あふれでたことば

tetsuya.

あふれでたことば

 私が中学校二年の時の話ですが、すごく仲の良い友達がいて、その友達Mの家にしょっちゅう遊びに行ってました。Mの両親や、妹とも仲良くしていただいてました。

 何度か遊びに行くうちに、時々、家の中を膝をついて歩行していて、頭にヘッドギアみたいなものを付けている女の人が来ていることがありました。言葉も「アー」としか話せない様子でした。

 ある時、Mに「あの人は?」と尋ねたことがあり、その時、Mは「一番上のお姉ちゃん」とだけ答えました。その時初めてMとその妹とそのお姉さんの三人兄妹だと知りました。明らかにお姉さんには重い障害がありました。今になって思えば、おそらくアンジェルマン 症候群といわれる重度の障害だったと思います。

 ある日、Mと両親は留守にしていて、妹とお姉さんと私の三人だけになった日がありました。その三人で画用紙に絵を描いて「これは何でしょう?」みたいな遊びをしていた時のことです。三人で遊ぶと言っても、お姉さんは顔に若干笑みを浮かべてはいるものの、話す言葉は「アー」「アー」と言って見ているだけ。それでも、そんな遊びをしばらく続けていました。

 妹が、「ちょっとトイレに行ってくる!」と言って部屋から出て行き、お姉さんと部屋で二人きりになりました。

 「今日は遊んでくれて、本当にありがとう!」突然、健常者となにも変わらない、はっきりとした口調でお姉さんが話したのです!私はしばらくポカンとして何も言えませんでした。結局、妹もすぐ戻ってきたので、

そのままその日は、その件に触れずおとなしく帰宅しました。 

後日Mに、「お姉さん、話せるんや」と言ったところ、

M「いや、姉ちゃんは重度の障害者で、とてもじゃないけど話せやんよ。」

私「いや、この前普通にお礼言われたけど」

M「それは無い!絶対に無い!俺は一度も話したんなんて聞いたことないわ」若干呆れた様子で言われたので、私も空耳だったのかなぁとその時は思うようになりました。

 でも、私は間違いなく聞いた。空耳なんかではない。お姉さんは何故、私と二人きりになった時を見計らって言葉を話したのか?妹がいる時でもいいのではないか?本当は話せるけど、何か事情があって話せないフリをしているだけなのではないか?

 どうしても色んな疑念が残ってしまって、はっきりしたことはわかっていません。でもそんなことはどうでもいい。今では、お姉さんがどうしても感謝の気持ちを伝えたくて、ほんの一瞬だけ奇跡を起こした。私はそう信じています。

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あふれでたことば tetsuya. @tetsuya0629souya

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