パターン7 追放ざまぁ.2

 駄目だ、どうしてもうまくいかない。


 ざまぁするためにざまぁされても文句言えないくらいのバカな奴らのパーティーに入ってみたりもしてみた。普通にヤな奴らだし、一緒にいて普通にツライ。ほんと、ただのならず者の集まりだ。

 しかも、だからってざまぁが出来るかっていえば、むしろそんなの日常茶飯事。お互いに都合の良いように利用し、時に裏切り、いさかう。

 そんなのもう、俺が直接被害を受けてなくても、因果応報な感じで報いを受けてもいいと思う。でもそれだと理想のざまぁじゃないし、あーもうわからん。


 そんなんじゃ最初のパーティーを見返すなんてのも夢のまた夢。いったいどうすれば……。

 そんな時ふと思い出した。アイツに会いに行ってみるか。何かのキッカケになるかもしれない。

 そう、最初のパーティーで俺を追放しようとした、元リーダーの剣士だ。



「お? おう、久しぶりじゃないか。どうしたんだこんな所まで?」


 彼は田舎の実家に帰っていた。町から乗合馬車で三日はかかる、山間やまあいの小さな村。そこで実家の仕事を手伝っていた。

 彼が手にしている物は、斧。それで何を切っているかというと。

 木だ。

 木材を得るために木を切っている。

 木こり、それが今の彼の職業だ。


「いや、あれから音沙汰なかったし、どうしてるかと思って」


 俺はなるべく平静をよそおいながら近づく。この剣士がならず者レベルのバカだったら、俺を恨んで襲って来ないとも限らない。

 彼は斧を近くの木へ立て掛け、首にかけたタオルで汗を拭いながら近づいてくる。


「あー、見ての通り、実家の仕事を継いで、働いてるよ」

「冒険者は? もうダンジョンへは行ってないの?」

「……」


 彼はしばらく考えて、山の麓の方を指差した。


「せっかく来たんだ。この先に小屋があるから、そこで話そう」


 確かに、その方向には木々の隙間から山小屋が見えた。




 山小屋の半分には簡素なテーブルと二脚のイス、小さな棚。そして簀板すいたのような木組みに広げた布団。もう半分には仕事で使うのだろう、斧やノコギリ、使い方のわからない様々な器具があった。


「狭くてすまんな。そこ、座ってくれ」


 示されたイスに座る。剣士は……元剣士は棚からカップや小さなナベを取り出し、そこに水瓶から水を注いで茶葉をひとつまみ入れた。


『熱源よ』


 彼が呪文を唱えると、ナベの水が沸騰する。それを茶こしで混ぜた後、二つのカップへ漉しながら注いだ。

 カップの一つを俺の前に置き、小さな砂糖壺を寄せてきた。


「好きなだけどうぞ」


 俺はティースプーンを受け取り、砂糖を二杯入れるとお茶をかき混ぜた。

 俺の正面に座った元剣士は、熱いお茶に息を吹きかけつつすすっている。

 毒……は疑う必要は無いだろう。危険な相手がここまで来たなら、お茶に毒を仕込むより剣で対応した方が早い。


 ゆっくりとお茶を啜る。初めて飲むお茶だ。砂糖の甘さのあとに、独特の香りと苦味が舌に残る。思ったより嫌いじゃない。


「お前は、まだ冒険者やってんのか?」


 俺は頷いた。


「あのパーティーで?」


 それには首を横に振った。

 しばらく沈黙が続いたあと、元剣士がカップを置いた。


「あの時、お前を追い出そうとしてすまなかったな」


 そう言って頭を下げた。

 俺は慌てた。別に謝ってほしくてここまで来たわけじゃない。


「いや、逆に君を追い出すことになったんだ。謝るのはむしろこっちのはずで……」

「バカだったんだ、オレは」

「え?」

「あの後、オレはムカついて知り合いやら家族やらにお前達の愚痴をわめき散らした。そしたら、それはお前が悪いと散々言われてな。そんで落ち着いて考えてみたら、オレ、理不尽な事言ったなって」


 彼はテーブルへ視線を落としたまま話す。


「その一件だけじゃない、それまでも自分勝手な事ばかり……。そりゃメンバーから追い出されるなら、やっぱオレだったんだなって」


 俺は何も言えなかった。こんな展開は予想してなかった。


「だから、ごめん」

「頭を上げてよ。そんなつもりで来たんじゃないんだ。恨みとかもなんもないから」


 彼はゆっくりと顔を上げる。


「そう言ってもらえるなら助かるよ。いつか言わないとと思ってても、こっちから行くタイミングがなくて。来てくれて、ありがたかった」

「逆に君はどうなんだよ。いきなり追い出されて、冒険者もやめて……」

「オレは、見ての通り、家業を継いで木を切ってるよ。やってみると、意外と冒険者の経験も活かせるんだぜ。木も切りやすいし、熊とか出てきても余裕で対処できるからな」


 その後も、当たり障りのない話から近況の様子まで、一通り話した。元剣士は、新しい生活を手に入れたようだ。

 俺は、自分の目論見が崩れ去るのを感じた。

 もし彼が俺達に恨みを持っているなら、それを利用して何かしら状況を作ることが出来るかと思ったのに。




 それから、俺は冒険者以外の道を見つける事が出来ず、無難なパーティーに入ってダンジョンに潜っている。

 高難易度のダンジョンで、それなりに好成績だ。順調と言っていい。

 偶然、元のあのパーティーに出会う事があったが、俺の復帰を喜んでくれた。

 俺の想像したような、波乱万丈の展開にはならない。


 俺は異世界に、アニメやゲームのシナリオのような息つく暇もない大事件も、俺に有利なご都合展開を期待していた。でもそんな事にはならなかった。

 ここまで来てやっとわかった。

 異世界で生きていく以上、ここはアニメやゲームの世界じゃなく、こここそが俺にとっての現実になったんだという事が。



パターン7 終

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異世界アンチ 〜異世界行ったけどダメだった〜 i-トーマ @i-toma

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