第2話 置手紙、死の門出
彼はその場にいながら発言せず、俯いていただけだった。
私の腕にも彼の腕にも血痕があったからみんな知り得ていた。
簡単だ。
一緒に死のうとして死の門出に失敗したんだ。
心中未遂、なんて大人にもまだ、達していないのに朱を頬に注ぐように恥ずかしかった。
彼は無口な状態がしばらく続くと、汚れた顔を持ち上げ、堰を切ったようにお父さんとお母さんに謝り続けていた。
『――娘さんを傷つけてごめんなさい、ごめんなさい』
お母さんがあんなに泣いたのを私は初めて目撃した。
お父さんも目に涙が滲んでいたのを察した。
お兄ちゃんは相変わらず満面朱を注いでいたけれど、あんなにお兄ちゃんが怒った出来事も数えるほどしかなかった。
何よりも、家族全員が私のために心配したのがたまらなく嫌気が差していた。
置き手紙の中には住所と電話番号、メールアドレスが小さく書いてある紙切れが入っていた。
去年、そのプライベートな書簡を貰ったのに彼はそれさえも忘れたんだろうか。
私は思わず、水を流すようにその紙切れをクシャクシャに丸めた。
高校生になってからあっという間だった。
毎日、二両しかない電車に乗って都城市内まで通学する。
制服も新調するとやっとこさ、桜前線が北上し、薄桃色の硬い蕾が綻ぶとようやく桜は満開となった。
やっと待望のスマートフォンを買ってもらい、莉紗と連絡ができるようになった。
莉紗は美容師になるために通信制高校に在籍しながら専門学校へ通学するのだという。
高校を卒業したらそのまま福岡へ行って美容師の見習いをするんだ、と莉紗は意気込みながら話していた。
そのためには空いている時間にバイトをしてたくさんお金を稼がなくちゃ、と張り切っていた。
白白明け、懺悔 逝きたい君に贈る拙い言の葉。 詩歩子 @hotarubukuro
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