシノとノエムスはリマ出身者の中だと比較的ランクが低いぐらいで話は済むんだけど……。問題はマヨリ。あいつは少し…いや、かなり異常な存在だ……。ほんっと、憎たらしいよ」


「おぉ…なんか珍しいな、お前がそんな愚痴言うの」



 空気をごまかすために、またもや苦笑を漏らす。



「──さて、そろそろ始まるから一応最終確認。今回、開始がダイブ式だから空中での迎撃─特に1人、相手にAランクがいるから、主にそいつの攻撃に備えながら森の中に着地。着地後、すぐに空中移動で相手を捜索。おそらく相手は飛んでこないで森に紛れ込むだろうから、不意打ちの遠距離攻撃にだけ注意して、発見次第報告。あとはその場で私が指示する。わかった?」


「おう!」「は、はい!」「……コク」「……そんな回りくどい戦い方しなくてもいいじゃない…」



 勢いの良い返事の中に、不満げな苦言が混じる。



「なにかいったか?ジズベール?」


「はいはい、言う通りにしますよぉ〜」



 反抗的な忠誠を適当にするかのように、腑抜けた仕草をだすジズ。


 なにはともあれ準備はできた……。



「──降下開始!」



 号令と共に、全員同時に空へ身を任せるように飛び込む。

 辺りを見回し、直後、敵らしき人影の集団が私達と同様に降下しているのが見えた。



「……あれ多分、相手四人じゃね?」



 私の中に現れた疑念を確かにするようにセファが口にする。

 誰がいないのか事前に調べた相手チームのメンバーの顔を照らし合わせながら確認する。

 、《総合Aランクの者》の顔がそこにはいなかった。



「……よりによって警戒すべき相手がいない感じか…さすがに有利すぎる、舐めてるのか?」


「単純に都合つかなかったとかじゃないの?まぁいないんだったらいないで楽に勝てそうじゃない。さっさと終わらせましょ」



 少々不満は残るが、今はジズが言うような理由で状況を飲み込み、思考を仕切り直す。

 先に出した作戦通り、近くの森にそれぞれ着地する。

 それまでに、警戒していた遠距離攻撃が私達へ飛んでくることはなかった。

 相手のメンバー状況に応変した指示をだす。



「──遠距離攻撃はそこまで警戒しなくていい。とりあえず敵の捜索に集中する。空中移動は探しやすいよう若干低空で行く。各自私から離れすぎない位置で捜索開始」



 私の指示を聞き、皆すぐさま空中へと跳ね上がる。

 いくつかの大小様々な規模の森の上空を滑空し、しばらく探索を続けた。




 ──10分は経っただろうか……。




「──こんないないもんなの!?めんどくさいわねぇ!」



 戦う相手を見つけられない苛立ちを包み隠さずあらわにする声が遂に聞こえた。

 みっともなく叫ぶジズをみることで、胸中を表に出すことなく、冷静でいられた。

 しかし、その発言にのせられた感情には深く共感をせざるを得なかった。



「リーダー、相手完全に隠れるのに徹してるみたいだし、適当に能力ぶっ放して森壊したほうが早いんじゃねえか?」


「能素もってかれるからあんまやんない方がいいんだけど……」



 このままじゃ埒が明かない。

 明らかに仕組まれた膠着状態なのだから、なにかしらの策があってもおかしくはない。


 能素の不足を危惧して、このまま相手の好きなようにさせるよりかは、多少能素を減らしてでも、現状を打破するべきだと推考する。



「そうだね、そうしよっか。──全員、広範囲破壊能力で森林破壊!場所と威力は適当!私から一人ずつ順に打ち始めろ!」



 両手をかざし、一つの大きな竜巻を作り、森へ放つ。

 大小、種類、形様々な大量の木が、無慈悲に、無差別に吹き飛ばされていく。

 続く仲間たちからは、炎、爆発、雷、最後にまた雷が各地の森へと放たれていった。


 木一つもない真っ平らな大地、焼け尽くされた炭が並ぶ立木、大きなクレーター、衝撃による倒木と火事。

 そんな混沌とした状態の森の跡地が辺りに広がっていた。

 それでも、一切の人影らしきものは見当たらない。



「……全然出てくる気配しないわよ」


「どうなってんだこれ?」



 口々に違和感を仲間たちが吐露し始めた。

 憤りよりも先に困惑の感情がでてきたそのとき。

 勘が働く。



「来る!」



 仲間に緊急警告を告げる。

 完全な真下から急速に接近する二人の人影。



「なっ!?」「ガフッ!!?」



 狙われたのはジズだ。

 少し身体を前かがみにしてたことにより、ナイフが下から腹を突き抜いていた。

 接近とその攻撃の勢いにより、少し身体が浮かされていた。



「ちぃぃ!舐めるなぁぁ!!」



 それでも負けじと吠えるように叫び、意識を刈られないよう踏ん張るジズ。

 すぐさま反撃に移ろうとしたところで遅れてきた二人目の人影が。



「っ!?ガハァ!!!?」



 一人目への反撃の判断から転じて、二人目の剣撃に対して最大限の防御の判断に移ってはいた。

 ただ、それを見抜かれたことにより、彼女は浮いた背中を蹴り下ろされた。

 そのままジズは地面へと落ちていき、完全に森の中へ消えていった。



「よぉ〜っし、まずは一人だね」


「危なかった…剣で攻撃してたら防がれてたわね……」



 二人の人影の正体─クシノとノエムスがそれぞれ安堵を示す。


 今のスピード…味方の一人脱落…敵は近くにこの二人のみ……。


 思考結果、私は指示を出す。



「──サルヴァ、ソルヴェ。近くに残り二人がいるかもしれない。そいつらを倒しに行って」


「……コク」「了解です!!」



 私の指示を素直に聞き、それと同時に下へと降りていった二人の仲間を見送る。


 頃合いを見て、再度敵の二人へと体を向きかえる。



「森林破壊はいけないね〜。もっと環境は大事にしてこうよ」



 ふむ、唐突な煽りご挨拶か。

 精々が相手の平常心を乱すためのものでしかない言葉だ、適当に返すか。



「ご教授ありがとう。君たちとは違って私達は自然を治すすべをもってるから、破壊行動に戸惑いがなかったよ」


「へぇ〜慣れって怖そう!不意打ちで一人持ってかれちゃうぐらいに感覚も鈍っちゃうみたいなんだからね!」


「はい、そこまで。煽りはその辺にして集中しなさい、ノム。まだ私達が不利なんだから」



 いい頃合いで区切りをつけてくれた。

 敵ながらクシノに少し感謝したい。

 私とノムでは少々喋りすぎる気がしてならないのでね。



「わかってるわかってる。……そんじゃ、こっからは直接対決といこうか!」


「勝てるといいね。……でも、あんまり調子に乗ってると、痛い目見るよ?」




 ──さて、どう対処していくか。




◇ ◇ ◇ ◇




 とりあえず、気配消して奇襲成功させるまでは予想通りの展開。




 ──問題はこっからだ。僕達にとってはここが正念場。


 意識に余白を作りながら集中する。

 相手から目を外すことなく、かといって注意深くしすぎることなく、適度な余裕を持つ感覚を感じて…



「──ってうぉ!?はっえ!!」



 次の瞬間、数メートルはあったはずの僕と相手の距離が数十センチのところまでにつめられる。

 どこにでも避けれるように、身体全体の神経が刺激される。




 ──攻撃…パンチか。



 気配を感じ取った。

 左手を一発、まっすぐに突き出すだけ。


 咄嗟にそのパンチの気配を避けるように身体をひねる。

 パンチは僕の頬をかすめた。

 続けざまに相手の右手と左足が動き出す気配を感じる。

 その攻撃に、僕では対応できないことを悟る。

 



「──ほぉ…魔法か」



 相手の攻撃の気配が止まり、咄嗟に回避の体勢に移っていた。

 それに少し遅れて僕の目の前で繋げられた魔素たちが炎となり、相手の方へ発射される。

 発射の反動で僕の身体が後方へ流されるとき、また別の攻撃が横からくる気配がした。

 ナイフを構えて、衝撃を受ける準備をする。



「ほぉらよっと!!」



 相手のもうひとりの仲間の大剣が僕へと振り下ろされる。

 その大剣を受けれるほどの力は僕にない。



「キィィィン!!!」


「うお!そこでもう一人来るのか!」



 



「ナァイスカバー!クノ!!」


「くっ…さすがに力勝負は分が悪いわね!」



 お互いの声を合図に僕とクノは大剣から距離を取り、相手の攻撃が届かない位置に移動する。



「いやぁクノならやれるって信じてたよ、ありがと」



 とりあえずでクノのカバーを褒める。

 だが、クノは僕の言葉を聞いても嬉しそうな顔一つしないで、相手から目を離さないでいた。


 さっきから魔法を繋げて攻撃をやめさせたり、剣で攻撃を受け止めたり、そもそも僕を空中に浮かせているのもクノがやってることなんだから、ちょっとは誇ればいいのに……。



「お世辞はあとでいいから……。それより少し相手して再確認したけど、やっぱり格上ね…下手にこっちから仕掛けたら、即やられるわ」


「相手からしたら今のはただのご挨拶なんだろうけどねぇ……。とりあえず予定通り僕がヘイト稼ぎ、クノがカバーの役割でなんとか持ちこたえようか」


「そうね…でも私がいるからって安易に突っ込まないでよね。あんたに回す魔素も科素も、そこまであるわけじゃないんだから」


「その辺のリスク管理はちゃんとするから安心して」



 軽い作戦会議と注意喚起を聞いて、僕も戦う姿勢を作る。



「セファ、もう少し相手を見たい。踏み込みすぎないで軽く近接戦をやってこう」


「了解、リーダー!」



 声を置き去りに、相手が突進してくる。

 大剣がまたしても僕を切り裂かんと急速に迫る。

 右手のナイフを大剣にぶつけるのではなく、ただ当てる。

 相手の勢いがそのまま僕に影響される。

 影響された力に振り回されることなく、自分のものにする。

 ナイフと大剣の接点を軸に、一回転。

 左手のナイフを大剣の元の方へと伸ばす。

 視界の端で相手のもう一人が能素で繋ぎ組み込まれた刃を僕へと向けているのが見えるが、そこはクノを信じる。

 僕の左手のナイフが大剣の持ち主に届くことはなく、後方へ逃げられた。

 視界の端ではクノがもう一人の相手の剣を受け止めているのが見える。


 クノに目配せをする。クノもそれに答えるように頷く。



「ふたりともいい動きするね。……力押しには弱いみたいだけど!」



 クノの剣を強引に押し切るようにかかる攻撃の気配を感じた。

 咄嗟に右手のナイフで相手の剣を突き、剣に乗せられていた力を逸らす。

 その隙を逃さず、僕とクノはもう一度後方へとさがる。



「……?随分と消極的に動くじゃないか。さっきみたいに自分から不意打ちでも何でもしてみたらどうだい?」



 僕らがあまり攻撃に乗り気じゃない様子に不満を持ったのか、相手は挑発をかけてきた。


 さっきクノとも話し合ったけど、僕らから仕掛けるとすぐやられちゃうんだよな〜力量的に……。


 クノも「挑発に乗っちゃだめ」と言わんばかりの視線を僕に向けている。

 その視線に応えるように僕はクノに向けて頷く。



「そうだね!じゃあ今度はこっちからいかせてもらうね!」


「──!?ちょ、あんた何言って──」



 静止の声が耳に届いたが、頭にまでは届かなかった。

 届かせるつもりもなかったけど。


 空を蹴って挑発してきた相手に急接近する。

 不意打ち気味にナイフの切っ先を素早く相手のふところへと突きだす。

 ナイフは身体をひねられ回避される。

 それを予知してもう片方のナイフで二撃目に移る。

 右へ薙ぐ動きを避けるように相手も右へ回避運動をする。

 クノはその回避方向を潰すように剣をおく。

 僕のナイフとクノの剣で挟み打ちになった相手は、能力を下へ放ち、その反動で上へ回避する。

 追撃に向かおうと思うより先に、相手のカバー─大剣が僕ら二人を同時に襲ってくる。

 上には逃した相手が待ち構えている。

 ならばと僕らは下へ避ける。

 僕はすぐに上へ逃した相手へ急接近する。

 クノは大剣の相手を蹴り飛ばし、また僕の援護をする。


 相手の逃げ道を塞ぎ、僕が崩れたら僕を護り、もう一人の相手の参戦をも妨害するクノ。

 僕は一人の相手へ一撃を加えることだけに集中する。

 いくつか攻撃を繰り返すことで、相手の反応が遅い、弱点らしきところの気配を察知する。

 重点的にそこを攻撃するも、全て躱されるか、いなされる。


 少しの間、戦局の動かない攻防戦が続く。




 ──ほんの一瞬、嫌な気配を感じる。



「セファ、右だ」




 ──戦局が動く。


 一瞬、油断してしまったのか。

 僕は反応が遅れる。



「──っ!クノ!!避けろ!!」



 嫌な気配の正体を理解する。

 なんとか絞り出した声で、クノに回避を促す。




 ──相手は僕たちを分断するつもりだ。


 僕の声に反応する暇もなく、クノは大剣の横薙ぎをその剣でまともに受けてしまった。


 クノが遠くへふっとばされていく。


 それを追撃するように大剣の相手がクノを追いかける。


 ふっとばされ具合的にもう僕は追いつきそうにない。

 案の定、クノが制御してくれた、僕が宙に浮くための魔法が切れる。

 クノが、クノ自身の魔法の有効距離より遠くへいってしまったことがわかったと同時に、僕は空中に要られる│すべを失い、地面へと落下していく。



 ──あれ?これ普通に死ぬくね?


 下の状況を確認する。

 落下地点には相手が破壊しきれなかった分の森が残っている。

 急いでナイフを両手に持つ。

 森の緑がこちらまで迫りくる。

 上からも、相手の追撃の気配が迫りくる。

 木に手が届く距離まで来て、すぐに片手のナイフを木に刺す。

 勢いを殺すまでの間、落下の進行方向上の邪魔な葉や枝をもう片方の手に持つナイフで切り裂く。

 地面が見えてきたタイミングで、殺しきれなかった勢いを横に流すように木を蹴り、受身の姿勢を取りながら地面に着地する。

 その間、僕が木を蹴る前にいたところに剣を一突きいれようと最高速で突っ込んでいった相手を横目に見えた。

 激突音とともに、凄まじい衝撃が辺りに伝わる。


 ──間に合ったぁ〜。

 あのまま木にぶっ刺したままだったら追い打ちかけられてたな……。

 よく自由落下してる人間に追いつけるもんだよ、ほんと……。


 辺りを見回す。

 ここは先程、森林破壊された地点らしく、近くの木の数は少なく、小規模な広場となっている。

 目の前に、僕への追撃に失敗した相手が森から戻ってくる。



「君たちの連携攻撃、とても素晴らしかったよ。片方が攻撃の姿勢に入れば、もう片方はカバーと妨害に動く。逆に片方が防御の姿勢に入れば、僕の隙をつくように攻撃に動く……」



 相手は僕たちの連携に対する称賛を口にする。

 上から目線な物言いに、僕と重なるものを見た。



「…けど、弱点もあったね。クシノは君とは違ってタイマンをはるのは少し苦手なようだ。それでもコンビで絡まれると厄介だったから引き離させてもらったよ。これでだいぶ楽になった」



 とても本心から『楽になった』と感じてるようには聞こえない。

 その様子は、『お前らなどいつでも倒せたけど、力の差をみせつけるために遊んでいたのだよ』と言わんばかりだ。



「さっきから随分と余裕そうな態度してるけど、そろそろ足元すくわれないように真面目に戦ったら?」


「それについては心配ご無用、万に一つも君に負ける可能性はないからね」



 張り付けられた笑顔がこちらに向けられる。

 自信に満ちたその顔を、はっきりいって僕一人で崩すのは…まあ無理だ。

 、僕もこいつをやれる気はしない。



「……まっ、そっちが油断してくれるなら、こっちとしてはありがたいからね、精々後悔しないようにね」


「私との一対一に君はどこまでついてこれるか、お手並み拝見といったところか」



 お互いの醜い意地の張り合いを終わらせ、戦闘態勢に入る。




 ──気配が動き出す。




 ──僕はナイフを遥か遠くへ、投げた。




◇ ◇ ◇ ◇




 ──『しまった』…そう思ったときには既に遅かった。


 セファと呼ばれる敵の唐突な急接近と素早い大剣の動きに対応できなかった私は、元いた場所からだいぶ遠くへ飛ばされていた。

 森どころか草木の一つも生えてない、赤茶色の地面がむき出しにされてる地へと落下していく。

 勢いが止まる様子もないまま、私の体は地面に打ち付けられ、引きずられていった。

 突然の大きな負荷がかかった全身に、色んな痛みが混じり合った気持ち悪い感覚が伝わる。

 痛みに怯んで、横たわった状態から中々起き上がれない。



「──おいおい、休んでる暇はねぇんじゃねぇかぁ!!」



 体勢を立て直す暇もなく、セファが追撃に来た。

 またしても急接近かつ素早い攻撃。

 全身からあがる悲鳴を無視して、なんとか横跳びをして躱す。

 少し転がり、そのままの勢いで体を立たせる。

 すぐさま剣を構える。

 そのとき、全身の痛みとは別に腕に違和感を感じる。



「ッッ!?力が…入らない?」



 剣を持つ手から腕までの感覚の変化に戸惑う。

 純粋な力で強引に押し切られた攻撃を、私の力と剣一本で受け止めきれたわけもなく、その衝撃が酷く伝わった腕が未だ震えていた。



「おぉらよっと!!」



 そんな私の無様な姿に同情してくれるわけもなく、無慈悲に攻撃は続けられる。

 大振りの横薙ぎ。

 反撃はないとよんで─いや、反撃を恐れないという意思が込められた一撃だ。

 なんとか足に力を流し、後ろへ跳躍する。

 雑な回避だ、すぐにつめられる。

 着地と同時にまたもう一撃。


 まずい、避けられない!


 回避に回す力すら、私にはもう残ってはいなかった。


 左から迫る大剣に右手にもつ剣で防御する。

 金属と金属が激突する甲高い音。

 一瞬の火花。


 そんなものは長く続かなかった。



「遅い!いや、ぬるい!!」



 力押しに負ける。その感触が右手から脳へと伝わり、同時に敗北の予感を感じさせた。


 甲高い音は鳴り止み、鈍い音がかすかに聞こえた。

 聞こえたと思えばすぐに、左腕に激痛が走った。

 身体を真っ二つにされるよりかはと、咄嗟に肘を曲げて力をいれた左腕に鉄が食い込む。



「イィッッッ!!!?」


「!?おお!やるなぁ!!」



 大剣の一瞬の勢いの衰えを逃さず、すぐに先程力を込められなかった足に再度回避の命令をだし、横へ跳躍する。


 追撃は……?こない……。

 左腕…はもう使い物にならなそうね。


 現状をなんとか把握し、着地。

 警戒は怠らない。



「リーダーの言う通り、お前は連携されるとかなり厄介だが、単体でいったらそこまで強くねぇなぁ!動きが急に鈍いぜぇ?」



 そんなもの、私だってわかっているわ……。

 私の強みはサポートの的確さ。

 だから2対2で極力勝負をかけなきゃいけなかったのに、こんな無様にいいように1対1にされて、本当に弱いわね、私。


 血が落ちる。

 大量に落ちていく。

 血溜まりができる。

 地面にできていく。


 もういっそやられてしまってもいいかもしれないわね。

 私にできることは最低限やれたはず。

 マリとレイが敵を倒すまでの時間稼ぎをするって役割はもう果たせている。

 あとは目の前の相手を少し相手すれば十分よね。


 、冷静に現状を分析する。


 サポート特化な私に対して、タイマン特化な相手。

 完全な不利盤面だ。



「……ちっ、さっきの凌ぎでまだ楽しめるかと期待してたら…やる気なくしてんじゃねぇか、つまんねぇなぁ」



 私とセファの間に訪れた静寂の間に、気怠そうなため息の音が響く。


 負けてもいい、時間稼ぎができれば。

 あとはマリが頑張ってくれるわ。


 セファの呆れ顔が一瞬だけ見えた。

 次の瞬間には私の目の前、すぐそこまで距離を詰めていた。

 大振りの豪快さに恐れを│いだいてしまいそうだ。

 横薙ぎが来ると感じ、私は後方へ下がる。

 しかし、振りかぶる仕草はただの偽装ブラフ

 私が後方へ下がることをよんでいたセファは、そのまま突進してきた。



「ッ!?グゥゥウ!!フゥゥ!!?」



 体全体を使ったタックルが完全に無防備な状態の私の身体に激突する。

 衝撃に備えようと身体が強張ったときの力が、声となって表に出される。

 肺にあった空気が全て無理やり吐き出され、ただただ不快な感覚と感情だけが残される。



「言っておくがぁ…俺はそんなやる気のないやつに負けやしないぜ?」




 ──腹が立った。

 タックルの痛みに?

 セファの声に?

 無様な自分の姿に?




 ──いや、今はそんなことどうでもいいわ。

 とにかくなにかしなきゃだめじゃない!!


 すぐさま受け身をとり、相手の体勢を瞬時に把握しようとする。




 ──反撃はないと舐めてかかった大振り……!

 隙がある!

 ここしかない!!


 両足ですぐさま立ち、右手に力を込め、剣を右から左へとセファの首を刈るように動かす。

 左から迫るセファの大剣はまだ私に届いてない。

 セファの顔が驚愕に塗れている。




 ──間に合う!

 届け!!




 見えた敵の口角は上がっていた。



「かかったな」



 セファへと届くはずだった剣は跳ね返されていた。

 私の身体への攻撃だと思われた大剣の動きが、急遽私の攻撃を防御するための動きへと変えられていた。



「その隙はとれないぜぇ!!」




 ──あぁ…やっぱり無理そうだわ。

 あとはそうね、マリに任せるとしましょう。


 やられる瞬間だと言うのに、嫌に冷静さが取り戻されていく。


 不意に脳裏を横切る、私の心の声。




 『もういっそやられてしまってもいい』




 ──なにいってんの?


 さっきまでの私の気持ちを思い出していく。




 ──あれだけ私達を…をバカにしていた相手に、私はやられっぱなしでいいってわけなの?


 いつかの私の姿を思い出していく。




 ──今のあなたは、考えてるふりだけして、ただ現実に打ちのめされてる、愚かで無様な昔のあなたそのまんまだわ。


 怒りの正体が見えてきた。




 ──あのとき、あなたは、あの子を支える人間になるって決めたはずでしょ!


 いつかの誓いを強く思い出す。




 ──それをあなた…勝ち目がないって勝手に諦めて…心のなかで散々言い訳して…そんなの、ただ目の前の現実から逃げてるだけじゃない……!


 いまの自分の弱さを思い知る。




 ──そんなバカみたいな昔の私は、もういらない!




 剣を弾かれ、体勢が崩れた身体を無理矢理屈ま  せようとする。

 だが、その運動よりも速く、敵の大剣は既に薙ぐ動きを始めていた。


 絶望的に、絶対的に間に合わないことを悟る。




 ーそれでも、私は、諦めたくない!ー




 ──どこからともなく、鋭利な『何か』が飛んできた。

 それは一切のブレをすることなく、美しい放物線を描いたのを匂わせる角度をしていた。

 その刃は、必然と、敵の右腕へ、吸い寄せられた。

 『何か』が敵に刺さる。

 敵の大剣をもつ腕の動きが、刺せられた『何か』によって鈍くなった。



「なっっ!?っちぃぃ!!」

(どっから攻撃が!?いや、今はそうじゃねぇ!振り切れろ、速く!!)



 それまで一切、余裕の姿勢を崩さなかった敵に驚愕、困惑、焦燥が表れる。

 予想だにしない攻撃を受け、怯んだことでうまれた一瞬の猶予。




 ーこんどこそ!!!ー




 全身の、奥底へ、力を流す。



(なっ!?避けられた!!?)



 間に合うはずのなかったしゃがみ回避。


 既に限界の足腰に鞭打ち、飛び込む。


 がら空きの懐へ。



「アアアァァァァァァ!!!!!!」



 懺悔、悲鳴、鼓舞をぐちゃぐちゃに混ぜた咆哮。




 手に伝わる感触。


 高鳴る鼓動。


 辺りを支配する呼吸の音。




 ──剣は貫いた。




「はぁ…はぁ…はぁ………」


「……いい気合じゃねぇか。負けたよ」



 敗北を認めるセファ。


 その声には、一切の皮肉のない、清々しい雰囲気を纏わせていて、なんともいえない心地よさを覚える。


 速く、重く、鋭い攻撃を生み出す豪快な剣筋と人格をもつ大剣の使い手。

 そんな強敵は、勝者を称え、敗北を認めては、その姿を消していった。



「……倒されたらこうやって消えていくのね」



 まだあんまり頭が働き始めてない。

 そんな素感想を呆けるように一人呟くぐらいに。



「ハァ…ハァ……ッ!いたッ!!」



 無我夢中だったがゆえに忘れさせてくれた全身の痛み、疲労がいたずらに顔を出す。

 どうやら私の頭も働き始めたようだ。

 思わず体を強張らせ、顔を俯かせ、目を細めてしまう。

 その視線の先に、思わぬものが目についた。

 見覚えのあるその『何か』を確かめるため、手に取る。



「……やっぱりねぇ…なんとなくわかってはいたけども……」



 何度か触らせてもらった記憶のある、その『』に─正確にはその持ち主に私は助けられたようだ。



……あんた未来でも見えてるの?」



 ただの奇跡とは思えないあのナイフの軌跡。


 気配読みも、ここまできたら未来予知よ。


 常識外れな事実を前に、私は苦笑を漏らす。

 ひとしきりに気持ちを落ち着かせ、身体を休ませたのち、仲間がいる方へ向かう。



「……まだ終わりじゃないわ。マリ、レイ…まぁノム。みんなのこと、私が支えなきゃいけないんだから」




 ──なんとなしに口に出した独り言が、頭の中で反響する。




 ──向かう足取りは、決して軽いものではなかった。

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エクセリクシー・イ・エクフィリズモス ROY613i @ROY613i

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