第7話 神の裁き


『電力復旧率3%』

『個人兵装:ショックバリアが起動できます』

『更に、同時操作可能な個体数も200まで増加します』


 パンドラの電力は、俺と出会った時の時点で総力の2%程だった。

 それが、今は3%。

 それも全て、こいつ等のお陰だろう。


「GrararararararararAaaaaaaaaaaaa!!」


「GRrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!」


「PROOOOOOOONNnnnnnnnnnnn!」


「CURAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

!」


 大勢の機械恐竜が、俺を取り囲む。

 けれど、そいつらは一切俺に手を……牙も出してくる事は無い。


 何故なら、全てクラックが完了しているからだ。


 派生スキル【洗脳クラッキング】。

 それは、テイマーの様なスキルを実現する物だった。


 そして、俺のテイムした機械恐竜の数は100。


 それは、パンドラの操作が同時に100匹までという限界があったからだ。


 けれど、電力が復旧した事でパンドラの演算領域は拡大。


「もっと増やすか」


『えぇ、よろしいかと』


 俺は恐竜を引き連れ歩いていく。


 まさか、こんな事が実現するとは。

 こいつらの戦力だけで、俺の居た都市を滅ぼせる様な気がする。


 いや、あの街はあの街で化物揃いか。


「これでアンデッドに勝てると思うか?」


『星剣を使えば可能かと。

 しかし、電力が復旧すればもっと効率的な方法がございます』


「へぇ、どんくらいの電力が必要なんだ?」


『電力総量の10%を使用した【サテライトホールブラスター】なら一撃で制圧が可能でしょう』


 凄そうな名前の兵器だな。

 パンドラの声からわくわくしてる感じが伝わって来る。


『別に、その様な事はありませんよ?

 少しだけ待ち遠しいなとは思いますけれど』


「そうか」


 草原で、近くに居る恐竜を俺の恐竜で半殺しにする。

 そのまま複数の巨体で押さえつけて、俺が頭部へ触れる。

 パンドラの遠隔改竄で、マスターコードを上書きする。


 これで、コイツの主人は俺だ。


 そんな作業を繰り返す事2日。

 俺の勢力は恐竜100匹まで拡大。


 その恐竜をパンドラのマップ機能と連動し、連携させている。

 魔石を大量に集める事に成功したのだ。


 この隠しエリアに入って6日。

 俺の戦力は爆発的に増加した。


「今日一日で、200まで数を増やす。

 明日と明後日で、全エリアを踏破する」


『スケジュール調整はお任せください』


 それ以外も色々と任せる事になるがな。


『えぇ、問題ありません』


 一番大型の肉食恐竜。

 スピノサウルスの背中に乗る。

 俺は草原に住まう恐竜たちの洗脳を開始した。


 周りの絶景を眺めながら待っていると、他の恐竜が別の恐竜を捕まえて持って来る。

 その頭に触れて一分の沈黙。

 そいつは立ち上がって、群れに加わる。


 何て簡単な作業なのだろうか。


『200匹達成しました』


「もうか?」


 まだ、6日目の半日程しか経っていない。


『私のマップを使えば容易い事です』


「よし、ならば次は魔石を集めろ。

 パンドラの電力を回復させるのだ!」


 気分は恐竜たちの王様。

 テイマーの最上位職業、魔を統べる王。

 それと肩を並べる竜王様だ。


『子供みたいですよ』


「あぁ、それはそうだろ。

 あの俺の心臓をぶち殺してくれやがった、アンデッドに復讐するのが目的だしな」


『確かに、私もあのアンデッドには多少の怒りが湧いております』


 パンドラがそんな事を言うなんて珍しい。


 機械的というらしい、淡泊な性格の女だ。


 あくどい商人の様な雰囲気とでも言おうか。


『不服な評価です』


「結構褒めてんだけどな」


『不服な評価です……』


「ごめんごめん」


『むぅ……』


 なんだよそれ。

 パンドラの頭を撫でてからか、彼女の感情は少し増えた気がする。


 俺は200匹の恐竜を従えて砂漠へ向かう。

 恐竜の質は草原の方が高い。

 けれど、恐竜の数や見晴らしの良さは砂漠の方が優秀。


 ピラミッドにさえ近づかなければアンデッドも湧いてこない。


「GrararararararararAaaaaaaaaaaaa!!」


「GRrrrrrrrrrrrrrrrrrrrrr!」


「PROOOOOOOONNnnnnnnnnnnn!」


「CURAaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa

!」


 様々な恐竜が、咆哮を上げて走り出す。

 至る場所で恐竜共の悲鳴が上がり、血飛沫が地面を濡らす。

 恐竜は魔石だけを回収し、俺の前に積み上げていった。


 俺は、それを拳大のワームホールに入れるという器用さが必要な担当を任されている。

 おかしい、竜王様なのに。


『竜王様かっこいいー』


 凄まじい棒読みでパンドラが言う。

 嘗めてるよこいつ。


『手、止まってますよ』


 んの野郎……!

 まぁ、入れるけどね!


 無心で、魔石をワームホールに突っ込み続けた。



『総電力の12%が復旧しました』


「お、ついにか」


『はい。ピラミッドへ向かいましょう』



 という事でやって来たぜ憎きピラミッド。

 何度見ても、奇麗な三角錐だ。

 別に美しいなんて思ってないがな!


『これを』


 小さなワームホールが開いて、眼鏡の様な物が出て来る。

 けれど、レンズの部分が黒い。


『サングラスです。少々眩しいかと思いますので』


 良く分からないが、取り合えずかけて置く。


『行きます』


 そう、パンドラが平坦な声で呟く。

 瞬間、ピラミッドの上空に巨大な黒い穴が開く。


『ワームホール発生完了』

『砲台投入開始』


 ワームホールの中から出てくるのは、銀色に輝く下向きの塔。

 その中心点に光が集まっていく。


『発射用意完了』


『レベル5城塞都市用兵器・サテライトブラスター……発射!』


 そう言った瞬間、世界が真っ白に染まった。


 約0.2秒。

 それだけの照射であるにも関わらず、俺にはその時間が無限にも思えた。

 音は無く、白以外の色も無く、風圧も、何もない。


 ただ、ピラミッドのあったその場所に巨大な穴が開くという結果だけが残った。


『――蒸発完了カウンターコンプリート


 もうパンドラには逆らわない様にしよう。

 俺はそう決心したのだった。


『旦那様、スッキリしましたね』


「う、うんそうだね」

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