怪盗パッチマン♪
夕日ゆうや
盗むのは……?
「パパパ パッチマン。パパパ パッチマン。ウイアーパッチマン!」
テレビでパッチマンのCMが流れる。
お散歩日和の夏の夕方。
俺は高い塔に駆け上がり、偽物の仮面をかぶる。それは怪盗パッチマンのものと酷似している。先代のパッチマンは死んだ。
塔の下にはたくさんのパトカーが集まっていた。
パッチマン。
それはこの世界で最も有名な怪盗だ。
白のスーツに白のハット帽子。まるで知的なマジシャンのような格好。
パトカーから拡声器を取り出し、何やらこちらに叫ぶ者がいる。
俺の永延のライバルだ。
俺の邪魔をするが、いつも一歩勝っている。
「パッチマン!」
「
宣言し俺はハンググライダーを操作する。
飛んでいった先にはラーメン屋がある。その店特有の丼ぶりがある。
なんとその丼ぶりは宝石がちりばめられており、ルビーやサファイヤ、ダイヤ。おまけに金箔まで貼ってあるのだ。
これを逃す手はない。
店内に入ると、「おおー!」と歓声があがる。本物のパッチマンを見るのが初めてな人が多い。
俺はすっとテーブルクロス引きのようにラーメンの器を取り除く。
それが、まるでラーメンから丼ぶりを除いたようだった。
否。
実際にラーメンから丼ぶりを引き抜いたのだ。ぼたぼたと零れ落ちるスープと麺。メンマが机に立った。
「な、なにをした!? パッチマン!」
店主は驚いた顔で応じるが、俺はそのまま走り去る。
「ここにパッチマンは来たか?」
ぜいぜいと肩で息をする小林巡査。
「ああ。先ほど丼ぶりを奪われた」
店主は情けなく俯く。
「だからあれほど、警戒しろと言っただろ!」
怒鳴り声を遠くに聞きながら、俺は渋谷の交差点を歩く。
白のスーツは目立つが、すぐに着替え、太ったおばちゃんの格好に着替える。
早着替えだ。
「だが、おれは失敗していない」
店主が大仰に頷く。
「どういう意味だ? 店主」
小林巡査の顔が怪訝なものになる。
自宅に着いた俺はさっそく腹に収めた高級丼ぶりを取り出す。
「ほー。これが高級丼ぶり。なるほど」
俺は虫めがねを取り出し、宝石を確認する。
「マジか……」
その宝石はすべてガラスもの。
つまり――。
「あれは偽の宝石なんだよ」
店主が自信満々に胸を張って言う。
確かにどこの世界に宝石と金箔をあしらった高級丼ぶりを作ろうとするのか、はなはだ疑問ではある。
騙された俺は自宅の六畳一間でバタバタとしていた。
「ちくちょー! 今月の生活費が!」
そこにインターホンが鳴り、玄関を恐る恐る開ける。
「
「あー。来月まで待ってください」
申し訳なさそうに目を伏せる俺。
いやだってこの高級丼ぶりを当てにしていたんだぞ。
それがパァだ。
「これ以上ですか? 本当に稼げるのですか?」
「まあ、はあ」
怪盗業は難儀な職業なのだ。
「まったく。これ以上は待てませんよ」
そうきつく言い大家さんは出て行く。
階段を降りていくのを聞き届け、ひとりごちる。
「……バイトしよ」
怪盗パッチマン♪ 夕日ゆうや @PT03wing
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