芹澤青子の大きな独り言
あたしは、芹澤青子。
青子と書いて「せいこ」とは読まず、漢字の通り「あおこ」と読む。
御年二十八歳、独身、おまけに無職である。
このおかしな兄弟と出会うまでは。
その兄弟というのは、兄の村瀬隆弘、御年三十四歳。弟との血縁関係は無く、戸籍上でも赤の他人である。それでも彼らはあたしが羨むほど、心から信頼し合っている兄弟だ。
その兄は、弟が偉そうに彼の事を「村瀬」と名字で呼ぶが、彼にとっては呼び方などどうでもいいようだ。
彼は、長身で超イケメン。頭脳は明晰、おまけにマジで超が付くほど何事も完璧にこなすスーパーでエリートの優良物件……いっ、いや、素敵な紳士である。
そして問題の弟は石動秋葉といい、これがまたクソ生意気のクソガキで、容姿は憎たらしいほど中性的で綺麗な男の子だ。推定年齢は十八歳くらい……らしい。
この不可思議な彼らと出会った瞬間に、あたしの運命は一瞬で三百六十度変わっちゃったんだよねぇ~。
生まれて初めて激ヤバの化け物と遭遇するし、大切で可愛い後輩の明里ちゃんはマジで死にそうな目に合うし。
それから色々な事に巻き込まれ……マジてヤバイ
それからが本当に大変で、どこから説明すれば良いのか全く分からない次第。
お喋りは得意だけれど、こういう難しい説明は、頭痛がするほど苦手なあたしである。
一応自分の頭に残っている記憶を自分なりに整理して説明すると、こんな感じかなぁ~。
ちょっとそこっ! まったく理解できないとか、ぜんぜん分かんないって言葉は絶対に禁句だからね。忘れないないよぉーに!!
聞くも涙、話すも涙で、とにかく物凄く大変だったんだよぉ~
秋葉は人間界に神たちが住まう高天原を引っ張り込むという、とんでもなく無謀というか自殺行為ともとれる事をやらかして、秋葉は神気のすべてを使い果たしてしまい、人の姿を保てなくなりただの器の人形に戻ってしまう事態に。
村瀬さんはショックを通り越して大パニックに陥ってしまい、完全に放心状態で、いつもの冷静沈着な彼からは信じられないほど、まったく使い物にならないただのオッサンになっちゃうしで、さすがのあたしもどーしたらいいのぉ~!? と頭を抱えて叫ぶしかない状態に…………。
やっとのことで屋敷へ帰りついたんだけど、そこでも信じられない事態が起こってていた。秋葉の部屋に彼らと縁ある人々が全員集合していたのだ。
それというのも「
当たり前だが、あたしと明里ちゃんは全く話についていけないどころか、本物の神様というモノに生まれて初めて出会ってしまいました。
神様って、本来は人間ごときの前に簡単に姿を見せたりしないものだと聞いていたけど、この神様はオヤジが会社から<今、来たよぉ~>と冗談みたいに普通に現れた。
その大きな
御神は言った。
真顔で、笑えぬほど真剣に…………。
武神であり荒神の顔は、普段から鋭く
神様は
世間話でもするように、事も無げに。
日本は、いや全世界、または地球規模で壊滅的及び未曾有の危機が目の前に迫っていると。
昔から言われている関東大震災より大きな巨大地震に見舞われれば日本は四分割に分断され、そのいくつかは日本海に沈むと。
もう一つは、現在世界のあちこちで勃発している、まったく正義の存在しない愚かな人間たちの欲まみれの戦争に巻き込まれたなら、小国の日本など数発の核ミサイルで日本などは、一瞬で焦土と化し生きとし生きるモノすべてが壊滅すると。
今現在では地震が先か戦争が先かというほど、危機的状況にあると。
どちらが先でも日本には明るい未来は無いと告げた。
この衝撃的な話を初めて聞く者もいるのだ、少しは上手くオブラートで包み込む事もせず、台本通りにありのままを平然と告げる無神経さに、さすがのあたしもちょっとイラッときた。
まだ完全に体調が戻ったわけではない明里ちゃんは、蒼白になってビビりまくっている。こういう素直で怖がりの
それを「はい、そうですか」と簡単に理解も出来ないし、納得も出来ないってことに気づかないのかと、いつものノリで口が勝手に「神様だか何だか知らないけど、冗談をぶっこいてじゃないよッ!」とぶちまけるところだった。
もしかしたら神様という存在は、融通と言うものが利かないのだろうか。
一応神様は「全知全能」とか言われているのに……と思うのはあたしだけだろうか?
でも……秋葉の部屋に集う使用人たちも、濱田親子も、村瀬さんもこの緊急事態を既に知っている様子で、神妙な顔はしているが慌てふためく者は一人もいなかった。
神様は言った。この世の生き物は、繁栄の頂点に至った時点で、全ては滅びと言う名の坂を転げ落ちるように破滅へと向かうものらしい。
恐竜時代も
終末は巨大隕石の落下により、栄華を極め超進化した巨大恐竜たちは自然の驚異に抗うこともできず全滅をした。それでも生き残った知恵ある小さなモノたちがそれを機に長い年月と時間をかけ、更に進化を続け現代にいたる。
「人間」という生き物は、ほんの僅かな時間の中、驚異的速度で進化を続け、この地球の中では最強の「生き物」として君臨している。
何十億もの時代と時間をかけて進化をしてきた恐竜たちと違い、人間たちはほんの僅かな時間の中で驚異的な速度で、進化と繁栄を繰り返し続けてきた。別の考えに例えるなら、何十億もの時代の頂点として存在してきた恐竜たちと違い、人間は科学や化学そして医学を駆使してほんの僅かな時間で地球の生き物たちの頂点に立っている今、これからは滅びへの坂を転げ落ち、滅んでいくのだろうか。
そして地球規模で滅亡しようとしている最大の原因は、地球の
地球の地軸とは、目に見えない深い地面の下で溶けた溶岩、またはマントルと呼ばれているモノの流れが現在は停止しているという。それがこの先、地球全体にどのような影響を与えるのか分かってはいないが、それが地軸の狂いに大きく関与しているのは確かだという事をテレビが言っていたのを漠然と聞いていた覚えがある。
その時濱田の息子である雄介が、そういう事にあまり関心を持たない女性にも分かるように言葉を選んで説明した。
この状況を引き起こしたのは、何十年も前から騒がれていた大気汚染による「温暖化」が大きく影響していると、全世界の気温が少しずつ上昇していき、南極・北極の巨大な氷山が気温上昇により溶け出し、南極などは地肌が露出し剝き出しになるほど南極を覆っていた氷は溶け出し、分厚の氷で白一色の世界だったモノが、徐々に破壊されていっている状態だ。
巨大な氷山たちが日夜強い日光と高い気温に照らされ、それは次々と融解していき、山のような大きな巨大氷山から、溶け出した氷の水が滝のように流れ続けている。
それは北極も然りだと雄介は告げた。
現在は陸海ともに、自然の生態系が大きく狂い始めている。
それに適応できない生物たちは、徐々に姿を消し、大量死をしている。
一番分かりやすいのは海の生き物だろうか。
海水温が温暖化により通常より高くなり過ぎ、多くのイルカが海岸に打ち上げられ死亡する。それからクジラやシャチたちも地場が狂ってしまったのか、本来いない場所で群れていたり、世界中の海岸で、恐ろしいほどの魚が大量に死んで、浜に打ち上げられていたりしているのだ。
そのように全世界の自然も驚くほど狂い始めている。
季節外れの巨大なハリーンは、従来にはあり得ない驚異的な暴風雨をともない大きな災害をまき散らしながらゆっくりと進んでいき、残されるのは数知れない瓦礫の山と、被災した人々の嘆きだ。
この大災害を作り出しているのが「人間」だと、雄介が付け加える。
さらに科学や化学、医学が進み発展を続ければ、少なからず地球全体規模で、恐ろしいほどの速さで坂道を転がり落ちていく羽目になるだろう。人類だけでなく全ての生き物が滅亡するかも知れないね、と苦しそうに告げた。
その後を御神が引き継いだ。
地軸が大きく狂えば、全てが狂う。
大自然の流れも動植物のサイクルも、そしてその中には、人間も含まれていると。
人間には他の動物には存在しない「善と悪」の心が同居している。地球の地軸が狂った時、「善」の心は消滅し「悪」のみの心に支配されていく。
それは日本だけでなく全世界の人間が狂うとも言っていた。
正義のない、一般市民をも巻き込んだ虐殺だけの戦争もその一因かも知れない。
毎日毎日、日常に流れるニュースは「何で? どうして? そんな事をするの?」という言葉が飛び出すような最悪な事件ばかりが流れる。
これ自体が、まともな常識を逸脱した異常思考であり、世界の終焉を告げているように思えてならない。
前にあたしが興味本位で問うた質問に、秋葉がポツリと言っていた言葉が蘇る。
「今の世中は、怨霊や化け物なんかよりも、生きた人間の方が恐ろしい」と。
御神はあたしと明里に視線を投げて、こう言った。
―—すべては己の心一つだ。悪魔の甘美な囁きに負け、受け入れてしまったら、そこで全ては終わりだ。その人間の明暗はそこで決まる――——と。
問答みたいな神の発言の意味は、情けないけど全く理解できないでいた。
その時、濱田のおじいちゃん先生が、子供に教え聞かせるように静かに語った。
「御神の言葉の意味は、『心を正しく保て』と言う事だ」と言った。
「
いつでもどこでも自分だけが大切で、他人の事など知った事ではないと、傍若無人に振る舞う。
そして自分がいざ被害者側に立った時、彼らは必ずこう言うだろう。
「何をしている。そんな奴はどうでもいい。俺を一番に助けろ!!」と。
戦争だけでなく、こういった人間の中にも「正義」ない。
既に世界の全ては修復できぬほど狂い、終わっているのかも知れないと思えてならない。
もし、あたしに子供がいたら、心から願うだろう。
未来ある子供たちのために、この先も明るく素晴らしい未来が続いて欲しいと。
その時、不意に水原玲子の事が頭に浮かんだ。
彼女は最初から化け物だったわけではない。ただの普通の一般女性だったのが、働いていた職場で悪意が混在した心無い揶揄をぶつける者がいた。彼らにとっては面白可笑しく冗談のつもりで発した言葉が、人によっては酷く傷つく場合がある。彼女にとってそれは酷く傷つく辛い言葉だったに違いない。
人という生き物は時に攻撃対象を見つけると容赦なく一人対大多数で攻撃し、やがてそれは良くも悪くも彼らの快感となりどんどん助長していく。
その時には、玲子に手を差し伸べてくれる者はいなかったのだろう。誰にも救いを求められずに、一人で苦しんでいたに違いない。
そしてある日を境に彼女は、生き霊を飛ばせるようになっていた。
生き霊を飛ばすということは、多くの生命力と精神力が必要になる。それに気づかず手当たり次第に生き霊を飛ばしつづければ、一年もたたず精神薄弱になり心が壊れてしまうか、使った生命力や精神力の分、気づいた時には、たった一年で九十年をかけて使うはずの生命力を使い果たしてしまう。
恐ろしい事に、鏡に映し出された自分は、一年近くの間に九十過ぎの醜い老婆のように老け込み、恐ろしい化け物に変貌していた。その姿は実に醜くボロボロになっていた。
水原玲子のしたことは許されないが、その原因を作ったのは心無い言葉を放って、喜んでいた周囲の者たちだ。
本当の加害者はあんたたちで、玲子は悲しいほど傷ついた可哀そうなただの被害者だったのだのだと言ってやりたい。
彼女をあそこまで追い詰めた職場の男性社員たちは、何の
だからこそ秋葉は、水原玲子の心に寄り添い元の素敵な女性に接するように心を砕き、尽力し、彼女の最期の言葉というか、遺言とでも言うのか、彼女の心から声を受け止め、秋葉は明里の友人である谷山早苗を救うべく、神力を限界まで駆使ししたのだろう。
ただその見返りというか、無謀な神力の使い過ぎで、今とんでもなく大変な事態になっているのだが…………。
でも、あの場で明里の友人である谷山早苗を救わなければ、彼女の心は完全に壊れてしまい、下手をすれば廃人になっていた恐れは十分にあった。
秋葉と村瀬さんは、救いを求めてくる者に対して「損得」など度外視で、全力で助けようとする。
後の事も考えず暴走する秋葉に変わり、その補佐役を村瀬さんがしっかりと舵を握り、間違いやトラブル、大事に陥らないように気を付けているのだが、今回は……って感じで、最悪のトラブル発生現状になってしまっていたのだ。
萬屋やんごとなき 請負サービス 退助と五右衛門 @tiskgoemn
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