旅立ち

 テルミ達に旅立ちの挨拶を交わすとおれたちは城から出る。

 昼頃にもなれば既に王都は活気づいていた。

 初めて来た時と違って、なんかシグレさんの努力が身に染みる心地だ。

 今までの印象とは正反対の魔法使い風の衣装になりを潜めた、隣の妹は眠そうに大口を開けていた。

 顔が隠れるほど黒帽子を深く被り、意味があるのかどうかわからない杖を腰に差す。

 おれとは反対方向にサイドテールを作っていた。

 変装の甲斐あってか未だ道行く人に話しかけられていない。

 ちなみにおれと妹は超越者の姉妹という設定らしい。

 これなら何から何まで違いがあっても、誤魔化しが効くらしい。


 便利な言葉だな、超越者。

 ちなみにおれが妹で妹が姉。

 なんか姉弟で声優をやっている人みたいに役割が反転している。

 ……マジでどうかと思う、テルミの趣味は。


「手でも繋ぐか?」


 おれが手を差し出すと、妹は握り返してくれた。

 こうして手を繋ぐのはいつ以来か。

 ……いや、いつ以来も何も繋いだ記憶ないな。

 ともあれ、魔族の国アースレイへの道のりへと進もうとした時だった。


「おーい!」


 肩を突かれたので振り返ったら、プニッとおれの頬に何かが柔らかく突き刺さった。

 見覚えのあるフード……それにこの楽しんでいるかのような口ぶりは。


「……リーフ」

「魔術を教えてくれる約束だよね? その様子だと用事は終わったみたいだしさ」


 なんで後ろ姿で気づいた。

 けど考えてみたら簡単だった。

 髪飾りに神彩の宝玉つけているんだから当たり前だ。

 それに巫女服なのも変わっていない訳だし。

 何か口元がにやけているリーフがいた。

 ……何だろう、物凄い嫌な予感がする。

 具体的には死亡フラグが立っているような気がする。


「あの話は別れた時点でお終い。他を当たってくれ」

「えー、魔術書までくれたじゃないか!」


 ほらっと昨日あげた魔術書を見せてくるリーフ。

 それは別に他の人でも――

 グイっと妹がおれの手を引っ張ってきた!

 繋いでしまったせいで逃げられない!

 隅に引き寄せられて、耳元でこしょこしょと囁かれる。


「あれゲーム時代に処分された奴! なんであんの!」

「……はっ? 処分?」


 そんなことあったっけ?

 ゲーム時代でも割とひとりでいることが多かったから分からないんだけど。


「あほ PL 共が酔った勢いで作った魔術が記載されている奴。下手に発動しようもんなら国が大騒ぎ不可避の代物! 発売して数週間たった後、内容のやばさに気づいた連中が全国に駆け込んで絶版された」

「つまりは……NPC が持っていたら危ない禁忌の書って扱いでオケ?」


 妹が頭を上下に振った。

 ……オウ、マジかよ。

 おれは改めて全身に冷水が駆け巡る感覚を覚えていた。

 後ろを振り返れば、リーフがなんか首をかしげている。

 フードの下が見えればきっと……じゃなくて!


「男に二言はない。あれはもうリーフのものなんだ」

「どうしてそう無駄に高いプライドがあるかな、男……って今は女の子でしょラナちゃ ん!」


 そうだった!

 だけど体は認めても心だけは男で居たいわけだ!

 あんまり国家秘密だから人を増やしたくない。

 けどあの魔術書が広まれば、最悪リーフに魔の手が降りかかるかもしれない。


「よしっ、リーフ! 一緒に行こう!」


 一番の最適解はおれたちと一緒に行くことか。

 おれの言葉を聞くと、リーフはすぐに駆け寄ってきた。

 その前に妹がリーフに手を突き出した。


「その前に、いくつかこっちの条件につき従って貰うけど。良い?」

「別にいいよ。ダメって言われたら私は宿とかギルドに待機するから。あくまでラナに用があるだけだからね」


 導き手、妹の前でもリーフは物怖じしない。

 あくまで用があるのはおれだけだと首に腕を回してきた!?

 吐息近いんですけどあのそのちょっと……暖かいすね。

 わざとだよね、リーフ。

 絶対わざとやっていますよね、リーフ!?


「それならいいか。ただしもし少しでも探ろうとしたら……」

「その時は承知の上だよ。ラナに変な術をかけられても誓う」

「じゃあ最後。あなたの目的は何?」


 妹が核心に迫る質問を飛ばした。

 それがリーフの何かに触れたのだろう。

 そっとおれにもたれるのを止めた。

 距離を取るかのように離れたリーフ。後ろ手を結び、フードなのも相まって怪しげな雰囲気を漂わせる。

 さっきまでのリーフじゃない。

 揺蕩うように揺れるフードの下から見える口が動いた。


「私の目的は真の六魔王に会うこと」


 ……そうか。

 会いたい六匹の魔族って、やっぱりそいつらのことか。

 さぁ行こうと、おれの反対の手を取ってくるリーフ。

 妹はそんなリーフに警戒の目を向けていた。

 おれってこの調子で黄泉に到達できるんだろうか。

 不安がある。

 けれどせっかくなんだ。

 この異世界を、思う存分楽しまないと!

 こうしておれはようやく、クロステイルから旅立ちの一歩を迎えた。

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黄泉の巫女 メガ氷水 @megatextukaninn

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