第156話 奇跡の勇者の名は永遠に

 優しく温かなまどろみの中で目覚めると、そこにはナツキの家族が集まっていた。


 昔では考えられない賑やかな光景である。


 誰もいない家に帰り、必死にスキルの練習をしていた頃の自分はもういない。ナツキは誰もが認める勇者になったのだ。


 周辺国を侵略する大帝国の暴走を止め、幼い皇帝を救い出し国を変えた。

 世界大戦寸前にまでいった国々を収め、逆に経済協力まで取り付けてしまう。


 今や、ナツキの功績は誰もが認めるところである。



「ふぁあっ、おはようございます」


 ナツキがそう言うと、さっそく嫁たちが絡みに近寄ってくる。


「ナツキぃ♡ おはようのチューは? ほらほらぁ♡」

 ぷるんっ! ぷるんっ!


 大きな胸を揺らしながらフレイアがナツキの肩を抱く。この女、わざと揺れるようにノーブラだったり胸元の開いた薄手のローブを着ているのだ。


「フレイアお姉さん、朝から激しいです。ひ、控えてください」

 チラッ、チラッ――


 困ったリアクションをするナツキだが、その目はフレイアの谷間をチラ見する。

 男は揺れる胸に弱い生き物なので仕方がないのだ。


「ちょぉーッと待ったぁ! あんたまた胸を揺らしてるし! ナツキ、離れて。この女の術中にハマってるわよ」


 当然のようにナツキを確保に行くマミカだ。


「てか、ナツキぃ! またフレイアの胸をチラ見してるしぃ! アタシの胸を見なさいっての♡」


 むぎゅっ! むぎゅっ!


 抱きついているフレイアの反対側からマミカにも抱きつかれ、サンドイッチされたナツキがヘブン状態だ。


「ほら、ナツキ少年。大きなおっぱいだぞぉ♡」

「その肉を押し付けるなしぃ! アタシのナツキにぃ」


「くうぅぅ……お姉さんたち、朝から刺激が強いです……」


 もう、いつもの日課のようなものだ。


 途中から二人が取っ組み合いになる。仲が悪いように見えるフレイアとマミカだが、実際はこれで仲が良かったりするから不思議だ。



「ナツキ、新しいヤマトミコの異世界戯画ファンタジーマンガを入手した。後で一緒に読もっ♡」


 フレイアとマミカが取っ組み合っている隙に、シラユキがナツキに近寄ってきた。


 以前は口数も少なく目つきも鋭く恐れられていた女だったが、最近は人前でも笑顔も多く穏やかな雰囲気になったようだ。


「シラユキお姉ちゃん、これは新刊ですね」

「くふふっ、最近人気のおねショタ・・・・・ファンタジー」

「お、おねショタ……ごくりっ」

「ふへへっ、ナツキも好きよなぁ」

「くうっ、姉モノと聞いたらドキドキしちゃいます」


 この二人、趣味が似ているのかお互いにお色気ラブコメで昂ってしまうのだ。

 ついでにマンガの内容を実際にベッドで再現してしたりもする。イケナイ夫婦だ。



「ふぁ……朝から騒がしいですわね。もっとレディとしての気品を持っていただきたいですわ」


 裸族の女が現れた――

 説明するまでも無くクレアである。


 気品などと言っておきながら裸同然の恰好で城内を歩いているのだ。本当に困ったお姉さんである。


 上はスケスケのベビードール、何故か下は何も穿いていない。色々なモノが見えまくっている。


 ※安心してください。謎の光りで見えていません。


「くくく、クレア様! ちゃんと服を着てください」


 グロリアが必死に大事なところを隠そうとしているが、クレアが華麗に回ったり足を上げたりするので隠せていない。


「はぁああぁん♡ なっくんを想うと愛と性の軌跡シュプール状態ですわぁ♡」

「クレア様ぁああ! 見えてますから」


 こんな下品な恰好で下品なポーズをしているはずなのに、むしろ上品で気高い印象を与えてしまうのは、彼女が神に選ばれたかのような美しさをしているからだろう。



 クレアの裸はスルーしたナツキだが、大きな肉の壁に迫られ怯んでしまう。

 言わずと知れたロゼッタである。彼女のムッチムチの爆乳巨尻には弱いナツキなのだ。


「ナツキ君、ナツキ君! ねえ、マリーとキャンプに行ったんだって? 私も行くよ。今度一緒に行こうよ。カブトムシも捕るよ」


 そのロゼッタだが、少しボーイッシュでありながらも愛嬌があって可愛い顔をしている。大型ワンコのように全身で迫られると凄い迫力だ。


「ロゼッタ姉さんもキャンプ好きだったんですか。良いですね、一緒に行きましょう」


「お、温泉も一緒で良いんだよね♡ マリーに聞いてからさ、もう羨ましくて羨ましくて我慢できないよ♡ わ、私も温泉とテントで……むふっ♡ フーッ、フーッ」


「あ、あの、ロゼッタさん、鼻息荒いです。何だか身の危険を感じるような……」


 ナツキの予想通り、ロゼッタは温泉とテントでハッスルし過ぎるのだが、それは諸事情で自主規制だ。



「あ、あたしもキャンプに行っても良いわよ」


 そこにミアがやってきた。ちょっと体裁悪そうにそっぽを向きながら。


「あれっ? ミアって虫が嫌いだったような……」

「うっさいわね! あたしが一緒に行ってあげるって言ってんのよ!」

「う、うん。大っきな角のカブトムシを捕まえよう」

「それはイヤっ!」

「えええ……」


 乙女心は難しかった。



 城のダイニングルームに美味しそうな匂いが漂ってくると、サービスワゴンに料理を乗せたネルネルがやってきた。


 カラカラカラカラカラ――


「料理ができたんだナ。ナツキきゅん♡」


 あれからたまにネルネルが手料理を作ってくれるのだ。一番新妻をしているヒロインかもしれない。


「うわぁ、美味しそうな匂いだ。半熟卵の上にトマトソースがかかってる」

「オムライスなんだゾっ♡」

「うわぁ! ネルねぇありがとう」

「ナツキきゅんの為なら何でも作るんだナ♡」



 そんな光景を見ている他の女たちは気が気でない。


「ねえっ、最近ネルネルの株が急上昇してない?」


 フレイアが取っ組み合っているマミカに話しかけた。


「ヤバいに決まってるし! 男って手料理に弱いのよ。ナツキの好意がネルネルに行っちゃうしぃ!」

「よし、私たちも料理を作るとするか」

「アタシ、料理なんて作れないし……」


 そこにシラユキが入ってきた。


「ふひっ、私も料理作る……牛肉の煮込み料理」


「あんたは止めときなさい。鍋が爆発しそうだから」

「そうね、シラユキってポンコツっぽいから危険だし」


 速攻でフレイアとマミカに止められてしまう。実際にシラユキが料理を作っているところを見ていないのだが、何となく爆発しそうな気がするのだ。


「ぐぬぬっ……不本意」

「まあ、私も似たようなもんだけど」

「アタシも……」



 シラユキたち料理できない同盟がションボリしている頃、美味しそうな匂いを嗅ぎつけて現れた女がいた。

 見た目だけは凛々しいのに、中身は捉えどころのないレジーナである。


「おおっ! これは美味しそうな料理でありますな。隙ありっ、であります。ぱくっ」


「ああーっ、レジーナ! つまみ食い禁止」


 ナツキが止めに入った。

 放っておくと全て食べそうな勢いだから。


「おっと、まだまだ甘いでありますよ、旦那様。隙あらば旦那様の料理は全て私の腹の中であります」


 わざとナツキの皿からレジーナがつまみ食いする。イタズラしているようにも見えるが、実は『あーん』で食べさせ合いっこしたいだけかもしれない。


「そんなのさせないぞ」

「はっはっはっは、甘いっ! ぱくっ、ぱくっ」

「ああぁーっ! こらぁーレジーナ!」

「欲しければ私の皿から奪ってみるであります」

「くぅ、このお嫁さんだけボクの思い通りにならない」

「私を倒したら、キツく縛って鞭もOKでありますよ」

「それは遠慮します」


 ふざけているようでいて、実は一緒に稽古をしたいのかもしれない。レジーナは永遠の謎である。



「ナツキくぅ~ん♡ 先生ねっ、朝は苦手だからナツキ君に食べさせて欲しいのぉ♡」


 もう一人いた。手の掛かるお嫁さんが。

 女秘書&女教師&妻マリー未経験歴イコール謎(新婚さん)である。


「あと、ナツキ君の手料理が食べたいわぁん♡ ナツキ君に永久就職で三食昼寝付きよぉん♡」


「うっ、この先生……チェンジしようと思ってたのに、何だか最近クセになってきたような……? いないと寂しい気もするし。いつの間にかマリー先生の魅力にやられているのだろうか?」


 結婚してもよく分からない謎の魅力マリーだった。




 朝食を食べ終わって紅茶を飲んでいると、メイドが手紙を運んできてグロリアに手渡す。

 確認した彼女が、すぐにナツキのところに持ってきた。


「ナツキ様、手紙が届いております」


 そう言ってグロリアが手渡されたのは何通かの手紙だ。


「たくさんありますね。誰からだろ? あっトゥルーデさんだ」


 封を切って手紙を取り出す。


『拝啓 残暑厳しき折、ナツキ様におかれましては、お健やかにお過ごしのことと存じます――――中略――――それと、学校を卒業する年齢になった暁には、私もナツキさんのいるカリンダノール城に住む予定です。それでは、皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。 敬具」


「なるほど、グロリアさんも城に住むんだ」


 手紙を読んだナツキがグロリアの方を見る。


「何か?」

「いえ、グロリアさんがジト目になっている気がして」

「なっていませんよ」


 続いて二通目の手紙を開けた。


「あっ、アンナ様だ」


『ナツキぃ! 余はナツキに会いたいのじゃぁ♡ たまには帝都に戻るのじゃぁ♡ 早く赤ちゃんも欲しいのじゃよ♡ あっ、あとアリーナが二人目の子供が欲しいと言っておったのじゃ。なぜか娘のクラーラも子供が欲しいと言っておったのじゃ』


「アリーナさん……何を言って……いやいやいや、クラーラさん? てか、グロリアさん、やっぱり睨んでます?」

「睨んでません」


 グロリアのジト目を受けながら、ナツキが三通目と四通目と五通目の手紙を開いた。


『これ、朕の愛しきナツキよ。あれからちっとも会いに来ぬではないか。たまには遊びに来るのじゃ。早く夜伽よとぎをせねばな♡ そなたの正妻トワお姉さんじゃぞっ♡』


 姫巫女なのに、めっちゃフランクだった。


『こらぁああああっ! いつになったら我の元に来るのだ! もうあれからナツキのポンポンやペンペンが忘れられず悶々とする日々である! 早く我と子づくりをせよ!』


『おいっ! 子種はどうなった! 待てど暮らせどナツキが来ないじゃないか! もう怒ったぞ。そっちに行って子種をもらうからな! 絶対だぞ! だぞ!』


「ええええ……こっちは揚羽さんとささめさんだ。こ、子種と言われても……。あ、あの、やっぱり睨んでますよね? グロリアさん」


「に、睨んでませんよ、ナツキ様……ぐっ、ぐぬぬ」


 やっぱりグロリアが睨んでいる。毎度おなじみ、いつものアレだ。心の声がダダ漏れである。


「もうっもうっもうっ! ナツキ様ったら、私より後から知り合った女性と夜伽よとぎなんて言っているのに、私には一向に手を出してこないなんて。ナツキ様が他の女性と愛し合っているのを想像して、私が眠れぬ夜を過ごすのなんて知らないんですよね。わ、私だって、い、いい、イケナイコトを……きゃっ! 何てはしたない。私までエロ勇者の影響を……。もぉ♡ ナツキ様のえろえろクソガキぃ♡」


「グロリアさん……全部聞こえてます」





 いつもと変わらぬ日々――――

 いつもと変わらぬ笑顔――――


 ナツキの周りにはお嫁さんと家族がいる。

 何も無い少年は手に入れたのだ。

 笑顔溢れる世界を。



「「「ナツキ」」」

「なっくん」

「ナツキ君」

「ナツキ様」

「旦那様」


 ナツキを呼ぶ皆の声が聞こえる。

 勇者を呼ぶ人々の声も――

 世界を救った救世主、社会を変革した英雄――


「ボクは……成れたんだ……本当の勇者に」


 ◆ ◇ ◆




 かつて戦乱に明け暮れる巨大な大陸に一人の勇者が誕生した。


 その勇者は、驕ることも威張ることもなく、武力ではなく優しさで世界を治めた。


 やがてその者は、食品会社とリゾートホテル事業と鉄道業により巨万の富を得る。


 だが、その者は富を独り占めしたりはしない。


 その巨額の富で財団を設立し、戦災孤児や恵まれない人を支援し続けた。彼によって救われた命は数え切れないほどだ。


 暴力が是とする剣と魔法の世界に於いて、優しさとポンポンで革命を起こしたのだ。


 彼は人々から最高の賞賛によって永遠にその名を歴史に刻まれることとなる。


 その男の名は、奇跡の勇者ナツキ・ホシミヤと――――







 ――――――――――――――――


 皆様、最後まで私の小説を読んでくださり誠にありがとうございます。

 長編になったにもかかわらず、ここまで読んでくださった皆様に感謝申し上げます。


 楽しんでもらえたり面白いと思って頂けたら幸いです。



 ここまで読んでくださいました皆様、もしちょっとでも良いなと思ってもらえたら、星やフォローしてもらえると嬉しいです。★は3個でも1個でも思った通りで構いません。いくつでもモチベアップで泣いて喜びます。


 では、また次回作で会えるのを楽しみにしております。

 ありがとうございました。

 みなもと十華

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