過去の記憶?

 章たちから別れてキラキラマートを出ると、外では涼しい風が吹いていた。

「キラキラマートで何があったのか、思い出しました」

 守護者はポツリと言った。

 亜矢をきっかけに記憶がよみがえったのだという。

「昔、藍が小学校二年生くらいの頃、見知らぬ男性が藍に話しかけてきたんです。藍は嫌だといったのに、お菓子を片手に、何処かへ連れ去ろうとしていました。私は、これは危険だと思い、男性を突き飛ばしました。すると、勢いよく吹き飛んで行って、気絶したようでした。すぐに瑠璃さんが気付いたので、藍は無事でしたが、怖かったでしょうね」

「瑠璃さん?」

「藍の母親です。藍は、瑠璃さんにしがみついて泣きじゃくっていました」

 泣きじゃくっていた女の子の姿と幼い清川の姿が重なり、守護者の胸が痛んだ。

「そっか。今の話、清川さんに伝えても平気?」

 過去の記憶を思い出すことで、清川が精神的に傷を負うことを守護者は警戒している。

 しかし、それでも伝えなければいけない。

 過去を知り、これからも守護者とともに生きていくことを望んでいるのは清川自身だ。

 守護者は、頷いた。

 金森がドキドキしながら守護者の言葉を伝えると、清川は目を閉じて何かを考えた後に、こちらの予想に反して明るい声を出した。

「ああ、そうか、あの日は、そんなことがあったのね」

「清川藍、思い出したのか?」

 あっさりとした彼女の様子に、赤崎は拍子抜けしている。

「うん。確かにあの時、怖い人に声をかけられて、助けてって、思ったかも」

 清川はうんうん、と頷いており、それを守護者が心配そうに眺めた。

「平気なの?」

「え? うん。私ね、あの日の思い出は、お母さんに、急に抱きしめられて、その後、アイスを買ってもらったって、だけだったの。でも、実は、守護者さんに、助けてもらえてたんだね。むしろ、良い思い出になったかも」

 機嫌よく笑う横顔に無理した様子はなく、守護者はホッと胸を撫で下ろした。

「いやあ、よかったです。しかし、思い出せても、なんだかしっくりきませんね。パズルの最後のピースがはまるように、スッキリするのではないかと思っていたのですが」

 嬉しそうに微笑みながらも、守護者は釈然としない様子で首を傾げている。

「まあ、案外そんなものではないか? 実感なぞ、後からやってくるさ」

「そうですよね」

 大変だと思っていた問題があっさり解決して、金森もなんだか気分が良かった。

 また、外は少し肌寒く、どこか温かい所に入りたかった。

 だからだろうか、金森は普段ならば絶対にしない提案をした。

「ここの近くに、私の馴染みの喫茶店があるの。良い所だからさ、みんな、時間があったら行かない? もう夕方だし、帰りたかったらそれでもいいけどね」

「おお、いいな。そこで祝杯を挙げよう」

「喫茶店に入るの、初めてだから楽しみ」

 守護者は、清川が行くといえば自動的についてくるだろう。

「決まりね! 姉ちゃんのお店はこっちだよ」

 金森はご機嫌で、店までの案内を始めた。

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