行方不明の新幹線作業員

輝焼

第1話 11月22日

最近寒くなってきた。

僕がこの仕事を始めて早3年。この仕事は力仕事も多く、はっきり言って辞めたいと思うこともあったが、なんだかんだ今日までやってきた。


「古川、ミーティング始めるぞ」


僕は先輩に呼ばれ、ホワイトボードの前へと向かう。

今日の作業内容や、区間について説明され、自分の担当業務も指示された。

ミーティングを終えると、揃って車両に向かう。トラックのような無骨さに、電車の台車がついている。後ろには、長い長いレールを携え、これからの作業も頑張るぞという気持ちが湧いてきた。


「古川、最近どうだ?」


移動中、先輩から声を掛けられた。普段もの静かな僕に声を掛けてくれるのは、先輩の小山さんだけ。


「はい。元気にやってます。」

「そうか。無理はするなよ。自分の夢を叶えるのが1番だからな。」


小山さんは、いつも少し不思議なことを言う。でも、僕の雰囲気のせいもあり、その後の会話は続かない。少し寂しいけど、ありがたい。


その後、現場に着きそれぞれ作業を始めた。

僕はバラストを袋に詰める作業。1人でやる作業。特に会話もなく、淡々と進めていた。僕はそんな作業をしながら、小学生の頃を思い出していた。


「はやては将来なにになりたいんだ?」

「うーん。何が良いかな?」

「はやてが楽しいと思うことはなんだ?」

「お出かけすることかな」

「そうか。じゃあはやては将来、お出かけを仕事にしたら良い」


私の父親は、暇さえあれば僕をどこかへ連れて行ってくれた。

秋には日光へ紅葉を見に行ったし、冬には長野まで雪を見に行った、どこかへ連れて行ってくれた楽しい思い出……


でも僕はあることを思い出した。

母親を見たことがない。

子供の頃、母親がいないことを父に尋ねようとした。しかし、父は頑なに何も答えてくれなかった。僕は不思議に思ったが、その時だけいつも笑っている父が急に悲しい顔をした。それ以来ぼくは母親について考えることをやめた。


そのとき、僕は思い出した。僕の夢を。

気付いたら僕は線路の上ではなく、山の中にいた。同僚にバレることなく、逃げ出すことができたんだろう。

とりあえず、この山を進み人里まで出ることにした。この辺りの土地勘はあるはず、日が昇り、また沈むまでには帰れるだろう。


ここから僕の大冒険が始まった。

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行方不明の新幹線作業員 輝焼 @kagayaki0115

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