10話

「ないわ、どこにいってしまったのかしら……」

「本当にここで使っていたんですか?」

「ええ、家の中では常に持ち歩いたりはしないからあるはずなのよ」


 スマホがなくなってしまったというよくあるやつだった。

 それで探していたわけだが一向に見つからないため彼女の両親がいないのをいいことにリビングに行ってみたら食事用の椅子に置いてあって渡した。

 何故かぼわっと顔が赤くなってそのまま隠れてしまった彼女、別にからかいたいとかそういうことではないからソファに座らせてもらう。


「ご、ごめんなさい」

「謝らなくていいですよ」


 肌が白いから赤くなったときに分かりやすいというのは面白いかもしれない。

 それなら普段の怖いようにも見えるあの顔は必死に隠そうとしているだけなのだろうか? 知らない人が怖いと言っていたから可能性は高い。


「の、飲み物を用意するわ」

「気にしなくて――」

「用意するわっ」


 気にしなくていいのに、人間なら誰でも一度はやらかしてしまうことだろう。

 で、その不安定な状態で動こうとするのを止めなかったのが問題だったのか転びそうになってしまったという……。


「はは、こぼれなくてよかったですね――あ、ちょっ、暴れたらこぼれますよっ」

「も、もう大丈夫だから離してちょうだいっ」


 えぇ、なんか途端に俺がやらかしたみたいになっているぞ……。

 断じて変なことはしていない、先輩を支えるついでにこぼれないように支えたというだけでしかないぞ。


「なんで最近はすぐに慌ててしまうんですか? 別に知らない男に急に触れられたというわけでもないのにおかしいですよ」

「そ、その話はもういいわ、はい、冬でもちゃんと飲まなければ駄目よ」

「ありがとうございます」


 茶も上手いがやはり甘い飲み物を求めてしまう、もっとも、流石にそのまま言うような人間ではないから問題には繋がらない。

 だが、帰りに買おうと決めた、ついでに世話になっているから両親の分も買おう。


「あと、少しおかしなことがないかしら」

「おかしなこと? だから先輩の――」

「それよ、なんで先輩のままなの」

「まり先輩と呼ぶのは面倒くさいです」

「まりでいいじゃない、私だって名前で呼んでいるんだから……」


 名前が好きなのか、それなら合わせよう。

 嫌とかそういうことではないから名前で呼ぶことになっても問題はない。


「まり」

「なに?」

「腹が減ったんでなにか食いに行きませんか?」


 最近はよく出てくるハンバーガーでもいい、たまにはああいうパワーをくれるような物を食べるのも大切だ。


「む、作ってくれでいいじゃない」

「あ、作ってくれるんですか? それならお願いします」

「最初からそう言いなさいよ……」

「俺なりに考えて発言をしているんですよ」

「遠慮なんかいらないわ、私にしてほしいことを言いなさい」


 そう言われてもすぐには変えられないが、重ねるとなんか大変なことになりそうだから頑張るしかないか。

 そもそもその変えられないというやつも勝手な妄想かもしれないから決めつけて諦めてしまうのはもったいない気がする。


「じゃあ次からは頑張ります」

「ええ、それでいいからお願いね」


 悪くないレベルでこの人に合わせていこうと決めたのだった。

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137作品目 りょまるで @rianora_

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