パターン7 追放ざまぁ

「〇〇〇〇〇、お前はもう用無しだ! このパーティーから出ていけ!」


それはパーティーリーダーの剣士が発した、俺に対するセリフ。

 酒場の雑音が少し小さくなった。何事かとこっちをうかがっているのだろう。


 やっと、やっとここまでたどり着いた!


転生前、俺は、悪い奴を殴るのが好きだった。

犯罪を犯した。失敗をした。倫理観がおかしい。マナー違反をする。

 そんな奴らを正論で殴って殴って殴りまくる。社会的地位を叩き壊し、精神的に立ち直れなくなるまで。

 俺だけじゃない。殴ってもいい理由を持つ奴を見つけたら、圧倒的数の暴力で取り囲む。正しい位置に立つ俺達は無敵だ。


 だから、俺は『追放ざまぁ』というジャンルが大好きだった。


 『追放ざまぁ』とは、理不尽な理由で集団から追放された主人公が、追放した側を見返して、場合によっては復讐する話だ。

 やり返されたバカは泣きわめき、絶望する。その顔を見るのが最高なのだ。


 で、だ。

 不慮の事故で異世界に転生した俺は、夢にまで見た追放ざまぁをする事を目指した。

 まず、頭の悪そうな奴がリーダーをしているパーティーに入る。

 その中で出来れば補助役、雑用係で目立たないようにする。

 その上で真の実力は鍛え上げ、追放後活躍できるように準備しておく。

 なかなか、いやかなり大変だったが、それがやっと実を結んだ瞬間だった。


「ちょっと待ってくれよ、どうして俺が?」


 内心のガッツポーズを隠し、一応食い下がってみる。素直に引き下がったらもったいないからな。後々、俺の追放を後悔してもらうには、もっと固い意思で追放してもらいたい。


「ほら、そんな事もわからないようじゃあなぁ」


 リーダーは見下した態度で俺の前に立つ。


「今までお前が倒したモンスターは何匹だ? それで答えが出るだろ」

「そんな、だってそれは……」

「これでも待ってやったほうなんだぜ。けどもうお前じゃ無理だ。なあ?」


 リーダーは隣にいる防御職タンクに同意を求めた。


「いや、そうは思わないが?」

「え?」

「え?」


 リーダーと、思わず俺の口からも声が漏れる。


「〇〇〇〇○はよくやってるよ。彼の補助魔法や強化魔法がなければ、オレ達もここまでスムーズにやってこれなかっただろう」


 彼は俺のそばに立ち、リーダーに振り向く。


「それに、隠れて自主トレしてるのを知らないのか? 彼の槍さばきは、実戦でも十分通用するレベルだ」


 あっ、見られてたぁー!?


「はぁ? お前本気で言ってんのか?」

「逆にだ、お前はリーダーとして今まで何を見てきたんだ? もしかして、強化魔法無しの自分の実力を把握しきれて無いんじゃないか?」


 ちょっとちょっとちょっと待ってくれ。他の仲間が俺の味方になってる? この流れは想定してない。


「そんなリーダーにはついて行けないな。リーダーが○○○○○をパーティーから追放するんなら、オレも出ていく」


 防御職の彼が言うと、他の仲間も頷いていた。俺は慌てた。


「そんな、俺のためにみんなが離れなくても」

「いや、前から考えてた事なのよ」


 魔術士の少女が言う。


「最近のリーダー、調子に乗っててついていけないのよ」

「ええ、その通りですわ」


 治癒士の老婆も同意する。いやいや、流れ変えないで!?


「待ってくれ、俺のせいでパーティーがバラバラになるのは駄目だろう? おとなしく俺が去れば……」

「大丈夫なのよ。この四人で新しいパーティーを組めばいいのよ」

「前衛は新しく、信頼できる人を入れよう。しばらくは低レベルダンジョンで連携の組み直しをしないといけないが」


 リーダー……。いや、もう元リーダーなのだろうか、顔を赤くして叫ぶ。


「お前ら! 覚えてろよ! もう一度戻ってくれって言ってももう遅いんだからな!」


 それだけ言い捨てて酒場を出ていった。

 おいおい、追い出す側がやりたかったわけじゃないんだが?



 その後、結局元の四人と新しい軽戦士でパーティーを組み直し、ダンジョンを攻略していった。新人剣士も実際はもう五年も剣士をしているベテランで、それまでの仕事の契約が切れたタイミングとたまたま合ったために、こっちのパーティーに入ってもらえたらしい。

 そして、以前のパーティーの時よりも、もっと難しいダンジョンを攻略できるまでになっていった。


 って待て待て! 俺がしたかったのはコレジャナイ!


 俺は『ざまぁ』がやりたかったの! 真面目にやったら結果がついてきましたとか、そういうのはイラナイの! もっと派手に暴れたいの!


 とにかく、まずは俺の正当性を保ったまま、出来るだけ理不尽に追放、もしくはそれに等しい扱いを受けること。それが第一なんだけど……。

 今のパーティーメンバー、いい奴らばっかなんだよなぁ。どうしたって俺をぞんざいに扱ってくれない。それならいっそ、別のパーティーに乗り換えた方が早いのかも……。そんな事を考えていると。


「何か悩みごとかい?」


 新リーダーの防御職タンクが話しかけてきた。ほら、いい奴だろ?


「実は、俺、もう冒険するの、やめようかなって……」

「……それでか、最近、他のメンバーともあんまりうまくやれてないみたいだったのは」


 それは、正当性を損なわないまま嫌われようとして中途半端になっただけだ。


「今までの経験分、こっちにとっても痛手にはなってしまうが、自分で決めたならしょうがない。無理矢理引き止めて、どこかで大事故を起こしても意味ないからな。とりあえず今の依頼をこなしたら、送別会にしよう」


 やった、案外すんなりと抜けることができたぞ。

 まあ、追放でもなければ理不尽でもないけど。

 せめて次会った時には、『あの時、強引にでも引き止めておけば良かった』と思わせられるくらい大物になっておこうじゃないか。



 さて、今までざまぁするならどういう方法で、というのはずっと考えてきた。

もし理不尽な理由で優秀な俺が追放された場合は、新しいパーティーでドンドン昇格する俺と、優秀な人材を手放して落ちぶれていく元パーティー。

 さらに酷い被害があった場合。俺自身や友人の命を脅かすような。その時は容赦せず、復讐を目標に立ち回る事になる。

 そんな対応方法を色々考えてきた結果、今回の俺の場合は……。


 どっちかって言うと円満退社なんだよなぁ。ざまぁな事をすると、こっちが悪者になりかねん。

 今回は諦めて、また新しいパーティーを探すか……。

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