office.9 (February)

あかつき. job》


新年の雰囲気はすっかり薄れ、芯からの寒さにも慣れてきつつ、油断するとすぐ風邪っぽくなる今日この頃。

熱は無く元気だけど喉の痛みを少し感じるから、通勤途中のコンビニで栄養ドリンクやのど飴を数点買い、会社に着く前に歩きながら飲んだり舐めたりしていた。


「おはよーございますー」


「ッはよございますー!」


後ろから他部署の同僚たちに声をかけられると、枯れそうな声帯も気にせず大きな声で挨拶を繰り返していた。いつものように少し高めの声にして。


「ッはよ!」


会社に辿り着くと通りすがりの挨拶も増える中、軽い挨拶のあとに横にぴたっとくっ付いて同じスピードで歩く大きな身体。

笑顔というわけじゃないけど調子が悪そうでもない、いつもの東雲。


「…おぉ、はよ」


「?声、変っすね」


「ん〜…ちょっと、喉だけ調子悪い」


「ああ、それで」


俺が手にぶら下げているビニール袋には、さっき飲んだ栄養ドリンクの空き瓶が入っている。

目ざとい東雲。


「ああ。

コレ飲んで、飴舐めときゃどうにかなるだろ」


「大事にしてるんだか大事にしてないんだか

分かんないっすね」


「喉。大事」


「ほんとに?そんな喉で仕事大丈夫?

挨拶にも手を抜かないくせに。

…僕が同じ部署だったら暁さん宛の電話とかは

全部僕に回して貰うのに…」


「おー!頼りになる後輩!」


「もういい、しゃべらなくて」


まぁ、大きな声を確かに出したけど、急に肩に腕を回しきたと思ったら、その手で逆から口を塞いできた。

マスクをしてるとはいえ、口をさらに手で塞がれたうえに、身体は抱き付かれたように…ちょっと強引に拉致されるように俺の部署へとどんどん進んでいく。

すれ違う同僚には俺の代わりのように東雲が挨拶をし、俺は頭だけ下げる。

頭を何度下げようともびくともしない東雲の手だったけど、俺の席に着いたらやっと離してくれた。

そして周りを見渡し…


「みなさん!おはようございます!

今日、暁さん、喉の調子悪いみたいなんで、

変に声出して騒いでたら止めてください!」


「ッ!な!なんだよ変に騒いでたらって!」


「ほら!今だって無理に声だしてる!」


「(それは…!東雲が…変なこと叫ぶから…!)」


出来るだけ小声で、東雲を睨みながら話していると、俺と同じ部署のメンバーが数人集まってきた。


「あらー!喉痛めてるのに騒いじゃダメよ」

「暁さん!今日は電話出なくていいですよ」

「暁さんに報告は、チャットにします」

「暁さんからの指示も出来るだけチャットで」


なんだか東雲中心に、俺の喉をあまり使わないような業務方法が相談されて決まっていった。


「よろしくお願いします!」


朝のミーティングがこれで済んでしまうくらい、しっかりとした確認事項を俺の代わりにメンバーへ伝え、挨拶をして去っていく東雲。

慌てて東雲の背中を追いかけ、廊下でコートの裾を掴んだ。

これは俺なりの、声を出さないで済む東雲の引き留め方だ。


「?」


「(ありがと)」


コートを引っ張られて振り返る東雲に、声を出さずに口パクで感謝を伝えると、さっき俺が睨んでいたからか、睨み返された。


「別になにも…早く治してくださいね」


……強引だけど、心配されて優しくされると…

もともと頼りになる後輩だったけど、ここまで成長しなくて良いのに…


睨んだままの俺に、最後に少しニコッとはにかむように笑い去って行った。



自分の席に戻ると、集まっていた数人の同僚もそれぞれ業務に取り掛かろうとしている。

俺も落ち着きを取り戻していつものように声ををかける。


「じゃ!今日も1日頑張りましょうか!」


「暁さん!早速声出しちゃダメです!」


「はい!すみません!

けど!喉だけで、元気なんです!

が!ご厚意に甘えて気をつけます!」


「……元気そうですね。

喉もいつもと変わらないくらい。

あ、けど、ほんと東雲君が心配してるし。

喉、悪化させちゃうといけないんで」


隣の同僚が笑いながら気を使ってくれる。

というか、やっぱり俺、

いつもと変わらない声、出せてるよな?



過剰な心配と、強引さもあるけど、

病人に対するフォローも出来て…?

微妙な声色にも気付く東雲は

なんて有能な後輩なんだろう。

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COWORKERS 〜上司部下〜 けなこ @kenako

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