アーニーと街の噂



 ───翌日───



 僕がいつもの日課にしている薬草採取の依頼を複数こなし、お金を握りしめて飯屋に直行した。

 いつもと待ってる宿屋は食事の提供がないので、外で食べなきゃいけないから少し面倒に感じる。

 いつもと代わり映えのない街並みを進むと目的地が見えてきた。


 この街に来てから月日が経っている訳では無いのに、顔と名前を覚えられてしまうくらいには通ってる。

 同じ席に同じ料理、店に入る時は既に会計ピッタリのお金を用意してるくらいにお気に入りの店だ。

 料理が美味しいのもあるが、もうひとつの目的は給仕をしている猫人族のエノさん。

 生まれ育った村には人族しかいなかったので、初めて見た時はドキドキしてしまった。

 そんな僕を見たエノさんは、「きみ、かわいいね。なんてお名前なの?」と話しかけてくれたのだ。あまり女性と親しく話したことがなかったのでかなり挙動不審になっていたが、通い続けるうちに世間話わするくらいには成長したんだ。


 さて、そんな変わった出会い方もありつつ、いつもの席について料理を待とうか。


「ふふ〜〜ん♪……あ、アーニーくんいらっしゃい!いつものでいい?」


「ええ、お願いします」


「は〜い!」


 注文を受けるとササッと厨房へオーダーを出しに行った。

 猫陣属は人族よりも嗅覚と聴覚が優れており、僕が声をかける前に席に着いたことを察知してくれる。

 ……おっさん臭い冒険者のたまり場でよく僕の匂いがわかるよなぁ……あれ、もしかして僕も臭いのか!?

 まあ深く考えるのはやめよう。

 同じ冒険者の同属嫌悪でしかないから惨めに思えてくるよ。


 そんなことを考えてるうちに料理が来た!


「おまたせ〜!ポテトグラタンとサラダにスープだよ〜♪」


「ありがとうございますエノさん。いただきます!」


「ごゆっくり〜」


 待ちに待った飯だ!

 と、食べようとしたタイミングでエノさんが戻ってきた。


「ねえねえアーニくん、昨日の揉め事の話はもう聞いた?」


「うーん、思い当たる節がないから聞いてないですね……」


 冒険者ギルドや街中ではそこまで話が回ってないのかな?

 ただ、こういった小さな喧嘩はよくあるから皆はいつもの事だろうと流してるのかも。

 知らない情報はすごく欲しいので、食べようとスプーンを持った手を置き直して、エノさんに視線を向ける。


「どんな話が出回ってるの?ちょっと気になる」


「えっとね、街中でかなり人気のある娼館に他領の貴族が殴り込んできたんだってさ!」


 ……ん?娼婦、貴族の組み合わせってフラウさんだよな?


「そんなことがあったんだ。その後の話って聞いてる?」


「元々街中で怪しい動きをしてたから目を付けられていて、動いた途端に警備隊たちがお縄で縛って連れてったってさ!ひゃ〜、怖い怖い♪」


 怖いなどと言ってるけど、猫人族は人族よりも身体能力が高いので、不意を疲れない限りは基本負けない。

 まあ、これでもエノさんに乙女なところがあるから心臓に良くない。

 モフモフ女の子にあざとさが合わさると1種の兵器だな。


「あはは……、情報ありがとう。娼館にけが人がいないなら良かったね。襲われる側はたまったもんじゃないけど」


「うんうん。んじゃそゆことで、ごゆっくり〜♪」


 エノさんが去っていくのを見届けながら、少しぬるくなったグラタンを美味しくいただいた。


 とにかく、フラウさんに話を聞かなきゃ落ち着かないなぁ。

 話してくれるか分からないけど、昨日と同じくらいの時間で待ってみるか。

 昨日の話しながらどこか虚空を見ているかのような儚さは、色気まみれで盛りの僕には刺激が強すぎた。


 冷めきる前にご飯を食べ終え、宿屋に踵を返すのだった、

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ちょっぴり甘い宿屋さん ゆめる @yumeru122

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