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詩人
最終話 虹彩の音色
疲弊した体に雨が降り注ぎ、私たちには相応しくない透明の汗を洗い流す。
何かが破裂した時のような渇いた音が、徐々に聴覚が戻るにつれてそれが拍手なのだと気付いた。雨に形容されることの多い拍手だが、その度合いは渇きで表される。
その矛盾を楽しく思い、息を切らしながらもフロアの熱に笑顔を向けた。
「プリチュー大好きー!」「今日も可愛いよー!」「まだ帰らないで!」「愛してるぞーっ!」「もっと見たーい!」
同じ板の上に立つ仲間たちと目を合わせ、フロアを指差すいつもの決めポーズを決めた。
私たちを指す言葉はたくさんあるし、それは全て「偶像」の意に帰着する。だけどいつだって私は信じている。
私たちは偶像なんかじゃない、と。
「どうもありがとうーっ! "Prism tune"でした!」
私たちは「虹彩の音色」。
無限の光と音を放ちながら、見る人の心を瞬く間に奪い去る。
「いやぁー、今日も大盛り上がりだったね」
「当たり前じゃない。この
「さすがでありますな、風花殿」
「でも風花、せっかく直前に教えた振付さ、ワンテンポ遅れてたよー?」
「なっ、バレて……! ま、まぁ結果は大成功だったんだし? 次頑張るから」
私たち五人以外誰も入って来られない女子更衣室では、毎度定番の痴話喧嘩が開戦していた。
「あれ、
いつもの痴話喧嘩に加わることなく、一人真剣な表情で一点を見つめているのは、全くバラバラの性格の私たちをアイドルにさせた張本人である葵ちゃんだ。あの日のことは今でも鮮明に覚えている。
「――アイドルやろうよ。あなたがセンターで」
校内でも一二を争うほど美人である葵ちゃんにそんなこと言われて、その時の私は脳内のキャパシティが爆発して卒倒してしまった記憶がある。
そんな葵ちゃんが「私は美人だけど、音楽の才能ではあなたに負ける」と言ったのだ。
あれ以来、私が不動のセンターとして「Prism tune」は全校生徒、先生に認められるほどのアイドルユニットとなった。
「いや、これももうあと少しで終わるんだなって思ったら……あっ、その……」
それは五人がどこかで抱えていたタブーで、そして恐怖だった。
だって今は高校二年の三学期。進路はおおよそ固まっているし、そのために受験勉強もしている。週に一度あるかないかのペースで体育館を借りて昼休みにライブをしているが、最低でも二週間後に行われる文化祭で楽しい時間は終わる。
五人が五人、言ってはいけない事だと理解していた。現実は辛いし、「Prism tune」が大好きだ。偶像に縋っているのは、本当は自分たちなんだって分かっている。
でももう、私たちも大人にならなければならない。葵ちゃんの今の発言は、これからの五人のゆく道を確固たるものにするきっかけになる。
「どうしてそういうことばっか……」
はずだった。
葵ちゃんの言葉に、風花ちゃんが突っかかってしまった。みんなのメイクを完璧にやってくれたり、
ユニットに誘う前から風花ちゃんは学年で知らない人はいないくらいの人気者で、ファッションリーダーのように
「だってみんなは卒業したらアイドルやらないんでしょ?」
「アンタだって、適当に大学行って、適当な会社に勤めるんでしょ? ここにいるみんな、結局はそうじゃん」
「ちょっと、風花ちゃん……」
人間同士の思いが衝突する時は、必ずと言ってもいいほど相手のことが敵に見えてしまう。
白熱すると後々が酷いことになるのはこの1年間で学んできたことだ。今回は内容が重いため、手が出る可能性だってある。
「私は卒業したらアイドルやるよ。事務所ももう決まってる」
普段はクールで冷めていると思われがちな葵ちゃんだが、実際はそんなことはなく、一人の女の子らしく反抗する時はムキになりがちだ。だからきっとそんなことを言ってしまったのだろう。
しかし、私と水波ちゃん、そして
「なん、で……?」
「だってみんな、人気になるためにアイドルやってたんでしょ。険しい世界なんか学校にはない。同業者がいないんだから。でも私は行く。本気でアイドルやるから」
葵ちゃんも熱がこもってしまったようで、その美しい顔は
こうなったら私たち三人に止める手段はない。風花ちゃんの手のひらがグッと握られて、華奢な白い腕に碧い血管が浮かぶ。
「二人とも、その辺にしよう。ね?」
亜美ちゃんが二人の仲裁に入るが、それが意味を為さないと、誰もが分かっている。
「頭冷やしてくるわ」
────え?
いつものペースで行けば、このまま殴り合いの喧嘩に発展してしまうところが、なんと風花ちゃんの方が退室するといったイレギュラーが起こった。
まさかの行動に私たち三人は驚き、葵ちゃんでさえも言葉を詰まらせていた。
去り際の少女が瞳から
さすがに言い過ぎだ、と葵ちゃんには亜美ちゃんが珍しく怒った。今まで争いが起こるのを危惧して言わなかっただけで、亜美ちゃんにも亜美ちゃんなりの想いはあったのだ。
傷つけるつもりじゃなく、最高の親友としての言葉に葵ちゃんは自分が言ったことの大きさを知った。
私と水波ちゃんは二人で風花ちゃんを探しにいった。
こういう時に一人にして欲しい気持ちは分かる。だけど、私が風花ちゃんの立場だったなら探しに来て欲しいと思う。
たとえ突っぱねたとしても、誰も来てくれないという孤独感には耐えられないだろう。そういうジレンマがある。
「あ、あの、見つけたらすぐに連絡しますんで!」
「分かった! 水波ちゃん、ありがとう!」
「どぅっはぁっ!? 助かりますその笑顔!」
そう敬礼をしながら言って、水波ちゃんは走り出して行った。
水波ちゃんは漫画研究部の部長で、女の子の服をデザインすることに関して天才的だった。自分のことを「オタクな陰キャ」と蔑んでいるが、眼鏡を外して前髪を上げた水波ちゃんは本当に可愛い。
水波ちゃんは全然運動が出来なかったのに、たくさん努力して今ではダンスも完璧に踊れるようになった。
私たち四人を崇拝しているようだが、水波ちゃんも一人の女の子として最高に輝いているということを知った方が良い。
教室を探し回っても風花ちゃんの姿は見当たらなかった。あんなに人気者の風花ちゃんのことだから、と思い他の人に居場所を聞いても誰も知らなかった。
『
数十分後に水波ちゃんからメッセージが届いた。
え、なんでそんな所に?
そもそもなんで水波ちゃんは見つけれたの?
謎が謎を呼んでいるが、とにかく購買の裏に回った。
「私には何にもないじゃない!」
突然風花の怒声が聞こえ、急いで駆けつけると風花ちゃんは泣いていて、それを水波ちゃんが見下ろしていた。
その水波ちゃんの背中からは、今まで感じたことのない威圧を感じた。
「私は風花ちゃんに助けてもらいました」
風花「殿」ではなく、風花「ちゃん」。
彼女がいつもと違うのはすぐに分かった。オタク全開の時とは違った、アイドル「Prism tune」の水波ちゃんだ。
「水波は元から才能があったじゃない! 可愛いし、デザイナーの才能は世界一よ。五人の中で一番の努力家でしょ! 私には水波みたいな才能はないの!」
「風花ちゃんが……!」
聞いたこともない声色が私の耳を
水波ちゃんの強く握られた手のひらが、
「風花ちゃんがそう言ってくれたから……っ、今の私がいるんです! 今の私が胸を張って、アイドルやれてるんです!」
「だけど、私がアンタを助けたなんて嘘よ……。アンタは、自分の手で掴んだんだ」
「私が救われたかは、私にしか分からないでしょう! 私の……私のアイドルを馬鹿にしないでくださいっ!」
水波ちゃんはそう言うと、勢いそのままにどこかへ駆け出してしまった。
私には分かる。
水波ちゃんの言葉は一切の
だけど誰もそれを笑いはしない。
私も葵ちゃんにアイドルをしようと誘われた時、世界が広がったみたいな心地の良い浮遊感に浸った経験があるから。
「風花ちゃん、戻ろう?」
「何も分かんない……。なんでアイドルやってるのか、本気でアイドルやってたはずなんだけどな……。葵の目には、お遊びだって思われてたのかな……?」
風花ちゃんがそんな弱音を吐くとこなんて初めて見たかもしれない。
きっと葵ちゃんはそんなこと思っていないだろうけど──私もそれは気になってしまう。
どうして一人でアイドルになるなんて言ってしまったのか。
どうしてまた私たちを誘ってくれなかったのか。
「ちゃんと葵ちゃんに聞きに行こう?」
私の問いかけに、風花ちゃんがぎこちなく頷いた。まだ怒りは沸々としていて、素直になれないのだろう。
それでも、風花ちゃんの気持ちも分かってしまうから、どうにかそのモヤモヤとした感情を晴らして欲しかった。
──本当は私が晴らしたかったのかもしれない。
更衣室に戻ると、
私と風花ちゃんが部屋に入った音が、まるで久しぶりの音かのような静寂だったらしく、私もどうしていいか分からないほど空気は重い。
「葵ちゃんに聞きたいことがあるの」
私は、今私が抱いている感情の名前がはっきりと分からなかった。
悲しみなのか、焦りなのか。
根底には怒りがある気もする。
だって二人の女の子が泣いている。怒りがあって当然だと思う。
「どうして風花ちゃんがあんなこと言っちゃったのか、分かる?」
「…………」
葵ちゃんと亜美ちゃんの顔をそれぞれ
「どうして一人でアイドルになるなんて言ったの? 私たちをアイドルに誘った時みたいに、どうしてまたこの五人でアイドルやろうって、言ってくれなかったの……?」
ようやく葵ちゃんが顔を上げた。
悲壮感漂う表情に、私まで胸が苦しくなる。
葵ちゃんにも葵ちゃんなりの理由があるはずだ。それをちゃんと聞かなければいけない。聞いて、それから考えればいい。
「みんなの人生まで、私は振り回せないよ。もし五人で事務所に入ったとして、きっと『学園祭ノリをまだ続けてる』って言われる。私のせいで四人の生活まで奪うなんて無理」
五人それぞれが
溜めていた鬱憤がどんどん溢れてくる。
私たちは純粋なアイドルだけど、本当は感情を溜めてしまう人間なんだ。
「私はアンタを信じてきたのよ。アンタに着いて行けば、アイドルになれるって。だけどアンタは私たちを信じてくれないの? 私は……っ、アンタに人生を捧げる覚悟があるのよ!」
「フィクションじゃないんだよ! やる気だけでアイドルなんかなれない。理想でアイドルになれたら、女の子はみんなアイドルだよ!」
葵ちゃんは本気でアイドルになりたいと思っている。私たち四人も本気だと思っているが、それ以上に葵ちゃんは執着している。
だからこそ、自分よりも理想が低い私たちは適当に見えてしまうのだろう。
私の胸が鋭く刺さるように痛いのは、どこかで自分自身がそう思っているからなのかもしれない。
「もういい。アンタなんか知らない。私がいなけりゃブスのくせに!」
「風花っ!」
風花ちゃんはまた、更衣室のドアを乱暴に開けて出て行ってしまった。葵ちゃんの顔が怒りで歪む。
「帰って」
「葵……ちゃん?」
「
狭い更衣室の壁に、凄まじい怒声が反響する。
私は亜美ちゃんと水波ちゃんを連れて更衣室を出て行った。亜美ちゃんは腑に落ちていない様子だったけど。
更衣室の外では水波ちゃんが座り込んで泣いていた。
「私、風花ちゃんに酷いこと言ってしまいました……。そのせいでプリチューは……」
「大丈夫だよ水波ちゃん」
「美鈴……?」
亜美ちゃんが私の真っ直ぐな眼差しに驚く。
私は何も無いただの女子高生だったけど、葵ちゃんに誘ってもらってからは私がいる存在意義を見いだせた。
私は「Prism tune」のリーダーだから、メンバーのことを信じないと。
「猶予は二週間。私たちは今まで通り練習をするだけ。解散ライブには、絶対二人は来る。だから私たちは『変わらない"Prism tune"』を守るんだよ」
「やっぱり美鈴には敵わないなぁ……。さすがだよ、リーダー」
「美鈴殿尊い……しゅきぃ……」
水波ちゃんに抱きつかれる。
涙が出そうだったけど、リーダーがここで泣いてはいけない。必死に口元に力を込めて、
文化祭は明日開催される。そこで私たち「Prism tune」は解散する。
しかし、葵ちゃんと風花ちゃんはこの二週間、一度も練習には来なかった。
二人とも別のクラスだから、移動教室の時にチラッと覗いたりすると、二人は別々の人生を歩んでいた。
とうとう、照明チェックの前日リハーサルになってしまった。
控え室の衣装は、二着余っている。学校の制服に似たデザインで、かつこれまでの衣装の良さを盛り込んだ、「Prism tune」の集大成とも言える衣装。
青色のものと、緑色のもの。その二つが黒い影に隠れ、いっそう苦しそうに見えた。
「あのー、そろそろ良い? 時間もないし……」
文化祭の実行委員が、明らかに苛立っているのをなるべく抑えて言った。
かれこれ30分も待ってくれている。それだけ私たちは彼女らが来るのを待っている。
いくら私の友達だとは言え、さすがに許されない時間だ。
ドタドタ──。
タッタッタッ──。
二つの足音が、体育館の硬い床を震わせる。
遠い、懐かしい音はどんどん近づいて、私たちの前に正体を現した。
「「遅れた、ごめんっ!」」
台詞もタイミングも同じ。風花ちゃんと葵ちゃんが、膝に手をついて息を切らした。
「『Prism tune』、準備出来たらお願いしまーす」
実行委員は、今まで何も無かったかのように自らの仕事に戻った。彼女もやはり粋だ。
「お二人とも帰ってきてくれて良かったです……」
水波ちゃんは既に目に涙を浮かべている。
制服からよく似た衣装に着替えている二人に、私は疑問をぶつけた。今はそれだけでいい。
「水波ちゃん、アイドルは泣かないっ。それより二人は踊れるの? 今回のは結構激しいダンスだけど」
そう、ラストライブということで亜美ちゃんに今までで一番凄い振り付けを考えてもらったのだ。
練習に一度も来ていない二人が今すぐに踊れるようなものではない。
「三人には迷惑かけたってちゃんと分かってる。生意気だって分かってるけど、言わせて。──見とけ」
風花ちゃんは一言そうとだけ言い、ステージに出て行った。
葵ちゃんの方を見ると、「まあ、なんだろう。──見とけ、かな」と同じ言葉を残して風花ちゃんに続いた。
訳が分からなかったが、とりあえず委員を待たせてしまっているからステージに上がるしかない。
涙を拭いた水波ちゃんと、なぜか楽しそうに笑っている亜美ちゃんを連れて、五人でステージに立つ。
「じゃあ音響チェック入りまーす。音源流すから、実際にマイク通して歌ってねー」
20mくらい離れたPAブースから委員の子が指示した。音響と照明で各一回ずつ通してやるため、二回分踊らないといけない。
私たち三人はこの二週間で相当練習したから大丈夫だけど、本当に二人は踊れるのか?
音源に乗せたリムショットのフォーカウントに集中する。私が作詞作曲し、自ら別撮りした音を合わせて作った、高校生活で最後の曲。一音たりとも逃すものか。
「──ん、おっけー。
「ごめん、ありがと」
息を切らしながら、私たちはステージ袖にはける。
「なんであんな普通に踊れたの!?」
二週間も一緒にいなかったのに、五人の息はぴったりで、誰一人として間違えることなく一曲を終えた。
そんなことが起きるだなんて思ってもみなかったから、今は夢見心地だ。現実なのかどうか分からない。
私の問いに、二人ではなく亜美ちゃんが手を挙げた。
「風花からも葵からも、それぞれから『今回のダンスを教えてくれ』って言われたの。だからお互いにバレないように練習してたんだ。でも、まさかここまで息がピッタリだとは思いもしなかったよ」
「なんでアンタも……!」
「それは私の台詞よ。で、でもあのさ……風花……」
「…………なに」
「勝手にアイドルになってごめん。私はやっぱり──」
「──ごめん、私はアイドルはら明日のライブを最後に辞めることにした。……聞いてくれる?」
風花ちゃんがこの場の空気を完全に支配し、私たちはただ頷くしかなかった。
視線を落としながら、風花ちゃんは口を開いた。
「私はずっと、何かになりたかったの。何かになりたくて、ずっと
きっとそれは、悲観的な決断ではない。
希望を、夢を掴むための素晴らしい決断だ。
それを止める人はいない。
だって葵ちゃんにも、亜美ちゃんにも、水波ちゃんにも、それに私にだって夢があるから。
「明日、全部出し切ろう。誰よりも、私たちのために鳴らすんだ。『Prism tune』を!」
全校生徒が集まるステージには、過去のどんなライブよりも多くの人が集まっている。
人気アイドルは、今ここで伝説となる。
そして私たちは一つの約束をしていた。
最後の曲が終わったら、黙ってマイクを置く。ステージを出る。
だから円陣にも熱がこもった。
「皆さん、1年間本当にありがとうございました。四人に可愛くしてもらった。四人に強くしてもらった。このご恩は一生忘れません!」
「あはは、サンジか! ……よし、行こう」
「行けるか! 雑すぎるでしょ、毎回亜美のボケは。ったく、最後までこのユニットは……」
「最高だった」
葵ちゃんがきっぱり言った。
瞬間、全員の
しかし、風花ちゃんの最後の仕事は崩れない。
絶対に。
「行こう。お客さんが待ってる。……Prism tuneを奏でよう!」
そして音が鳴った。
卒業してすぐ、私は大学に行かずレコード会社に所属した。
高校時代から送っていたデモテープが、今のプロデューサーさんの耳に留まり、新人ミュージシャンとして小さなライブハウスからデビューさせてもらった。
ファンを着実に増やしてきた私は、メジャーデビューから4年後には日本武道館の単独公演を即日完売させ、いよいよ音楽シーンに認められ始めている。
そんな私に楽曲の提供依頼が入り、これからその人物に会いに行く。詳細は伝えられていないため、少しだけ怖い。
「と思ってたのに」
レコーディングスタジオがあるビルに入ろうとした時、偶然──なのか必然なのか、風花ちゃんと水波ちゃんに出逢った。
二人は同じ服飾系の専門に進んだ。私の感覚がおかしいから定かではないが、今はギリギリまだ学生のはずだが、どうしてこんなところに……。
「なんか私と風花が指名されたの。アンタみたいにプロじゃないのにね」
「ふ、美鈴殿の新アルバム買いました! ライブの時の、高校時代とは違うギターをかき鳴らすかっこ良さと言ったら……!」
「あはは、ありがとう。二人とも変わってないねー」
「美鈴も誰に曲を提供するのか分からないの? そんな話って──」
三人でスタジオに入った。目の前では至高のアイドルと、そのアイドルを支えているマネージャーがいた。
私とチャートの首位を争うアイドル「葵」だ。
「まあ、そんなことだろうと思ったわよ」
意外にも風花ちゃんは驚いておらず、代わりに隣が驚きを体現している。
「このプロジェクトの立案者、どうせアンタでしょ、亜美」
「さすがは風花、お目が高いねぇ」
スーツに身を包んだ亜美は、新鮮と言えば新鮮なのだが、よく見知った顔なので安心感の方が適切だと思った。
「それより葵、まだメイクしてないんでしょ」
「すっぴんでも可愛いでしょ?」
「私がいないとブスよ、アンタ」
「うわ、心外。じゃあメイクさんの腕を見せてもらっちゃおうかな~」
私たち五人はもう、アイドルじゃない。
だけど、一人のアイドルに夢を託した。
最高の武器を付けてやる。
だから、
「貴女は最高のアイドルだよ」
私がそう呟くと、
「知ってる」と。
パレット 詩人 @oro37
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