名刺代わりの好きな本5冊

根來久野

名刺代わりの好きな本5冊

 皆様、こんにちは。

 初めての方は初めまして。


 まるっこ様の企画『あなたの「名刺代わりの好きな本5冊」教えてください』に参加させていただきました。


 改めて、自分はどういう人間なのか、読んでいただいた方に知っていただけたら嬉しいなあという気持ちと、好きな本と皆様の出会いのきっかけの一つになれたら幸せだなという気持ちで綴っていきたいと思います。


 それでは早速。


ーーー


◆麦の海に沈む果実 恩田陸

 理瀬シリーズはどれも好きすぎて、正直選べないのですが、どれか一つと言われたら、やはりここはシリーズ最初のこちらを。


 どんよりと暗く、閉塞感のある湿原地帯にある全寮制の学園を舞台に、主人公の理瀬が転入するところから物語は始まります。


 その学園では、三月以外の転入生は破滅をもたらすと言われていて。

 二月の最後に転入してきた理瀬は戸惑いと不安に包まれる中、どこか危うげで魅惑的とも感じられる学園の生徒たちと関係を深め、学園生活を過ごしていきます。

 生徒たちが、学園が、そして理瀬自身が背負っているものの深淵に近づいていくことで、少しずつ謎が明らかになっていきます。

 それが美しい不穏さを醸し出すと言いましょうか、静謐な恐怖が散りばめられた文体は非常に蠱惑的で、一度味わうと病みつきになるような独特な世界観が広がっていきます。


 恩田さんの作品は中毒性があるなあといつも思います。


 ハードカバー、文庫共に、表紙・挿絵を北見隆さんが手がけられていて。

 あのひっそりとした静けさ、幻想的な美しさが滲む絵がまた、物語の世界へと深く誘ってくれます。

 北見さんは「麦の海に沈む果実」以降の理瀬シリーズも装幀を手掛けられていて、時おり本を手にとってはほうっと見惚れてしまうくらい、大好きな美術家の方です。


 自分にいつか娘が来てくれることがあるのなら、「理瀬」と名付けたいと思っているくらい、そして自分のペンネームにしようかと考えたくらい、大切な一冊、思い入れのある主人公です。



◆象と耳鳴り 恩田陸

 すみません……何とか、何とか2冊に留めますので、ここでも恩田さんの本を紹介させてください。

 5冊、気を付けないとすべて恩田さんで埋まってしまうな……。


 さて、こちらは12のミステリーから紡がれる短編集です。カテゴリとしては、安楽椅子探偵です。


 タイトルとなっている「象と耳鳴り」ももちろんですが、特に私が好きなのは「曜変天目ようへんてんもくの夜」です。


 なんというのでしょうか、「矜持」、「自尊」という言葉が浮かび上がってくるような物語です。

 あまり書くとネタバレしてしまいそうになるので、この辺りで止めておきます。


 恩田さんが描く上質で重厚な世界にどっぷりと浸かれ、郷愁とカタルシスを感じながら、物語を通して人という生き物をどこか俯瞰して見ることできる作品だなと。


 私が持っているのは文庫本ですが、こちらも装幀がまた秀逸で洒脱、美しいです。

惚れ惚れします。



魚神いおがみ 千早茜

 千早さんもまた大好きで……!

ひえー千早さんもどうしても挙げたくて2冊続きます。本当は「眠りの庭」も入れたかった……。


 「魚神」は妖しく、そして美しい哀しみを孕んだ、とても幻想的な物語です。


 かつて政府によって一大遊郭が造られた孤島を舞台に、ひりつくような愛情と、どこか甘美とも言えるような苦しみが交錯しながらも、少しでも光の差す方向へと向かっていこうとする切実な登場人物たちに、知らず知らず入り込んでいきます。


 主人公たちは危うげな美しさや儚さを醸し出す一方で、時に非情とも思えるようなしたたかさ、そして強さを垣間見せてくるのがまた人間臭く、魅力的。


 思い出すとさまざまな場面、人間模様が浮かんできて、書いている今も込み上げるものがあります。


 情景描写が秀逸で、私は読み進めていくうちにまるで映画を観ているような気持ちになり。

 頭の中に鮮やかに映像が浮かんできました。配役も決まってます(笑)わーこれ読んだ方と、お話しできたら楽しいだろうなぁ。


 幾度となく読み返していますが、読み終えた後、心からこんな物語が書きたい!! と思う、自分の中で核となっている一冊です。



◆あやかし草子 千早茜

 千早さんの2冊目、こちらも外せなかった……!!

 

 「あやかし草子」は短編集です。

 人とあやかしが織りなす、どこか懐かしさを感じつつ、切なさが押し寄せる物語。


 私はその中の「天つ姫(あまつひめ)」と「ムジナ和尚」が大好きです。


 なんで、あやかし、動物ってあんなに愛おしいのでしょうか。

 勿論、恐怖や畏怖を与える存在でもあるけれど、私には時に人以上に気持ちが入るというか、彼らに深い愛情を覚えます。


 確実に自分が書く物語に影響を及ぼしてくださった、珠玉の短編集です。



◆煌夜祭 多崎礼

 一言で言います、大好きです。

 ネタバレしたくないので詳細は控えますが、構成から登場する人物から、何から何まで大本命というか、こんな物語に出会えて私は本当幸せですと、大袈裟でなく思います。


 また、多崎さんのあとがきも素晴らしく。

 何度も読み返し、一時期、お守り代わりに持ち歩いていた程でした。


 執筆の道を志された同志の方に、多崎さんのあのあとがきだけでもまずは読んでいただきたいと願う程。 

 私は本当に勇気と力をいただき、そして今もなお、支えていただいています。


 巧みな筆致と、臨場感のある描写で、千早さんの「魚神」同様、ぜひとも映像化、映画化してほしいと願う作品です。

 多崎さんはTwitterフォローさせていただいていて、つぶやきから滲み出るお人柄も好きです。


ーーー


 以上、「名刺代わりの好きな本5冊」挙げさせてただきました。


 正直、5冊に絞るの、大変でした……!あと5、6、いや10冊はある……。


 でも、それは嬉しい大変さで。

 こんなにも自分には、大好きな、心の拠り所や支えとなってくれた本がある。

 自分という一人の人間を形作ってくださった一部に本、物語があるのだと、あたたかく、誇らしい気持ちになりました。

 そして世に物語を送り出しているプロの作家の皆様、ありきたりの言葉ですが、心の底から尊敬してやみません。本当に凄い。凄すぎる。


 私は今年の夏、初めて一つ物語を書き上げた時に覚えたのは絶望感でした。


 あまりの自分の稚拙さ、思った以上の力のなさ、そして逆にもっと自分は書けると思っていたという傲慢さに、思わず笑ってしまったのですが。

でも、それはどこかからりとした、明るい絶望感でした。


 自分の立っている位置と、目指したい場所が明確になったことは、私にとっては希望であり、可能性でした。


 本と、物語と共に在った、そしてこれからも在る人生を、心から幸せに思います。


 企画を主催してくださったまるっこ様、教えてくださった白木犀様、本当にありがとうございました。


 そしてここまで読んでくださった皆様、心から感謝を申し上げます。


 根來 久野(ねごろ ひさの)という人間を少しでも、何か、片鱗のようなものでも感じていただけたら、とても嬉しく思います。

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