第8話 青い流星
『滅却完了いたしました』
平坦な声で、パンドラはそういう。
俺? 顎取れるかと思った。
「でもエクスカリバーが1%の電力消費として、10%も使うならこうなるのか」
『半分以上は大型のワームホールの展開に必要な電力です。
それに、やろうと思えば光線を10秒程勝者し続ける事も可能でした』
「それって、岩盤貫通する?」
『いえ、マントルを貫通いたします』
マントルって何だよ。
まぁ、なんか凄くヤバいって事が分かったからもういい。
『お褒めの言葉は頂けないのですか?』
「なにそれデレ期?」
『はい』
「よくやったな、パンドラ」
『はい』
平坦な声でこいつは言う。
だから心境はよく分からない。
そして、この声も聞こえている筈なのにお前は何も言わないから、俺も聞かない事にした。
『調べましょうか。ピラミッド……跡地を』
建造物というか、巨大な穴に成り果てた地点。
恐竜に騎乗し、俺は滑って穴の底へ向かった。
「けど、全部消え去ってんじゃないのか?」
『可能性はあります。
ですが、金属は融解程度で済んでいるかと。
宝石類があれば残っていると思いますよ』
「宝石? そんなのに興味があるのか?」
『いえ、脱出後の旦那様の金銭確保にと。
そちらのスケジュールも私が管理しているのでご安心下さい』
はいはい。
ありがとうございます。
『はい、は一度ですよ』
「はい」
『よろしいですね』
なんじゃこいつ。
なんて会話をしていると、穴の底へ辿り着く。
深さは20mくらいか?
『約18m程かと』
にしては、かなり圧迫感がある空間だな。
空が円形に囲まれている景色は生まれて初めてだ。
そして、穴の中心。
確かにパンドラの言った通り、何かがあった。
鋼鉄の箱。
恐竜と同じくらいの高さで、結構でかい。
前面には歯車の様な物が付いている。
『金庫……ですか。
随分古風なセキュリティですね』
古風なんだ。
『必要なダイアル、パスワードを入力する事で開きます。
防腐はしっかりしている様ですので、開ける事はできると思いますよ』
「パスワードが分かるのか?」
『構造をスキャンします。
右手の丸いダイアルを一周させて下さい』
鋼鉄の箱の右には、小さ目の丸い取手の様な物がある。
それを回すと、カチリカチリと音が聞こえて来た。
一周したところで、パンドラが言う。
『構造スキャン完了しました。
31480902……西暦で自然浄化爆弾の投下日ですね』
つまり、この世界が滅びた日が
俺は、言われた通りの番号を入力して行く。
ダイヤルに数字が振られてたからな。
『数字は読めるのですね』
「そりゃ、冒険者にはある程度文字を使う作業もあるからな」
『言葉はどの国の言葉とも違うにも関わらず、文字の一部は残っていると。
旦那様の起源は何処にあるのでしょうか』
「流石に自分の起源なんて知らないぞ」
ガチャリと、少し大きめの音がして扉が外れる。
勝手に開いて、中身が見えた。
「こいつは……」
『これは予想外です』
「『卵」』
「かよ」
『ですね』
俺と同じくらいあるサイズの巨大な卵。
それが、金庫の中に納まっていた。
――パキリ。
「え?」
『日光によって劣化する材質です』
なんじゃそりゃ。
「お前等! 警戒態勢!」
恐竜共に指示を送る。
あのトラウマアンデッドの巣窟にあったものだ。
孵った瞬間襲い掛かって来る可能性は十分ある。
ヒビが拡大して行く。
ぴしぴしと普通の動物の卵じゃ考えられない音を立てて。
「キュゥゥゥゥ!」
青い光が、俺の鼻先を掠めた。
「は?」
驚いて、俺は光の軌跡の先を見る。
右を振り向くと、顔の直前、俺の肩の上に一匹の龍が乗っていた。
『在り得ません……』
ビビらす様な声でパンドラは言う。
「何がだ!」
『その物体は私の測定で、マッハ1近く……秒速300m程の速度で移動しました……』
意味が分からん。
「意味が分からん」
『何らかの青色の残滓を残し、一切の衝撃波を発生させる事も無く、ただ一瞬で金庫内から旦那様の肩までの3mを、約0.01秒で移動したのです』
あーつまり、超やばい生命って事?
『はい。
間違いありません』
「キュゥウ!」
肩から可愛げのある鳴き声が聞こえて来る。
青い鱗を持ち、立派な二翼を持った四足獣。
けれど、前足は上げて器用に二本足で俺の肩に乗っている。
『初速でその速度を出せるという事は、マックスピードは更に上がると推測できます』
「キュルゥゥゥゥ」
その化物が、俺に頬ずりしてる。
特別、危険は無さそうに見えるけど……
『現状、その生物が旦那様を殺害しようとした場合、私に止める手立てはありません』
ビビらせんなよ。
けど、パンドラでもお手上げの相手って訳だ。
あのアンデッドとどっちが強いんだろ。
「キュウ」
そう言うと、青い龍の様なそれは自身の腹を何度か叩く。
腹でも減ったんだろうか。
でもお前何食うの?
「キュキュキュ!」
そう思っていたのも束の間。
龍は周りを見渡して、目を輝かせる。
そのまま、また青い残滓を残して消え……
「キュゥ……!」
戻って来てたわ。
『散らばっていた宝石を食べたようですね』
「え、宝石あったの?
って、食いやがったのか?」
『どうやら、主食らしいです』
見た目はドラゴンの子供だ。
幼龍と呼ばれる奴だな。
けど、その性能……特に速度に関する能力は見た事が無い程に高い。
『戦闘機並みの初速です』
戦闘き、がなにか知らんが強そうだな。
「キュウ」
しかし、何故か俺になついているらしい。
他の恐竜と違って機械っぽい雰囲気は感じないし。
「何なんだよお前」
「キュウ?」
どうやら、答えてくれるような機能は無いらしい。
『一度、衛星内に帰還しますが?
それの傍に居るのは危険です』
「ワームホールに俺が入る前にこいつも入ってくるぞ」
『その可能性は高いかと……』
しょうがないか。
飼う以外に、選択肢は無さそうだし。
『はい。雛のように旦那様が親だと刷り込まれたのだと思われます。
しかし、その程度の知性では旦那様に損益となる行為に及ぶ可能性は十分に存在するかと……』
まぁ、どう見ても頭良さそうでは無いよな。
例えば、コイツが成長して巨大になって俺の肩に乗ったら俺は死ぬ。
けど、じゃあこいつを倒せるのか?
無理だろ。その前に俺が死ぬわ。
「まぁ、結局飼うしか選択肢無いんじゃないか?」
『そうですか』
「じゃあ名前でも付けるか?
な、シューティングスター丸」
『え……』
「え……?」
青いドラゴンの名前は〈スイ〉と決まった。
解せぬ。
機械神の加護を得た探索者 ~ゴミスキル【電話】が覚醒したら、人工衛星とかいう古代兵器の声が聞こえた〜 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi
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