乱世にさらなる悲惨をふりまく謎めいた連続怪事件の裏には、数百年も昔の惨劇があった。ネット怪談で時たま見られる忌まわしい呪いの物語をも思わせますが、五胡十六国時代という戦乱の時代の描写と、怪異に立ち向かう登場人物たちの姿によって、その生々しさと哀しさとが引きたてられています。登場人物たちが、悲惨をなんとか鎮めようと、安らがせようと全力を尽くすからこその、この哀しさをどうかご覧ください。
戦乱が仏徒の悲しみを呼ぶのか、仏徒が戦乱の世に巻き込まれたのか。この作品に対して言えるのは、やるせなさです。誰が悪いのか。いや、「悪いこと」はしている。では、どうすれば避けられたのか。このような時代でなかったら。冒頭で出会う、仏徒と道士。ふたりは奉ずべきものにこそ差異を感じていますが、等しく現世における悲劇、悲劇が招く怨念を背負っています。そんな二人が、やがて。怪奇譚ではありますが、そこには否応なく時代が横たわる。彼らの悲しみが、少しでもあなたに伝わりますように。