私たちは矛盾でいきている

麻木香豆

第1話

 そもそも彼女たちは結婚、出産まではフルタイムで仕事をしており、給料もそれなりにもらっていて化粧もして髪の毛も月一行ってきれいに染め、ネイルもサロンでしてもらい装飾品はブランドものだった。


 着飾った彼女たちは男と恋に落ち、みそめられ、結婚して妊娠して子を産んだ。それと同時に仕事を辞めてしまったわけだが、それまで働いて稼いだお金はゼロになる。


 だから今まで費やしていたものをいくら生活費をもらっていたとしても買ったりサービスを受けることができない。

 中には子供が小さいからと預けることができず美容院もいけない。すぐ終わる千円カットだ。カラーリングもセルフカラー。

 病院も病気が軽ければ行かない、市販薬で済ませる

 ……なんということだ。


 まずもって彼女たちの夫はなにをしているのだろうか。彼女たちに時間、お金を与えないのだろうか。

 好きで結婚した相手を仕事もお金も自由も奪って、みすぼらしい身なりにしてこき使わせるなんて。安いお金で(男にとって都合の)いい女を雇ったようなものよ。


 まぁ友人たちも男に依存してお金を毟り取るという考えは良く無い。わたしのお金はわたしが稼いで費やしたい。


 反対に男たちも俺が稼ぐからお前は家事育児しろと言うのもおかしい。対等な関係を考えない男が多いからわたしは結婚したいと思えないし、今の彼氏たちは単なる互いの性欲を満たすセックスフレンドにしかすぎない。


 親友の真子に関してはフルタイムでビジネスウーマンだったが結婚と同時に家庭に入れと職を辞めさせられてすぐ妊娠、二人を生んだあと夫や義父母からの侮辱、モラハラで逃げるように離婚、友達の中で絶賛の美女だった彼女はボロボロ、30代前半のはずが化粧っけのない白髪混じりのみすぼらしいおばさんになってしまった。


 それでいいのか、と思ったが子供二人にもみくちゃにされながらも仕事を休んで束の間の友達とのランチでニコニコしながら店の中で一番安いカツ丼を子供二人と自分で食べ分けていた。


「離婚して仕事も育児も大変だけど旦那たちに貶され姑に監視されているよりかは全然マシ」

 と笑っていた。


 他の友達も子供いると幸せだ、夫や姑の愚痴を溢しながらも結局は家族で旅行に行ってたりする。

 仕事はしないとお金はないけどそれよりも子供との大事な時間を大切にしたいって。


 なんだかな。


 って見下していたわたしだが、今二人目の生まれたばかりの娘を腕に抱き、うとうとしながら寝かしつけをしていた。


 わたしも当時付き合っていたセフレの次の次に付き合った男性と恋愛結婚して育児が思いの外大変だったのと、会社からのマタハラで二人目妊娠と同時に退職した。


 今は貯金を切り崩して産後にできたシミを消すと言われているコスメや時短で済むプチプラ化粧品、産後太りのためのダイエットに効くサプリを買っていたが、気づくと子供のお菓子やおもちゃ、服を買っている。


 旦那はわたしの代わりに頑張って働いてくれて、休みの日には子供の面倒を見てくれている。

 たまにわたしに一人の時間を与えようとしてくれているが彼も疲れているわけだし別にいいか、と。何か買おうか? 美容院行くか? と言われても今は子供のために何か買って欲しいし、時間をかけて美容院でケアしてもらうよりもさっさと切って子供と一緒にいたいって気持ちが強い。


 今になってあの時の友達の気持ちも分からなくない。子供の成長が手にとるようにわかる。一人目はすぐ預けたからわからないけど二人目の娘の成長を目の前で見ることができてとても幸せな気持ちになる。


 友達も子供たちが小学校に行きはじめて、仕事を再開したり自分の時間を過ごしているようだ。彼女たちだって好きで一人の時間を作らなかったわけでも無いかもしれないし、一人よりも家族との時間を過ごしたいと思ってただろうし。人それぞれだ。

 離婚して一人になって気が楽になった真子もなんだかんだで平凡なサラリーマンと再婚した。


 幸せよ、と笑ってた。また子供も生まれるみたいだから自由効くのも今のうちなのになぁと妊娠真っ最中のわたしに見せつけるかのように自由にひとり時間を味わう友達たちとの子供抜きのランチ会の写真をSNSで見せつけられた。


 なにはともあれ、またいつかは一人の時間はできる。その時に自分があるかどうか、だ。


 しかし部屋の中はおもちゃだらけ、読んでいる本は育児書や絵本、車の中は童話やアニメソング、テレビはアニメや子供向け番組……。


 息抜きに友達と集まりーとなっても子供たちは必ず連れてくるから肝心な話してるときに子供が邪魔してきてうやむやに。

 真子以外に厚美の夫の不倫話、莉子のママ友話、由紀子の離婚調停の話……聞きたいことばかりなのに。

 わたしだって話したいことある。だが全て子供でうやむやにする。みんなそこまで深く話したくないのだろうか。


 やっぱり早く日中は一人になりたいし、ほんま映画もテレビも自分の見たいし、やりたいこともたくさんある。つい最近ノートに書き出しただけでもいくつもあって叶うことはないと思ってたが、こないだ夫が子供二人連れて遊びに行ってくれた時に一つできたとレ点を打てた。


「一人でドリップコーヒーをゆったりと飲む」


 まだ娘の授乳が終わってないからノンカフェインだが。ああ、早く授乳も終えてブラックコーヒーをドリップして飲みたい。


 とコーヒーをすすりながらも腕の中に娘がいなくて少し寂しい気持ち。


 でも一人でいたい。でも子供がいない人生はありえない。でも……。


 こんな矛盾の繰り返しで毎日を暮らしている。



 終

 

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