第3話

 男勝りの圭子が泣くなんて……俺は正直なところ、驚いた。

「卓司、おじいちゃんには大事な人がいたんじゃないかな。友達とか、下宿先で世話になっている人も大事な人には違いないけど、私は、恋人だと思う。だから、危険を承知で、広島にもどったんだよ。」

圭子の涙は、拭いても拭いても、なかなかとまらない。

「そうだとしたら、おじいちゃん、その人のこと、必死になって探し回っただろうね。私達が想像もつかないほどの被害を受けた街のなかを……大混乱の中で、その人の生死を確かめられたかどうか……」

「俺は、じいちゃんは、口数が少ないし、冷たい人だと思ってた。うるさくても、ばあちゃんのほうが人間味があるって思ったりしたけど……でも、じいちゃんは、青春時代を破壊した原爆のことを知りたいと思い続けていたんだな。だから、こんなにたくさんの本を集めていたんだ。簡単に手に入らない本もあったよな……特に英語の本とか……一人で、重すぎるもの背負って、心の奥にしまい込んでいた。この本はじいちゃんのタイムカプセルで、今日、俺が掘り出したんだよな。」

「卓司、これ、難しすぎて、私達が読めるようなものじゃない……特に英語の本はお手上げだよ。ということは、この家に置いておくだけなら、掘り出したことにはならないね。」

「じゃあ、どうすれば?」

「大学の先生とか、しかるべき人に見てもらおうよ。おじいちゃんは何も語らないまま逝ってしまったけど、このまま埋もれさせては駄目だよ。」

「でも、そんな知り合い、いないじゃないか?」

「さがすの。今どき、ネットがあるじゃない。」

「圭子。俺、圭子に惚れ直した。だから、手伝う。」

そうだ。タイムカプセルは掘り出すためにあるんだから……


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タイムカプセル 簪ぴあの @kanzashipiano

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