【SS】花畑デート
──城近くの森で、花畑がいますごく綺麗なんです。行きましょう──
そうリサに誘われて、散歩に出た。
私の妹リサは、"双つ影"と呼ばれるドッペルゲンガー。
いろいろあって、今は男性の姿をしている。
王弟で、大公で、そして私の結婚相手、ライオネル・ハーリッド大公殿下のお姿を。
氷のような冷酷さで知られた美貌の大公殿下は、リサが成り代わった日以来、皆が驚くような愛妻家に変じていた。
そんな大公が妻を花畑に連れ出し、二人きりでくつろいでいる。……ように、見えるだろう、もし見物人がいたら。
実際は。
リサは現在、苦戦中だった。
花を私の髪に編み込んで飾ろうと思い立ったらしい後、私の髪相手に奮闘している。
姉妹時代、私たちは互いの髪を幾度も結いあった。
だからリサにとっては造作もないはずの編み込みだったのに、"ライオネル様の指"がやり慣れてない作業のため、予想以上に手間取っているらしい。
完璧にわかっているのに、再現できないもどかしさ。
「クズの上に無能だ」と、リサが悪態をついている。
ライオネル様の、つまり今の自分の身体に。
リサは一体、ライオネル様に何を求めているのか。
(リサ……、ライオネル様普通に凄かったみたいじゃない? この間の狩りで、一番の大物仕留めてたけど?)
"双つ影"はライオネル様の姿かたちだけではなく、その技巧をも写している。
ライオネル様が出来ることは、"双つ影"もこなせるわけで。
大公として恒例の狩猟大会に参加した際、リサは好成績を収めていたのだ。
狩猟大会はリサにとって、私と離れなければならない苦痛の時間と刻まれたらしいけど、私はリサが活躍して、とっても嬉かった。
「う──!!」
ああっ、唸り出した! リサの限界が近い!
「待って、リサ。ちょっと私にやらせてみて」
リサの編みかけを途中から引き継ぎ、ゆるくふんわりとおろす三つ編みに変える。
ところどころ不揃いなのがアクセントになっていて。
「これも可愛いと思うんだけど、どうかな?」
ぱああああ……!
音が出てるかと思うくらい、リサの、ライオネル様の顔が輝いた。
「すごく似合います、リリア!」
そうして編んだ髪に、いそいそと花を差し入れて眺め、うんうんと満足そうに何度か頷いた。
(良かった、ゴキゲンは治ったみたいね)
リサが納得してくれて良かった。
そう思っていたら、リサが突然決意表明をした。
「この指でも上手くできるよう、もっと訓練させます!」
自分の手を見ながら言う。
大きくて広い、しっかりした男の人の手。
(その訓練は必要なの? リサ)
大公殿下が努力する方向ではない気がする。
「大丈夫よ、いつも侍女が編み込んでくれるもの」
私の言葉を、リサはキリッと真剣な目で否定した。
「いいえ、私もやります」
目も覚めるようなイケメン・フェイスに、私は逆によろけそうになった。
(ライオネル様の決め顔を何に使っているのよぉぉ、リサぁぁ~~)
そういえばこの子は、負けず嫌いだった。
わがままな妹モードが発動している。
(気のすむようにさせるしか……。はぁぁ……)
「そろそろ風が出て来たから、帰ろうか」
「そうですね。リリアが風邪をひいたら困る」
リサに手を取られながら立ち上がった私とは対照に、すっと膝を折った"彼"が、ドレス裾の草花を払ってくれる。
(こういう時は貴公子なんだから)
丁寧な扱いがむず痒く、夕陽のように頬が染まる。
赤黄色の森の中、私たちは手を繋いで歩いた。
帰り道を、二人そろってゆっくりと。
こんな時間がずっと続けば良いと、願いながら。
冷酷な王弟殿下のふたりの花嫁。~なんでも一緒を望む妹が、私と同じ相手に嫁ぐと言ったので、こうなりました~ みこと。 @miraca
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