office.8 (January)
《
「そんなに今日全部飲んじゃダメっすよ?」
僕の家へ向かう途中で買い出し中、酒は控えてと言ったのに、カゴいっぱいにビールや缶チューハイ、つまみなどを詰め込む暁さん。
「分かったよ。けどなんで?
別にこれくらい飲むかもなんだけど」
「……お互いのためですよ」
…お互いの為だ。
酒に酔って頬や唇を赤くした暁さんと2人きりでいたら僕の理性が保てるかどうか。
保てなかったらこんな関係が壊れてしまう。
「あ??なんだそれ。
俺迷惑かけた??かけてたら言って??」
フラフラと店内を歩く暁さんを僕が追いかけるように歩いていたけど、急に僕へと覗き込むように絡んできた。
急に顔が近くなる。
「ッ、迷惑、僕が、かけないように、だから」
「……」
「はい、じゃあレジ…」
カゴを暁さんから奪うように受け取り、レジへ向かった。
ゼロ距離で付いてくる暁さん。
「??東雲が酒を控えるってこと?
俺は沢山飲んでもいいってこと?」
「僕も控えるけど、暁さんも控えるってこと」
どうせ控えさせること、酒を取り上げるなんて出来ないけど…自分が酔っ払って可愛くなるという身の危険?そんな自覚を少し持って欲しいけど…そういう対象で無いことを自覚しなきゃいけないのは僕か。
「??あ、ちょっ、
今日の昼飯代も受け取らないんだから
ここは俺に出させろよ」
……上司ずらの暁さん。
「…ご馳走様」
「いえいえ、お邪魔します」
「あっはーー!!やっぱ楽し過ぎて…
酔っ払ってきちゃったなー!」
酒の量を控えるなんて納得していなかった暁さんは、ビールを飲んでから缶チューハイを数本空け…当然今日も酔っ払いを自覚し始めた。
原因は暁さんが対戦したいというゲームを、僕がことごとく連勝してしまったから、やけ酒気味にグビグビ飲んでいたからしょうがないのもあるけど…
「楽し過ぎはなにより…」
「まぁ最後に勝てたから、
結局は俺の勝ちってことで」
「はいはい。じゃあゲームは終わり?
シャワー使う?」
「ん。今日もなんも用意して来なかったから
服貸してくださいー」
赤い頬でこちらを向き、赤い唇の口角を上げ、両方の手のひらを広げて服をよこせとアピールする暁さん。
セーターを着ていたけど熱くなって腕まくりをしていた。
あらわになっている腕の内側。ピンク色だ。
「……」
思わず両手首を掴んでマジマジと見つめてしまった。
掴むと改めて実感する細い手首に戸惑って無言な僕に、少し不思議がる暁さん。
「……ん?」
「……」
「……なんだよ。あー赤い?
東雲はあんまり赤くなんないよな。
俺は赤くなるけど別に酒が弱いわけじゃ…」
距離がバグる。
僕も酒を飲んでいるから、多少酔っ払っている。アルコールのせいにしたらどこまで許されるんだろう。
とりあえず両手を掴んだままでも怒られない…
視線を上に移すと首はさらに濃いピンク色だ。
「ここも赤…」
首に手を伸ばしていた。
一瞬ビクッと身構えられたけど、左手は暁さんの右手首を掴んだままだから、距離はバグったまま。
「……冷たぁ……気持ちい…」
すぐに和んで落ち着いてしまった暁さん。
'やめろよ!気持ち悪い!'とか、言ってくれていいのに。言われたら謝って終わるのに。
「……暁さん…」
「…んー?」
目を閉じて、'気持ちいい'だと?
脳内で繰り返されてしまう暁さんの言葉。
…これ以上、気持ちよく出来るのだとしたら…
勢いよく手を引っ込めた。自分で掴んで伸ばした手を思い切り引っ込めた。自分の思考が危うい方へ進んでしまいそうだった。
「ッ、あ、じゃあ、服の用意…」
「?…んー…」
「ダメだ。楽し過ぎても、会社がある」
「ん。だなー。明日も仕事だー」
離れるために服を用意するはずが、暁さんは僕の背中に乗り掛かりながら肩に腕を回して来た。
「ッ…ちょ、重いっ」
…重いのは確かだしビックリしたのもあるけど、ゼロ距離を通り越して後ろから抱きしめられているのと同じ状況。
クローゼットまで歩き、服を取り出している間も離れようとはしない暁さん。
「ちょ、ちゃんと歩いて。
ほら、やっぱ飲み過ぎ…」
「飲み過ぎではない。
歩くのにちょっと東雲に助けて貰ってるだけ」
洗面所まで進むのも抱き付かれたまま。
「1人で歩けるでしょ。ねぇ、そんな酒癖で、
次の日記憶なくした事とかないの??」
…ちょっと、記憶なくしてくれてた方が都合よかったりして…
「ない。東雲は記憶なくしたことある?」
「ないけど……ほら、歩くの危ないからッ」
振り解けずに、乗り掛かられたまま。
「いいじゃん。洗面所まで連れてけ」
「もー……ほら、着いた。大丈夫?
シャワー浴びれるの?立ってられる?」
「大丈夫!」
酔っている状況でのシャワーは大丈夫か?まぁ湯船に浸かるわけじゃないから大丈夫か?などと心配していると、さっさと脱ぎ出す暁さん。
骨張った背中の肩甲骨の動きの生々しさと、やけに広い肩幅と鏡越しの上半身が所々ピンク色にほてっていることが瞬時に見えた。
じゃあ気を付けてね、と声をかけてすぐに洗面所を後にした。
僕が入社してからの長い月日、暁さんとは先輩と後輩という関係を良好に築いてきた。会社では気楽に過ごしていた。
暁さんに対してずっと憧れてはいるし、暁さんからも特別扱いをされる事に時々優越感を感じていたけど…どうこうしたいなんて考えても無かった。はずなのに…
僕の部屋で過ごす暁さんの可愛さと生々しさが想定外の破壊力で…僕の何かが壊れそうだ。
お風呂から出て来た暁さんをベットに寝かせて次に僕がシャワーを浴びた。
僕がお風呂を出るのを今回も待っていると言っていたものの、部屋に戻るとやはりスヤスヤと気持ち良さそうに寝ている暁さん。
何も考えないようにして、今回もソファで寝た。
次の日の朝は、少し二日酔い気味の暁さんと、寝不足だし朝弱いしな僕で、いつもよりテンションが低いながらも黙々と準備してサクサクと出社する流れは、流石僕達2人だからこそ、と思った。
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