第四話:会話はテンポ。質より量



第四話:会話はテンポ。質より量



【本文】


いや〜…働いた。


今日も社会にいじめられた男が

自身の唯一の安息地 自宅の床に腰を下ろし、淡々と飯を口に運んでいる


その顔には隈が出来ており、覇気がなく、生気を感じられない


『仕事 辛い 疲れた』


きっと新卒の検索履歴はこのワードで埋まっているに違いない


仕事ってなんでこんなにキツいんだろう。

さっさと”ひろ●き”あたりベーシックインカム導入してくれないかな?


そしたら、適当にバイトでもしてYotubeとかアニメ見ながら死ぬのに。


>まる

『スズキ、おかわりいる?』


>スズキ

『ありがとう、もらおうかな』


私は微笑みながらまるへ答える


まるはそんなスズキへ笑顔で返事をした後

スズキの隣からご飯茶碗を手に持って立ち上がり、炊事場へ向う


目の前には足の短い白いテーブル

その上にはカセットコンロで火にかけた大きめの鍋が乗っている


鍋の中を覗くと白菜と豚肉が交互に挟んで敷き詰められており、

それらがグツグツと煮込まれている


今夜はまるが鍋を作ってくれたのだ


>まる

『よい…しょ』


炊事場から戻ったまるが再び、スズキの隣に座る

手には白飯で満たされた茶碗がある


まるはそれをテーブルに置き、

『もう火を止めた方がいいかな…』と小さく呟きながら

カセットコンロのつまみを右に回した


火が小さくなった事を確認した後

鍋の具材をお玉ですくい、スズキの前にある器によそう


そうして満たされた2つの器を、スズキの前へ再び置いた


>まる

『はい、どうぞ!』


>スズキ

『…』


以前 、まるが一向に食事を取ろうとしないため、

体調が悪いのかと心配になり、本人に直接聞いた事がある


本人曰く、食事をしなくても生命活動を維持する事が出来るらしい

必要がなかったので、食べなかった。とのこと


だが、必要ではないが可能ではあるらしく

試しに、備蓄していたポテチを"錯覚"が働いていない状態で食べてもらった


まるは触覚でポテチを器用に掴み、そのまま体内に取り込む

すると、”まる”の体内に取り込まれたポテチが徐々に泡に包まれていき

やがて完全に見えなくなる。


数秒経つと、泡が小さくなっていき

全ての泡が消えた頃、ポテチの姿はもうどこにもなかった。


…つくずく不思議な生き物だ


>まる

『…(もぐもぐ)

 ん〜♪ 我ながら美味しい♪』


普段は余計な出費という理由で、

まるは食事を積極的に取ろうとしなかったのだが…


>???

『いヤ〜、メっちゃ美味いワ!まる君!

 こんなに美味い飯を食ったのは、久っ々!』


今夜はイレギュラーが発生している


>まる

『今日はクッ●パッドで見つけた、

 ”豚肉と白菜のミルフィーユ鍋”ってやつを作ってみたんです』


>???

『へ〜、ミルフィーユ!

 ミルフィーユって何年か前に 流行ったお菓子やロ?

 豚と白菜が、何層にも重なってるから、ミルフィーユ!

 いヤ〜、オもろいな!』


>スズキ

『"オもろいな!"...じゃないだろ。

 お前いつまで家でタダ飯食うつもりだ。一週間って話だったろ』


>???

『...スまん、辛い過去はナるべく 忘れるようにしてるん、ヤ...(遠くを見つめる)』


>スズキ

『…』


こいつの名前は【ヤマグチ】

私が学生の時にやってたアルバイトで知り合った。そっからの腐れ縁


東京出身のくせして、関西弁を使っている


マッシュショートヘアが似合うオシャレな大学生で

いつも適当な事しか言わず、ノリに任せ、いい加減に生きている


この前もLINEで『なぁ、ミジンコってライオンなんやで。確かなスジからの情報ヤ...』って送ってきた 返信はしてない。


趣味は知らん。興味ないから。

どうせクラブとか行ってるだろ。クラブとか。

そんな偏見が生まれる程度には整った容姿をしている


どうやら金欠らしく、一週間前から家に転がり込んできた

それからしばらく家に住み着き、こうしてタダ飯を食らっている。


まるが食事をしているのは、そのせいだ


流石のヤマグチでも飯を食わない人間には不信感を抱くだろうと思い

ヤマグチの前ではご飯を一緒に食べて欲しいと、私からまるにお願いした


…正直、私1人だけ食べるのは、なんだか気が引けたので

内心、まるを食事に誘う口実が出来て良かったとも思っている。


>ヤマグチ

『しっかし、今日もエらい遅かったな。

 パソコン屋ってそんなに忙しいもんなんか。』


>スズキ

『何度も言ってるけど。”パソコン屋”じゃなくて”プログラマー”』


>ヤマグチ

『ジゃあ、仕事にパソコン使わんの?』


>スズキ

『いや、使うけど』


>ヤマグチ

『んじゃあ合ってるヤん』


>スズキ

『合ってねぇよ

 その理論だと、世の中のほとんどの人間が”パソコン屋”になるだろ』


>ヤマグチ

『全ての人間に平等な世界...です、か。』


>スズキ

『やかましいわ』


>ヤマグチ

『はぁ〜、細かい事 グチグチと、

 ね〜 まる君』


>まる

『え…あ、そうですね』


>ヤマグチ

『ホんま、こんな出来た子に

 少しでもお前と同じ血が混じってるとは思えんワ』


ヤマグチにはまるのことを私の遠い親戚の子供で、両親が海外へ旅行をしており

その間、私が一時的に預かっている…と、適当に伝えている。


>スズキ

『…だろ?多分神様が私の才能を全部まるに持ってったんじゃないかな?』


>ヤマグチ

『(…もぐもぐ)

 お前に才能なんか元々ないやろ』


>スズキ

…スッ(スマホを取り出す)

『Hey Siri. 殴っても捕まらない方法』


>まる

『ふふっ、はいこれ、ヤマグチさんの分です。』


>ヤマグチ

『お、スマんな!ありがとウ!』


私とヤマグチがギャーギャー言ってる間にまるが

ヤマグチの茶碗にご飯をよそう


>ヤマグチ

『あれ?クリ●ンの分は?』


>まる

『え…?クリ●ン…さん?

 これから、どなたか来られるのですか?』


>スズキ

『まる、大丈夫、無視して良いよ』


>ヤマグチ

『なんヤまる君!クリリン知らんのンかい!』


>スズキ

『日本国民が全員ドラゴン●ール読んでると思うなよ』


>ヤマグチ

『え、国語, 英語, 理科, ドラゴン●ールやないン?』


>スズキ

『ドラゴン●ールは義務教育のカリキュラムに組まれてねぇよ

 いくらアニメ大国でも、そんなトリッキーな教育しないわ。』


あ”ぁ”〜コイツと喋ってると疲れる。

多分一年分くらいツッコんだと思う。


無視すれば良い話だが、こいつがテンポよくボケてくるもんだから

反射的にツッコんでしまう。


餅つきと同じ原理だな


ヤギの胃袋みたいに肺が四つ欲しいと嘆きながら、目の前にある美味い飯を食らう。

うん...うまい。


>ヤマグチ

『(…んぐんぐ)…んまぁ、でも 真面目な話、感謝はしとるんヤで?

 お前には、何回も世話にナっとるシ』


突然、ヤマグチが真面目な声でそんな事を言ってきた

本人は真剣なんだろうが、普段ふざけてる分、少し気味が悪い。


ヤマグチは、大学に通いながらアルバイトで食費や遊ぶ金を稼いでいるのだが

感情が先行して動くため、職場で少しでも気に入らない事や納得いかない事があるとその日にアルバイトを辞めてしまう


そのたびに金欠になり、私の家に転がり込んでいるもんだから

さすがのヤマグチも私に引け目を感じているのだろう


その事について何も思う所がない、と言えば嘘になるが

幸い私は独り身だし自分も学生の頃苦労した。


私が出来る事くらいは力を貸したい。


それに、


>スズキ

『別に大した事はしてないよ、ただ飯奢ってるだけだし

 逆にヤマグチが来てくれて助かってるくらいだよ。

 まるを1人留守番させるのはちょっと不安だったから』


>ヤマグチ

『スズキ…

 俺 来世は、お前に壺売って暮らすわ』


>スズキ

『私のセンチメンタル返せ。あと急にモラル捨てんな』


>ヤマグチ

『違うんヤ、捨てたんやナい。

 落としただけや』


>スズキ

『すぐ拾え、3秒ルールだ

 今ならまだ間に合う。』


...うん、ヤマグチはこれくらいで良い。



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>???

『…』


そんなどんちゃん騒ぎを電柱の影から見つめる者、1人

これは次回で良いや。




第四話:会話はテンポ。質より量▶︎完

いつか次回へ続く


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偽モノ。 控えめな一等星 @mayuto_kedaruge

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