office.7 (January)

あかつき. job》


今まで酒を飲んで記憶を無くしたことはない。

現に先日、東雲と飲んで、東雲との会話その時の東雲の表情もしっかりと覚えている。


ただ、睡魔には負けたようだ。

お風呂から出て、東雲がお風呂終わるまで起きて待っていようと思ったのに寝てしまった。

まぁ東雲のベットは占領してしまったけど、もともと東雲にベットで寝ろと言われていたし。その日の朝も普通に朝に弱い東雲だったし。

俺のデスク上にお菓子の山盛りを東雲は作ろうとしたけど、一緒に出社したからそんな隙は与えず、断固阻止した。不服そうな顔をしてたけど、それもいつもの東雲だったし。


楽し過ぎてはしゃぎ過ぎた点は…幾度かある。

それでも東雲は笑ってくれてた。

会話もかなり弾んでいたし、笑いかけたら笑い返してくれた。…少し困ったような笑い方の時もあったけど、それはそれで…東雲っぽいというか、そこが可愛いというか…


東雲の誕生日を祝いながら俺の誕生日を迎える…また来年も、東雲と俺の誕生日を祝えたらいいなと思った。東雲もそう思ってくれてると思ってしまった。

が、『また来年』と俺が言っても返事が無かった。

まぁ来年どうなるかなんて実際分からないけど…困ったように微笑み返されたのは、誤魔化されたのか?…いやいつもの笑い方か?


先輩の誘いを微妙にスルーしたのか?

…先輩と思われていない、はずだけど?



東雲の部屋で、東雲の隣が居心地良過ぎて…そんな東雲の家にまた遊びに行きたいけど、さすがに1週間くらいは空けた方がいいかな…と遊びに行きたいのを口に出せずにいた。



東雲の家に泊まってお互いの誕生日を祝ってから2週間以上たった。

東雲とランチをずっと取れないくらい毎日忙しくて、東雲不足に陥っている。



「……美味しいランチ食いてぇー…

カレーが食いたい。いや、ラーメンでもいい。

なんでもいい。外の空気が吸いたい」


昼前、今日もテイクアウトの昼飯で済ませるしかない気配に嫌気がさして、ついパソコンを睨みながら低い声で念仏のように呟いてしまった。


「じゃあ今日こそランチしましょ」


「うぉ!」


同僚たちが昼休みでガヤガヤした中、誰にも聞かれていないと思ったのに東雲がすぐ後ろにいて急に声をかけてきた。

驚いて悲鳴まであげてしまったが、すぐに冷静を取り戻し、パソコンに視線も戻して仕事に集中する。


「…今日も忙しいの?

タイミング悪くてなかなか行けてないでしょ?

美味しいランチ!今こそ食べに!今!行こ!」


「おー……」


「ってテンション低いな。まだ行けなそ?」


「東雲は?今日は行けるんだ?」


「暁さんが行けないなら

自分もテイクアウト買って来て済ませるけど」


「えーーん!泣きそう!

東雲とランチ行きたいのにー!

これを夕方までにぜっったい終わらせなきゃいけないなんて!まだ昼なのに間に合わないってヒヨって焦ってる俺!社畜じゃねーか俺!」


冗談抜きで、ほんとにちょっと涙が出そう。

自分だって忙しいくせに、当たり前のように誘いに来てくれる。

東雲不足の俺には沁みる。


「……泣かないで。

じゃあ今日もテイクアウト買ってくるけど、

夕方にはそれ終わってるだろうから

今日は早く退勤して飯行きましょ」


「うん。外の空気、夕方まで我慢する。

ねぇねぇ、じゃあさ、早く退勤出来たらさ、

東雲の家で飲みたい」


「……うち?」


「え?ダメ??」


……戸惑われてしまった。

その戸惑いにビックリしてしまった。


あれ?やっぱり俺…困らせてる?


「ダメじゃ…ない、けど…」


…気を遣わせてしまった気がする。

ショック過ぎて重力に任せてうなだれたから、ギリギリ椅子に座れてるくらいまでずれ落ちた。


「?暁月さん、大丈夫すかッ!」


「大丈夫じゃない。メンタルがやばい。

東雲はもう東雲んちに、俺に行って欲しくないんだ…」


「ッ、そんなことは…」


「……パワハラだ俺…

メンタルが…俺のメンタルが…」


「何言ってんすか…来て欲しいけど…

あれから何も言って来ないのは暁さんもだし」


「言うの我慢してただけ!

行きたい!東雲の家行きたい!」


「…別に…我慢するようなことでは…」


「え、じゃあ先週言われても困らなかった?」


「……ッ、まぁ…」


「ほら、嘘だ、ちょっと困っただろ」


「困ってない」


「じゃあ次の日なら確実に困っただろ?」


「困ってない」


冗談のように笑いを堪えてる真顔な東雲。

…信じていいのだろうか。まぁ、嫌なことはハッキリ言う性格な東雲だから、信じていいんだろうけど…


「じゃあ、次の日も次の日も、連泊は?」


「それは…同居…?」


「あ!困った!」


「困ってない!

じゃあ、今日はうちで飲みましょ!

け、けど!酒はこの前より控えますよ!」


そう言って部屋から出て行こうと離れていく東雲。お?今日は東雲の家で飲めるのか?酒を控える?なぜ?


「なんでだよ!あれ適量だよ!」


「テイクアウト買ってくる!カレーでイイ?」


「!カレーがイイ!」


怒ったようにカレーか確認してすぐに出て行った。

まぁいいか。酒はどうせ飲めるし。控えるって言われても沢山買って行けばいいし。


…困って…なさそうだし?


仕事を終わらせるというモチベが確実に何倍も上がった。

東雲の家へ2回目のお泊まり飲みがこんなにもモチベ向上の要因になるとは。


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