第2話 予想もしない神頼みの結末
そんなわけで、冬空の下で餅の刺さった串を早く冷めろと振り回していると、その串の先端の餅をカラスが齧って飛んでいき、すぐ近くに落下した。餅を喉につまらせたのだろう。
先程より更に大きなため息をついた。今日はため息が多いな。
それにしても嫌な予感しかしない。
なぜならそのカラスには足が三本あったし、大きさも通常のカラスより一回り大きい気がしたからだ。
仕方なくカラスを拾って人気のない場所に移動する。ぐえぐえと悶ているがまだ生きていそうだ。
これは恐らく妖怪の
助けるべきか、助けないべきかと思っていたら、カラスは口の端から泡を吹き始めてギロリと睨まれた。
助けなければ呪われそうな風情がして、それでこのシステムは基本的には幸運に向かってはいるはずだと頭を無理矢理納得させて、やむなく体を押さえて餅の刺さった串を喉から引き抜く。
『けふ、げほ、助か、った』
「餅を強奪しようとするからだ」
『それは大変申し訳なかったが、何故か急にそうせねばならぬような気がしたのだ』
これは自称神様が組んだ呪いだからな、効果はさぞ強力なものだろう。こいつも被害者か……。
それでこのカラスは俺に何かをもたらすのだろうか。流石にあからさまな怪異はお断りしたい。ああ、きっと言うんだろうな、あの言葉を。なんとか回避できないものか。
『礼に何かできることはないか』
「やっぱりか」
『やっぱりとは?』
「いえ、こちらの事情です。そうだな。何もしないで頂きたい」
『それは困る。
そんな予感はしていたぜ。
「ふぅ、では友人のところまでついてきて欲しい」
『望むところだ。我の役割は導きなのだからな』
「そういえばなんでこんなところにいたんだ?」
『伝令に参ったのだ。だがそれは後で良い』
カラスを肩にのせて仕方なく、長屋とは反対側、
結局の所、俺は金がほしいと願って友人のところにいくわけだから、当初の願掛けの目的は果たされないのではないか。それこそを避けるために五文銭を投げ込んだんだよ俺は。
友人の住まう神社、土御門神社は辻切の賑やかな町並みを横切った先の西街道沿いにある。辻切の町は商いの町としてこの
結局朝飯も食ってない。
さっきの餅を食えばちったぁ腹の足しにはなったのだろうが、結局の所カラスの口から出た餅なんぞを食うつもりにもならず、かといって肩にカラスをのせたまま飯屋や屋台に入るわけにもいかず、そもそも飯を買うための金があるわけでもなく。
屋台から漂う田楽の焼いた味噌の香ばしさやうどんの出汁のかぐわしさに腹をぐぐぅと鳴らしながら、さらに大きくなったため息をつきつつ畜生めと口の中で呟いて、とぼとぼとその賑やかさを横切って西街道に入るのだ。西街道に入ればもう飲食店もなく、腹はただただ空くばかり。
それでもしばらく歩くと右手に木立が広がり、そこを抜けると漸く土御門神社に辿り着く。
俺の友人はここで宮司をしつつ陰陽師なんてヤクザな仕事をしているのだ。
「ごめんくださいよ」
「ああ哲佐君。お待ちしていました」
社務所の奥の住居部分の入り口扉を叩くと、上等な綿入れを着込んだ鷹一郎が立っていた。
呼んでも呼ばれてもないのに何故待っているんだ。
「ようこそお越しいただきました」
『うむ? ここは
「もとは京の分社なのですが、そうですね、今は
「おい、鷹一郎。俺はこっから抜けたい」
「ここが一応終点のようですよ。
少彦名命。
そうするとあの声はまっとうに神様だったのか。けれども神様といってもいいのも悪いのもいる。やんちゃなのは間に合っている。
「頼む。少彦名命は常城神社の神様なのか?」
「まあそうですね。でも哲佐君を守っていらっしゃるんですよ。うーん。仕方がないからこの新しい縁だけ切って差し上げますね」
鷹一郎は奥から小太刀をとってきて、その
「さて、それでは仕事を手伝って下さい」
「まて、何故そうなるんだ」
「少彦名命様からよしなにとのことです。どうせお金がご入用なのでしょう? 丁度よくお頼み申し上げたいものがあるのです。そうですねぇ。色をつけましょう。いつもの
「ちっ仕方ねえ」
どうせ神頼みでなんとかならないなら、この鷹一郎から仕事をもらう他はなかったのだ。その給金が少しあがるってぇなら軽く幸福を享受できる範囲なのだろう。その分この依頼がもたらす不幸というものの度合いも深まりそうだが仕方がない。何せ金がないんだからな。
「ありがとうございます。けれどもいくらお給金を差し上げても結局は博打で擦ってしまうのですから同じことだと思うのですがね。どうせ今も博打帰りなのでしょう?」
「うるせぇ」
とりあえず腹ごしらえを、と火鉢で餅が焼ける匂いでなんだか腹の音がなり、結局餅かと食ってしまえば前日からの眠気がやわりと襲ってきた。
続きは起きてから、だな。
意図せぬ神頼み ~明治幻想奇譚~ Tempp @ぷかぷか @Tempp
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