エピローグ 両手に花を
「あたしの剣の方が、早かったんだ。そうだろ?」
もう試合が終わって何日も
「でも私の小手打ちの方が、先に当たった。そうでしょ?」
もう何回も言われてるので、同じ返答を私は
あの試合の事を思い出す。確かにタイミングとしては、アカさんの剣の方が早かったかも知れない。だけど剣が私の右肩に触れる事は無かった。何故かと言えば、剣道の高段者でも異世界の達人でも、
レベルが高い者ほど、剣の振りはそういうものである。私はエルさんと毎朝、
「クロがどう思ってるか知らないがな。あたしだって
試合で私の肩に剣が届かなかった事に付いて、アカさんは
なんだか最近は、私に
私は集中しすぎていて、何も聞こえていなかった。左に倒れこむような、低い姿勢からの切り上げ
だから私は確実を
アカさんが打たれた右手を押さえて、
審判が一生懸命、何かを説明しようとしているのだが私の耳には入らない。当たり前の話をすると、剣道でも異世界の試合でも、審判が武器を持つ事は無い。木剣を持った私を、
『あれは、あたしの人望が無かった訳じゃないさ。皆、お前の事が恐ろしかったんだよ』
後からアカさんは、そんな事を私に言ったものだ。もちろん、そんな訳は無いと私は思う。
引き続き回想を再開すると、審判二人が決死の覚悟で、私にしがみついて止めようとしてくる。「
木剣は
「終わったよ、クロ」
何も聞こえなかった私の
「終わ……った?……」
「ああ。クロが一本を取ったんだ。だから試合は終了、クロの勝ちだよ。私は
「救った……? 私が、エルさんを、救ったの……?」
言葉を理解できない幼児に話しかけるように、
「ああ。だからクロ、木剣を下ろしなさい。
そいつ呼ばわりされたアカさんが
「さあ。こっちを向きなさい、クロ。そんなに熱い目を他の女性に向けないでくれ、
アカさんから視線を外そうとしない私を、エルさんが振り返らせる。何が起きているのか、まだ私は上手く理解できなかった。
「ねぇ、クロ。君が集落に来た時の事を覚えているかい? あの時の君は深く傷ついていた、心身ともにね。私は詳しい事情を知らないけど、君が居た世界が、君に取って優しい場所では無かったという事くらいは分かる。世界というのは、時に残酷なものだからね。特に子供には」
抱き締め合うような距離で、正面からエルさんが話しかけてくれる。私は彼女の瞳を見上げながら見つめていた。
「……だからクロは、大急ぎで強くなろうとした。私も、君が将来、自立する時の事を考えて木剣での手合わせに付き合った。そして、世界の残酷な『現実』が、私を
エルさんが一旦、私の背後に居るアカさんへと目を向ける。アカさんが『現実だよ、現実』と、エルさんに対して
「そんな現実が、子供に過ぎない君を戦士に変えた。そして私を救ってくれて、後ろの
「子供……に……?」
小首を
「そう、純粋な、
そこまで言って、エルさんは正面から私を抱き締めてきた。
「だからね、クロ。話が長くなっちゃったけど、ずっと君は、私と一緒に居なさい。この集落で、いつまでも子供のままで居てくれていい。誰にも文句は言わせない。今回のような事が二度と起こらないような
「……イエスです……答えはイエスですぅ……愛してます、エルさぁぁぁん……」
わああぁぁん、と子供そのものの泣き声が私の
エルさんが考えた仕組みというのはシンプルで、エルさんとアカさんの集落を同盟関係で結ぶものだった。そして現在、アカさんは人質として、エルさんの集落に置かれている。前世で習った日本史の戦国時代でも、そんな方法が取られていた気がした。
そして同盟の期間だが、これが私と
アカさんの集落は、森の種族の中で最強の存在だそうで、だけれどもアカさんの指示が無ければ基本的に悪い事はしない人達らしかった。要するに諸悪の根源はアカさんなのであって、そのアカさんをエルさんの集落に置いておけば、少なくとも森の種族同士での抗争は避けられると。そういう事であるらしい。
「良い案を思い付きましたねー。よく話で聞くんですよ、平民の娘が王子様と結婚したら、お城の人達が花嫁を
「クロには、いい思いをしてもらいたかったからね。人間族は繊細だから、ちょっとした
ちなみに集落から
「さー。
食事を終えたアカさんが、私とエルさんの間に割って入ってくる。私達は今、三人で暮らしていた。エルさんと私が居た家では小さすぎたので、倍以上の広さで家を新築してもらったのだ。これはエルさんというより、アカさんの機嫌を
今の私達は、
だから私は死後の事を考えて、提案というか、お願いをした。『私が世を去ったら、アカさんとエルさんが結婚して、夫婦になって。そしてアカさんは、この集落に
前世でもそうだが、権力を持たせてはいけない人というのは居るのだ。その典型がアカさんである。アカさんから権力を取り上げる見返りとして、私はこう言った。『これから夜の事は、なるべく三人でしましょ? もちろんエルさんと私が二人きりの時間も
三人での行為というのは、この集落では珍しくなくて、その光景を私は温泉がある浴場で何度も見てきている。『クロは、それでいいのか。私が君以外の女と寝ても』というエルさんからの問い掛けには、こう答えた。『政治が
ややこしく聞こえるかも知れないが、要は基本的に三人でセックスして、後はエルさんと私で二人きりのセックスもしましょうという事だ。逆に言えばアカさんは必ず三人で出来る訳で、『そりゃいいな!』と大喜びをしていた。
で、夜の事をすると言っても当初、私は知識が無かったので。私はエルさんに、手本を見せてもらって、それを真似して学ぶ事になった。そのための教材として用意されたのがアカさんです。
元々、アカさんの事を嫌っている事もあって、エルさんの仕打ちは凄かった。ベッドで寝かされたアカさんを、エルさんと私が挟む形で攻めまくる。毎回、気絶するまでアカさんは
と言うかアカさんが、あんなに可愛らしい声を出すんだなぁと、そういう事にも私は感動していた。一緒に寝てみないと分からない事はあるのだ。この間まで私が木剣で殺そうと思っていたアカさんにも、花のように柔らかく可愛らしい部分がある。
種族など関係なく、そういう花の部分を
今の私は、大切な花を
両利きの私は、エルさんとアカさんの花を同時に
剣に願いを、両手に花を 転生新語 @tenseishingo
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