かわいいわんちゃん

染谷市太郎

イヌを飼う

 犬を飼うことが、俺の夢だった。


「随分と賑わってるな」

「おかげさまでね」

 俺はバックヤードに積まれた檻を見て感嘆する。

 檻の中には犬猫をはじめとする様々な動物が飼育されていた。そこかしこで、鳴き声が聞こえる。

 店主は檻の隙間から噛みつこうとする動物たちを避け、奥へ進んだ。

 この店は、ペットを生体販売する特殊な店だ。様々な動物がいるが、ここから奥のバックヤードには、特に手が付けられず、商品にならない、つまり将来的に安楽死がされるであろう動物たちがいる。

 店主のブリーダーとしての腕は一流のため、手は尽くしたがどうにもならない動物たちだ。

 店主は奥の動物たちを見てため息を吐く。

「ペット買うのに今どき生体販売なんて古いね」

「まあ、お前んとこ以外は軒並み潰れてるからな」

 この店には潰れたところから流れてきた動物もいる。そういった動物を、せめてよい飼い主の元へ届けようと尽力している店主だが、現状火の車であることは変わりない。

 そもそも、生体の動物に対する需要があまりないのだ。

「普通だったらロボ飼うね。子供に安全、放っておいても死なずに安心、臭くない毛が抜けない世話しやすいの三拍子ね」

 俺は首を横に振る。

「ロボは苦手なんだよ。無機質で」

「難儀なものね」

 一番奥の檻に案内された。

「この子、この前紹介したのはね」

「随分と弱ってるな」

「かなり気性が荒くてね。なかなか風呂に入れたりとかできないんだよね。餌は食べるんだけどね」

 中型動物用の檻の中を覗き込む。

 もぞりと、布一枚羽織ったものが動いた。

 くすんだ金色の毛の奥から、紫の目がこちらをにらみつける。

 なるほど、これはなかなか店主も手を焼くだろう。

「気に入ったみたいね」

「顔に出てたか?」

 表情から心を読まれると職務上困る。

「長い付き合いだからわかるね。他にはわからんね」

「ならいい」

「こいつはだいぶ元気ね。仏頂面なお前にはお似合いね」

「だったらちょうどいい」

 俺はもう一度檻の中を覗き込む。

 歯を向いて威嚇する、そいつは短くなった手足で必死に檻の端へと逃げようとしていた。

「何かしたのか?」

「施術したのが私ね」

「恨まれてんなぁ」

 今にも嚙みついてきそうなその目は、店主を憎しみの感情で貫いていた。

 店主の不断の顧客が飼うには少々元気すぎるだろう。

「ほんとにこいつでいいのかね?」

「離し持ち掛けたのはお前だろ。元気な方が俺も気を遣わずにすむ。それに、犬は前からずっと飼いたかったんだ」

 俺の言葉に、店主は檻の中身に目を落とした。

「犬というか、ヒトイヌだけどね」

 檻の中、手足を切り落とされたニンゲンが、紫の目でにらみつけている。




 人口爆発が危ぶまれて数世紀。増えすぎた人間の価値はその数に反比例して小さくなっていった。

 半面、環境破壊などから動物の価値は高まった。ペットなど愛玩としての飼育は免許制となり、観葉植物を含めあらゆる生物の生態取引が規制されて久しい。

 ペットを飼うことが、一部の金銭と時間の余裕がある者の特権となってから、代用物として注目されたのは“ニンゲン”だった。

 人として産まれながら、貧しさゆえに、出生ゆえに、人権を持たないニンゲンである。




「よーしよしよし。いい子だなー。今日からここがお前の家だからな」

 俺は大きなペットキャリーからイヌを抱き上げる。

「離せ!変態!屑!鬼!悪魔!」

「おー元気元気」

 イヌは関節から先のない手足をばたつかせる。必死の抵抗だがこちらには全くダメージがない。

「確か手術の痕はきれいに治ってるって言ってたな」

 イヌが着ていたシャツを脱がす。

「あーあー、暴れるなほら、怖くない怖くない」

「ガルルルルッ」

 イヌは本物の犬のように威嚇した。

 もっとも、俺は犬が威嚇した姿を実際に見たことはないが。

 現代で犬や猫を見れるのは、たいてい動物園や映像記録だ。昔、俺の曽祖父母の代はそこら中に野犬や野猫がいたらしいが、今では信じられない話だ。

「あ、まあいいか」

 びりっとシャツが破けてしまったが、かなり汚れていたのでかまわないだろう。ゴミ箱に投げ捨てる。

「相変わらずいい腕してるな」

 イヌの腕を取った。手術痕があらわになる。

 ヒトイヌ化手術による両手両足の切断痕と、去勢手術による下半身の痕。

 うっすらと縫合痕はあるが、化膿している様子はない。頻繁にフロには入れられないとはいえ手術痕は管理しきっていたらしい。

「じゃあまずは、フロだな」

「やめろー!」

 抵抗しているが、しょうがない。かなり臭いのだ。このイヌは。獣臭がする。嗅いだことないが。

「はいはい」

 小脇に抱えて風呂場に直行する。

 店主からもらった全身を洗えるシャンプーとトリートメントを用意し、浴室に入った。浴室のタイルは暖房付きなので、幸い冷たい場所に降ろすことはない。

 パネルを操作し、久しぶりに湯を張る。

 この部屋を借りたときはいらない機能だと思っていたが、イヌを飼うとなれば話は別だ。風呂釜もいつもきれいになっている。全自動でよかった。

「離せ―!!!」

「ほーら、きれいになるぞー」

 片腕でイヌを固定し、準備を進める。

 しゃっとシャワーを浴びせ、まずは薄汚れた髪にシャンプーをかける。皮脂や埃が絡まって固まっている部分もあった。蒸れた匂いを落とせるだろうか。

 汚れがたまりすぎてなかなかシャンプーが泡立たず、何回か洗い流しを繰り返す。その間イヌが暴れてびしょ濡れになってしまった。もうこの際いいだろう。

 5,6回目にしてようやくジャンプ―が泡立ってきた。そのころには髪の本来の色が現れている。やはりきれいなブロンドだ。

 洗いすぎてきしきしになった髪に、トリートメントをなじませる。

 自分は短髪で実感がなかったが、トリートメントとはかなり効果があるようだ。指の引っ掛かりが一切なくなる。

 次に体を洗う。スポンジで泡立たせ、隅から隅まできれいにした。体は二度洗いにした。

「よしよし」

「ううう……」

 洗い終わるころには、暴れ疲れたのかイヌは低く唸るだけになった。

「ほら、お湯も沸いたぞ」

 部屋の購入以降、一回も使わなかった湯舟がほかほかと湯気をたたせている。イヌが入っても大丈夫か手で確認する。40度の適温だ。

「やめろおぉぉ」

「まあ、入れ入れ」

 ざぷんと入れれば、金色の髪が水面に広がった。

 体を支えてやりながら、顔に張り付いた髪を掬ってやる。

「やっぱいい面してんな」

 店主の言ったとおりだ。今までは長い髪で隠れていたが、整った顔立ちはまるで人形のように愛らしい。

 これで大人しければ、高値で取引されただろう。

 手足がそのままでも十分価値はあるが、ヒトイヌにしたのは顧客の注文だったらしい。もっとも、その顧客が破産し、手術はヒトイヌ化と去勢だけの中途半端なものとなってしまった。

 脳手術をすればおとなしく従順な性格になるが、店主はこんな元気なニンゲンの脳に手を加えるのはもったいない、と俺に安く売ったわけだ。

 俺も元気なイヌの方がいいためとても助かっている。

「おーい、湯加減はどうだ?」

「……」

「おーい?」

 湯におぼれないよう支えていたイヌの顔を覗き込む。

 白い肌が真っ赤になったイヌの鼻から、たらりと血が流れた。

「おい!」

 イヌはのぼせていた。


 冷製枕に頭をつけさせる。

「離せ!この!クソが!」

「おとなしくしてろ」

 ストローをさした経口補水液を与える。意外にすんなりと飲んでくれた。

 店長に連絡したところ、幸い病院に連れていくまでのものではないようだ。

「クソ!俺を殺す気か!」

「悪かったよ」

 ひどく偉そうないい口だ。まあ元気そうでなにより。

 きれいになったついでに食事でもとらせるか、と店長からもらった餌をテーブルの上のプラスチック皿の上に出す。

 ヒトイヌ用の低カロリー食らしい。

 クッションを置き、イヌを皿の前に座らせた。

「こんなもんでいいのか?」

 携帯のカメラを向けながら、店長に見せる。

『ああ、大丈夫だね』

 通話口の向こうから店長が教えてくる。

 なにぶん、イヌの飼育は初めてだ。生態的に自分と共通点が多いとはいえ、不慣れなことは否めない。からの店主助言は非常に役立つ。

「うまく食えるか?」

『うちにいた頃はちゃんと食べれてたね』

「いっぱい食えよ」

 カメラの向こうのイヌに声をかける。

 ぐいと餌に頭を伸ばしたイヌが、皿を咥えた。

 ブンッと振り回された皿。餌が散らばる。俺は避けたが周辺に飛び散って汚れてしまった。

『おおう、まさかこう出るとはね』

「お転婆だな」

 掃除をしようとする俺をしり目に、イヌは玄関へと這っていった。

『逃げてるね』

「元気でいいじゃねえか」

 この様子じゃもう心配いらないだろう。

 イヌは床をはいずりながらドアへとたどり着いた。

「もう、ちょっとで」

「よしよし」

 玄関のドアノブに短い腕を伸ばそうとするイヌを捕獲する。

「離せ!クソ!」

 ばたばたと暴れられながら、俺はリビングに戻った。

「飯は食っとけ」

「いやだ!やめろ!」

『もうこの際手で上げたほうが早いね』

「分かった」

 店長に言われたとおりにスプーンで給餌する。

 膝の上に置いて、片手で押さえれば簡単に身動きを封じることができた。

「ほら、ご飯だぞ」

「うぐぐ」

 うなるイヌの口に餌を持っていけばものすごく嫌な顔をしながら食べてくれた。食い意地は張っているらしい。店にいたときも、餌だけはきちんと食べたと店長から聞かされている。

「よしよし。上手に食べれたな」

「がぅっ!!!」

 噛みつきを避けながら、口を拭った。シリコーン製の歯磨きで中もきれいにする。

 あらかた終わることには、時計は夜中を指していた。

「もうこんな時間か。疲れただろ、寝るか」

 ひょいと抱えて寝室へ向かう。

「はなせー!」

「まだ元気があるのか。だったら遊ぶか?」

 ぷぴぷぴと犬用のおもちゃを鳴らす。自分だけの犬が飼いたいあまり、犬のグッズだけは大量に購入していた。

「誰が遊ぶか!」

 ばしっと短い腕で飛ばされる。

「そうかそうか」

 イヌの暴れる勢いが弱まっている。やはり疲れているようだ。

 寝室に入り、はたと思い出す。

 ああ、そうだ。非常に重要ことがあった。

「お前の名前だな」

「ゲロ!クズ!」

「もう決めてあるんだ。イヌを飼ったらこれにしようって」

 犬用ベッドのプレートを見せる。

「今日からお前はポチだ」

「アホ!」

 まだ慣れないだろうが、そのうち気に入ってくれるだろう。




 5時。時間きっかりにいつもの癖で目が覚めた。俺の起床に合わせて自動的に照明がつく。

 まだ眠い目でポチを探す。ベッドの端で寝ていたはずの姿がない。寝室をよく探せば、ベッドの下に潜り込んでいた。

「そんなとこで寝てると、風邪ひくぞ」

「……」

 返事がない。まだ寝ているようだ。警戒心が高いのか豪胆なのか、どちらなのかよくわからなくなるイヌだ。

 しかし寝起きの部屋に、自分以外の存在があることはひどく新鮮だ。きっと子供のころ以来かもしれない。

 カレンダーを見る。月曜日。ペットの購入にあたり、有休をとっているため今日まで仕事はない。

 そのうちにやっておきたいことがあった。

 まだベッドの下で寝ているポチを抱える。

「……は、はなせ!」

 起きてしまったようだ。噛みついてくるが、支障はなかった。

「お前は元気だからな、こいつをどうにかしてやりたかったんだ」

 シャキンとハサミを取り出す。

 ポチはその銀色の刃に真っ青になった。

「うわああああ!やめろおおお!!!」




「で、昨日今日で何の用だね。返品しに来たかね」

「いや、こいつをどうにかしてほしくてな」

 俺はポチの頭を指す。

「また派手にやったね」

「動きやすいようにしてやりたかったんだが……いかんせん他人の髪を切るのは初めてでな」

 ポチの無駄に長かった髪を切ろうとしたのだが、動き回った結果ザクザクに切れてしまった。

 俺もポチも怪我はないが。少々見た目がかわいそうだ。

「ま、これでもプロね」

「頼む」

 店主はトリミングも扱っている。


「うう……」

「さっぱりしたなー」

 ポチのベリーショートになった頭をなでる。

 俺が抱えていたため暴れるに暴れられずだいぶ疲れたらしい。おかげで店主は簡単にハサミを入れることができたが。

「クソが!」

 ポチはご立腹らしい。今の方がさっぱりして動きやすいと思うが。

「こいつ鳴き声の種類多いけど、なにか仕込んだのか?」

「うちでは何もやってないね。貧民街から連れてきたやつね、そのせいね」

「なるほどな」

 ポチを撫でる。噛みつかれる寸前で避けた。

「そういうあんたも口数多くなったね」

「そうか?」

「そのままイメチェンして嫁さん貰うがいいね」

「結婚はいい」

 隙を見て逃げようとするポチを捕まえておく。

「そうそう、イヌ用の服、売ってるところ教えとくね」

「助かる。貰ったものだけだと足りなくてな」

「イヌ用のおもちゃも売ってるね。他にもあらかたそろうね」

「買っておいたもので遊ばせようとしたんだが、こいつ遊ばねえんだよな」

「当たり前ね。犬用のおもちゃで遊ぶニンゲンがどこにいるね」

 店主は呆れてため息を吐いた。




 店主に教えてもらった店は、百貨店の中にあった。

「いらっしゃいませ」

 女性の店員が丁寧にお辞儀をする。

「本日はどのようなものをお探しですか?」

「こいつの服を買ってやりたくてな」

 片手で抱っこしていたポチを見せる。

 ポチはせめてもの抵抗として俺に噛みついているが、服が阻んでダメージはない。

「まあ、かわいらしいわんちゃんですね。それではこちらはいかがですか?今月に入荷した新しいデザインのワンピースです」

 ヒトイヌマネキンが着ているワンピースを指す。

「うげぇきっしょ」

「動きにくそうだな。こいつは元気が有り余っててよく動くから、もう少しストレッチの効きそうなものはあるか?」

「では、こちらはいかがでしょうか?わんちゃんの運動用のお洋服です」

 水着に似たものを示される。

 種類も様々だ。下着のようなものから、本格的なスポーツ用のものまで取り揃えてある。

「趣味悪」

「一番端のものは飾りも少なくていいな。サイズも含めていくつか試したい」

「かしこまりました。ところで、首輪のほうはご用意なさっていますか?」

「いや、こいつ用のは持ち合わせがないんだ。追加で首輪と、あとおもちゃもいくつか見繕ってくれ」

「承知しました。では試着室はこちらです」

「あんなの着せるのかよこの変態!クソ!クっむぐっ」

「さすがに店内では静かにしろ」

 場所が場所なので口をふさぐとポチは簡単におとなしくなった。

 ポチを抱えながら、店員に渡された用紙に必要事項を記入する。項目にはサービスとしてペットへの簡単なサロンサービスもあった。さすが店長の紹介した店だ。そのぶん値段は高くつくだろうが、ポチもゆっくりできるだろうしちょうどいいだろう。

「では、わんちゃんをお預かりしますね」

「離せ!この!」

「こいつやんちゃだが、俺がついてなくていいのか?」

「はい、ベテランがご担当させていただきますので」

 しゃっ、と開かれたカーテンの向こう側には、恰幅のいい男女が構えていた。

「さーポチちゃーんお着換えしましょうねー」

「ひいぃっ」

 猫なで声におびえているようだが、まあ大丈夫だろう、プロなのだから。

「たすけっ」

「ゆっくりしてこい」

「鬼ぃぃぃぃっ」

 ポチはカーテンの向こうに消えた。

 俺は待合用の椅子に腰かける。

「随分と元気なイヌですな」

「……ええ」

 隣の試着室を利用しているらしい紳士に声を掛けられた。

 ここを利用しているだけあって金持ちなのだろう。しかしいやらしい目をしている。成金タイプだ。

「金髪に紫の瞳、毛色も素晴らしい。相当高くついたのでは?」

「知り合いに譲ってもらったものだ。市場の値段ほどじゃない」

「なるほど、中古でしたか」

 はっはっはと笑う紳士の声には嘲りの感情が混じっていた。

「そちらに及ばずですが、うちのイヌもなかなかのものでしてね」

 一匹のイヌが試着室から出てきた。

 ピンクのフリルがふんだんに使われたベビードールを来た、金髪碧眼のイヌがとことこと紳士の元に近寄る。

「かわいらしいでしょう。懇意にしているブリーダーからようやく買い取ったのですよ」

 紳士のイヌは焦点の合わない目でぼんやりと紳士を、正確には音を出して動いているものを見上げる。

「そいつはよかったな」

「それが孫がわがままでしてな。青い目は見飽きた。今度は紫がいい、というのですよ」

「わがままな孫だ」

「ええ、しかし今日この店に来てよかった。あなたに出会えたのですから」

 やはりそういう魂胆か、と俺はため息を吐く。

「いかがです?私のイヌと交換は。もちろん、イヌだけでなく謝礼もお渡しします。このイヌは必要な手術は全て済ませていますから、今後かかるお金は少なく済みますよ」

 紳士の誘い。

「断る」

 しかし語尾を強め、きっぱりと言った。

 紳士は軽く眉間にしわを寄せる。

「悪い話ではないと思いますが?」

「お前にはな。だがこんな詐欺まがいの交渉に、誰が乗るとでも」

「なっ詐欺とは、聞き捨てなりませんね」

「そうか?」

 俺は紳士をにらみつけた。

「そのイヌ、見たところ脳炎になりかけているな。目も見えちゃいない。今後かかる金はそれこそ購入代の数倍はくだらないだろうよ」

 紳士は目を丸くする。

「俺を無知な若造だと思ったか?生物を飼育する以上は最低限のことを調べたと自負している。これ以上その汚い息を吸わせるつもりなら、出るとこに出るぞ」

 紳士は怒りに言葉を忘れ、はくはくと口を開閉するだけだった。

「お客様、どうかなさいましたか?」

 不穏な空気をかぎつけた店員がやってくる。

「会計を頼む。試着は終わったか?」

「はい、ただいまわんちゃんのご準備をいたします。少々お待ちください」

 店員に誘導され、レジへと向かう。

 ちら、と紳士のイヌを見た。

 ぼんやりとした目。もう何も見えていないのだろう。そして、もう何も感じていないし考えてもいない。

 その姿に哀れだとは思う。ただ、救おうとは思わない。いや、救いようがない。

 俺にできることは、ポチに同じ轍を踏ませないことだけだ。

「こちらが領収書になります。お品物は郵送でよろしいですか?」

 会計を終えた店員から領収書を受け取る。

「ああ、首輪と服だけポチに着せてやってくれ」

「かしこまりました」

 店員と入れ替わりに、ポチが戻ってくる。

「……」

 肌も髪もピカピカになり、肌触りのいい新品の首輪と服を身に着けたポチ。しかし、いつもの元気が鳴りを潜めぐたっとしていた。

「慣れない環境だったようで……」

「つい腕を振るいすぎてしまいました……」

 担当したベテランたちが申し訳なさそうにしていた。

「にどとくるか……」

 ポチは断末魔を絞り出していた。




「ペットランか」

 帰宅後、ポチには自由に遊ばせ、郵送された服やおもちゃを整理する。ポチは新しい服がまだ慣れないらしい。腕と足の断面を保護するカバーは早々に脱いでしまっている。

 受け取った荷物の中にチラシが入っていた。恐らくポチに合った施設を店員が見繕ったのだろう。一部手書きのそれには、近所のペットランに関する情報が書かれていた。

「ポチは友達がいたほうが楽しいか?」

「がるるるるっ」

 ポチはおもちゃで遊んでいる。

 おやつが出てくるタイプのおもちゃだ。なかなか遊ばない子にはこれがいいらしい。目論見通り、ポチはおやつを出そうと躍起になっている。

「次の休み行ってみるか」

 ポチが蹴り飛ばしてきたおもちゃをキャッチし次の休みの計画を建てた。




 晴天。仕事日和、もといお出かけ日和の休日。ポチを連れてペットランへと向かった。

 ペットラン。噂には聞いたことがあるが、ポチには合うだろうか。

 携帯には俺が休んだことによる職場からの悲鳴が届いているが、聞かなかったことにする。まっとうに休んで何が悪い。

「ほら、ポチここがペットランだぞ。たくさん遊べるぞ」

「離せ!クズ!アホ!バカ!」

 ポチを抱っこして受付に向かう。

 このペットランは屋内、屋外どちらも楽しめるタイプだ。芝生で遊んでいるペットたちが、正確にはニンゲンたちが、よく見える。みなのびのびとしていた。ポチも広い場所で遊べた方が楽しいだろう。

 残念ながら、ニンゲン以外のペットはいない。ここは基本どの動物でも遊べるが、たいてい他の動物は他の動物専用の施設で遊ぶ。またニンゲン以外の動物は飼育数自体が少ないうえに、だいたいの飼い主が個人で遊ばせる敷地を持っている。

「クソ!キモイ!キモイ!キモイ!」

「はいはい」

 初頭からポチが騒ぎ立てるため、受付に罵倒されることが趣味の飼い主として白い目で見られている。

 仕方がないので無視しながら記入していく。

「屋内、屋外の利用、1時間でよろしいですか?」

「はい」

「うぎー!!!」

 ポチを連れて中に入る。

 中のニンゲンたちはやはり皆おとなしかった。騒がしいポチがだいぶ浮いている。

「ポチそんなんだとお友達出来ないぞ」

 中にはポチの勢いを怖がって飼い主の後ろに隠れてしまうイヌもいる。

「ほら、芝生だぞ」

「ギャッ」

 ポチが跳ね上がって俺に飛びつく。

「なんだ、いやだったのか?」

 受け止められたポチは短い腕でポカポカと殴ってくる。ダメージはない。

「大丈夫ですか?芝生って結構チクチクするんですよ」

「そうか。勉強不足ですまない。ポチ」

 ポチはまだご機嫌斜めだ。

「飼い始めはみんなそうですよ」

 話しかけてくれたのは、同年代くらいの男だった。

「こちらの利用は初めてですか?」

「ああ」

「どうですか?中で僕の子と一緒に遊ばせませんか?」

「そうか。助かる。ポチ、お友達できるといいな」

「うるせえよクズ」

「よしよし」

 まだ苛立っているポチをなだめながら中に入る。

 屋内施設は屋外よりも面積が広い。

 絨毯が敷かれた床に椅子やソファーが置かれ、飼い主やペットたちがそれぞれくつろいでいた。

 屋内の施設は飼い主、ペットの交流の場となっているようだ。

「ドリンクサービスもありますよ?」

「じゃあ俺はジンジャーエール、ポチには水で」

「僕らも同じもので、あ、あとピザでも頼もうかな」

 注文を受け取った店員が去ってゆく。

「あれが僕のペットです。おいで、ニコ」

 ニコと呼ばれたイヌがやってくる。

 銀髪に緑の目を持った小柄な個体だ。人見知りなのかぎゅっと飼い主に抱き着く。

「ニコ、ポチくんと遊んでおいで」

 こくん、とちいさくうなずいて、ニコはポチを連れて広い空間へと遊びに行く。ポチはなぜかおとなしく連れていかれた。

「ポチくんはいつ頃から飼い始めたんですか?」

「今週からだ」

「じゃあ本当に最近なんですね」

「ああ、まだ右も左も分からない状態で。あいつには迷惑をかけてるよ」

「そんなことないですよ。かわいがられているということがよく伝わってきます」

「そうか?」

 談笑していると、ドリンクとピザが運ばれてきた。

「どうですか?」

 ニコの飼い主にピザを勧められる。

「味の付いたものは久しぶりだな」

 普段は完全栄養食で済ませてしまうため、嗜好品を口にするのは飲み会などの他人と食事をするときくらいだ。

「おい!ずるいぞ!」

 俺のピザを見てポチが毬のように跳ねながらやってくる。

「さすがにこいつはお前の体に悪いとおもうがな」

 ピザをポチから避難させる。

「これはイヌでも大丈夫なカロリーオフなんですよ」

「そうか、ポチ、よかったな」

 ピザをおろす。ポチは勢いよく跳ねてきた。現金な奴め。

「ほーら、あいてっ」

「がるるるるっ」

 がぶっと指ごと食われる。

「あははっ元気ですね」

「まあ、そんなところもこいつの取柄ですよ」

 頭をなでてやるとまた噛みつかれそうになる。寸前でひっこめた。

 食べ終えたポチはまたニコの元に戻る。

「ニコ!ニコ!」

 ポチと一緒にピザを食べるニコに擦りついている。

 どうやら仲良くなれたようだ。

「飼い主としては、仲良くしている姿が何よりもの癒しですね」

「ああ、あいつは賑やかなやつだから心配だったが」

「しかし珍しいですね。脳をいじっていないのですか?」

「必要がなかったからな。俺にはあれくらい元気がある方がちょうどいい」

 おそらくポチ以外のほとんどのイヌは、脳をいじることで大人しい性格か、あるいは脳の発達を遅らせている。それはニコに関しても例外ではないだろう。

 ペットの人間に関して、脳の手術は去勢と異なり努力義務だ。飼育するうえで去勢は必須だが、脳の手術は飼い主の意向次第で断ることができる。

 たいていの飼い主は飼育しやすくするために、あるいは子供などに危害を加えられないために脳の手術まで行うが。

 ポチに関しては、俺自身管理する自信があるため、また手足がない分あの元気さでバランスがとれているため手術は断った。

 この判断は個人的には正解だったと思う。あまりおとなしい個体になられてもこちらの気が滅入る。

「元気なところもポチくんの魅力ですね」

「まあ、本当のところは犬を飼いたかったんだけどな」

 くるくると氷を回しながら、ジンジャーエールに口をつけた。

「生体の犬となるとなかなか難しいですね。資金面もありますが、まず時間が足りない」

「俺もそこであきらめたんだよ」

 ニンゲン以外の動植物を飼おうとなると、専用の資格が必要になる。

 動植物の保護や外来種を規制するために制定された資格だ。しかしこの資格はまず金が必要になる。その上勉強にも時間がかかりさらに試験自体も面接や実技を含めると1年間かかる。

 結果的に動物専門の職に就くか、あるいは相当時間と金の余裕がある人間でないとペットの資格は取れない。

 俺も金や地頭は合格ラインだが、仕事で時間がなくあきらめた口だ。

「今ではロボでもかなり精巧に作られていますが、ニンゲンを選んだのは何か理由でも?」

「……別に、昔母親が犬を飼ってたからくらいだな」

 ぼりぼりと頬を掻く。

「ああ、分かります。私の母も資格を持っていて、私の場合はオウムでしたが」

 珍しいな。と独り言ちる。オウムは外来種や絶滅危惧種の面でもかなり厳しい審査がある。

「モモという名前のかわいいオウムでしたよ。あまりかわいがりすぎて怒られていましたが」

「俺もよくかわいがりすぎて怒られていたな。勝手に自分のベッドに寝かせて、朝母親に怒られるのが日課だったよ」

「あははっかわいらしいですね」

 話が弾んでいると、ポチがバタバタと近寄ってきた。

「おお、腹でも減ったか?」

 くしゃと頭をなでると、やはり噛みつかれそうになったので腕をひっこめた。




「今日は楽しかったか?」

 風呂に入れてやりながら、ポチの様子をうかがう。

「別に」

 つんとしているがまんざらではないらしい。

「またニコと遊べるんなら、行ってやってもいいぜ」

「そうか、また遊ぼうな」

 ニコの飼い主とは連絡先を交換してある。予定を擦り合わせてまた会うのもいい。

 店主以外にも相談できる相手ができて、俺としても助かっている。

 ペットランとはそういったツールでもあるのだろう。

「さっぱりしたら飯だぞ」

「またあの味なしかよ」

 むくたれているが、仕方がないだろう。ヒトイヌは運動量が少ないのだから俺と同じ食事は高カロリーすぎる。

 初回の反省を生かし、今では毎回俺が給餌してやっている。

 むすっと食べているが食いつきがピザのときとは全く違う。何が悪いのだろうか。栄養価はあのピザよりもあると思うのだが。

 スプーンに乗せられたヒトイヌ用餌を観察する。

 何が違うのだろう。

 試しに食べてみた。

「ああ!俺の!」

「……まず」

「俺の飯!とるんじゃねえ!」

 必死に攻撃しているが効いていない。

 ポチの餌は味がなくおいしくはなかった。味がない分、俺が普段食べている完全栄養食よりもまずいかもしれない。

 道理で昼間のピザに食いついていたわけだ。あれは味がするだけのほぼゼロカロリー、栄養素ゼロだ。

 今度ああいったものを探してみるのもいいかもしれない。

「おい!メシ!」

 ポチに催促され、給餌の続きをする。




「助かったよ。いろいろ教えてもらえて」

「いやいや、ニコも楽しそうなので」

 ポチの餌に関して、ニコの飼い主にいろいろ聞いたところ、よさそうなものをくれるらしいということで家に招くことになった。

 ニコが食べていたものを数種類いただく。

「ポチくーん、元気かな?」

「ふんっ」

 ニコの飼い主を無視をしてポチはニコと遊ぶ。

「ありゃりゃ嫌われちゃったかな」

「いや、俺よりもなつかれてますよ」

「それは喜んでいいのかな?」

 談笑していたところに、携帯の着信音が鳴った。

「もしもし。……ああ……わかった」

「どうかなさったんですか?」

「いや、仕事先でちょっとトラブルがあったらしい」

「え?!大変じゃないですか」

「そうでもない。よくあることだが。少し顔を出さなきゃいけなくなった。20分ほど待っててもらえるか?」

「都合が悪ければ帰りますけど」

「ポチとニコに悪い。20分で戻る」

 俺は自宅を出た。


「そんなに信頼されてるんだ。それとも、警戒心が低いのかな?」

 残されたニコの飼い主はにやりと笑った。

「ポチくーん」

 猫なで声でポチを呼ぶ。

「なんだよ!」

 ニコに抱き着いたポチはキッとまなじりを吊り上げる。

 しかしニコの飼い主はうすらと、張り付けた笑みを浮かべた。

「君、ここから出たくない?」




「ぷはっ」

 大きな旅行鞄の中からポチはようやく出ることができた。

 きょろきょろと周囲を見回す。

「僕の家だよ」

「外に出してくれるんじゃなかったのかよ!」

「準備が必要だからね」

 飼い主の家から脱出したポチ。ニコの飼い主に不信を抱くも、ニコに抱きすくめられその眉間のしわは溶ける。

 ニコは柔らかくていい匂いがして好きだ。

 あの男は硬くて無表情で嫌いだ。

 ポチは飼い主を思い出し嫌な顔をする。

 ニコの飼い主はいいやつだ。たぶん。

 ニコの飼い主を見上げる。

「GPSは外してあるから大丈夫だよ」

 ニコの飼い主はにこりと笑う。ペットに義務付けられた、体に埋め込む様式のGPSを取れるのは専門知識がある者だけだ。ポチにはそもそもGPS自体なんなのか知識の及ばないことだが。

 ポチはニコの飼い主に、ある話を持ち掛けられた。飼い主の家から脱出する計画。

 ニコの飼い主はペットを保護する団体にいるらしい。その団体は、一種の人権団体もあり、誘拐などで不当にペットにさせられた人の保護も行っている。

 貧民街から誘拐され、手足を切り取られ去勢され、危うく脳みそをいじられそうだったポチにはまさに救いの手だった。

「さ、それじゃあ始めようか。ニコ」

 飼い主の指示により、ニコがポチの服を脱がしはじめた。

「な、なにして」

 そのまま抱えられ、風呂場へと連れていかれる。ポチの飼い主の風呂よりずっと大きい風呂場。

「お風呂に入ろうか。ポチくん」

「くそっ何する気だよ!」

 不穏な空気を察したポチは、体をねじるが四肢の足りないゆえにニコの手から逃れることもできない。

「いいね、その顔。普通のイヌだと脳みそがいじられててそういう反応できないんだ。嫌なことをされてもなにも言わない」

「ニコ!やめろ!はなせ!」

 ニコは無表情で何も答えない。

「残念だけど、ニコは僕の命令しか聞かないよ。今まで君と仲良くしていたのも僕の命令だったから」

 ニコの手で空のバスタブへと入れられた。背中からニコに抱えられ逃げることはできない。

 ニコの飼い主はその姿に、舌なめずりをする。

「さ、いい顔を見せてくれ」

 大きな水槽を持ち上げられる。

 その中にある存在に、ポチは真っ青になる。

「うわあああ!」

 どざざざざっ、と入れられたのは大量の芋虫。大人の指サイズのそれらが、大量にバスタブの中に侵入してくる。

 黒色の豚皮のような皮を伸び縮みさせ、小さな無数の足をバスタブの中に這わせる。白いバスタブの中で出口を探すそれらは、ポチの体にまで這い上がった。

 ポチは逃げようとするが、ニコに阻まれる。

「ああ、ニコ、もういいよ」

「くそっ」

 ニコの手が解けた。ポチは這いまわる芋虫から必死に逃げようとするが、短い手足ではどうにもできない。

 ぷちぷちと体の下で芋虫が潰れる。股から芋虫が体に上り、短い手足で必死にもがくも、振り払うことすらできなかった。

「あ、あ、あ、あっ」

 顔の近くまで這い上がってきた芋虫に、ポチは泣きそうになる。

「たすけてったすけてっ」

 悲鳴を上げるが、その声にこたえる人間はいない。

 ニコの飼い主は興奮してその様子を味わっていた。

「いいよ、その顔だ。僕はそうやって惨めな姿が一等好きなんだ」

「いやだ!」


 ドカンッと大きな音がした。

 家の中で発生したその破壊音。

「なんだ?」

 ニコの飼い主は怪訝な表情をする。

 ガタン、ゴトンとその音は近づいてくる。

 じりじりと近づいてい来るそれに、冷や汗がたれる。

 ゆらりと、すりガラスの向こう側に人影が見えた。ガタガタと戸が動かされるが、鍵がかかっている。

「はっ誰だか知らないが、そのガラスは防弾性


 ガッシャンッ!!!


 だ……」

 ガラスが突き破られた。

「おい」

 その向こう側から、地を這うような低い声が響く。

「うちのイヌ拐かしたのはてめえか」

 仁王像のように怒りを表した、ポチの飼い主が立っていた。

「ひっ」

 ズンズンと近寄ってくる。

「来るな!け、警察呼ぶっ」

 顔面に拳を食らわせる。ニコの飼い主はそのまま倒れ、虫風呂へと頭から突っ込んだ。ぷちぷちとすりつぶされる。

「大丈夫か、ポチ」

 飼い主は涙でぼろぼろなポチを抱き上げる。虫を払いのけ、繊細なものを抱えるように抱きしめた。

「うっぅうっ遅い!バカ!アホ!」

「悪かった。俺も不用心だったよ」

 ぽかぽかと甘んじて殴られた。

 意識を取り戻したニコの飼い主がまだ叫んでいる。

「こんなことして、ぶぷっ、ただで済むと思うなよ、うっ、僕のパパは、ぶぁっ、警察だぞ!」

「俺も警察だ」

「え、あ、か、監察官だぞ!お前なんか、簡単にひねりつぶせるっぶっ」

「俺は参事官だ」

「え、ぅぶっ」

 騒がしいそれをもう一度沈めておく。

「よく味わっとけよ。豚箱の飯はもっとまずいからな」

 口に入った芋虫の汁を飲ませるように頭を押さえつける。

 ちょうどわらわらと入ってきた警察が、確保だなんだと騒いでいる様子をしり目に、ポチの飼い主は現場を離れた。




「異常はなさそうです」

「そうか、よかったよ」

「……変態……

 診察台に乗せられ、くまなく調べられさらにGPSを埋め込みなおされたポチはグロッキーになっていた。

「それにしても」

 医者はポチをしげしげと見る。

「脳をいじっていないのは珍しいですね。こんなに元気がいいと、大変でしょう」

 医者の視線に気づいたのか、ポチは跳ね起きる。

「やめろ!この人殺し!」

「いいえ。まったくですよ」

 逃げ出そうとしたポチを、俺は抱き上げた。

「こいつは俺のイヌで、家族だ。元気の良さもひっくるめて、最初から最後まで面倒を見るつもりで飼っている。だから手術なんてものは、必要ない」

 な、と見下ろすと、ポチには急いで目をそらされた。




「ただいま、ポチ。いい子にしてたか?」

「おっせえ!」

 ポチが短い足でボールをけり上げた。ボールはバウンドして俺に向かってくる。それを難なくつかみ、ポチの頭を撫でた。

「お出迎えごくろうさま」

「がるるるっ」

 俺の手に噛みつこうとするポチ。さっと避けさせてもらった。

「今日はいい子にしていたプレゼントがあるぞ」

「あ?」

「おいで」

 廊下で待ちぼうけしていた存在をリビングに招き入れる。

「……ニコ!」

 ポチはぴょんぴょんと跳ねてニコに近寄った。

「ようやく多頭飼育の許可が下りてな」

 ニコの飼い主が捕まってから、店主の元に預けられていたニコだが、いろいろと手をまわして俺の元で飼うことになった。

 こんな短期間で二頭も買うとは思わなかったが。

「よかったよ、喜んでもらえて」

 俺の元にポチがやってくる。

「あ、ありがとよ」

 小さくつぶやくポチの頭をなでる。

「当然だ。お前は俺の家族だからな」

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かわいいわんちゃん 染谷市太郎 @someyaititarou

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