温かい布団
『私たち三人の杞憂だったな。しっかり、前を向いているじゃないか』
というわけで、あの短い連絡から僕の不安を感じた、上栫さん白子さん素矢子が計画した、僕の内心を探るための宇宙情報体ごっこだったらしい。
ちなみに、脚本は素矢子だそうだ。
「実は僕、上栫さんが消えるのが怖かったんだ。上栫さんがその速やかさで後悔を晴らしてしまったら? って考えてた」
だが、宇宙情報体――に扮する上栫さんの話を聞いて、湧いてきた自分の本音に驚いた。
上栫さんの後悔を晴らしたいと思えたのは、自分でも意外だった。
この気持ちは、無理やりにでも言語化しようとしたからできたものだ。
「だから、みんなのおかげだよ。ありがとう」
こんな機会がなければ、僕はわだかまりを抱えたままで、上栫さんと朗らかに接することはできなかっただろう。
『なら、よかったよ……ただ祷、勘違いしないでほしい』
「何を?」
『あいつの脚本とはいえ、私の本音の部分は、本当だ』
体を失ったことを、後悔している。
『だから祷』
その抑揚のない声を聞いて頭に浮かんだ上栫さんの表情は、あの嗜虐的な笑みだった。
『まずはキスする妄想から、お願いするよ』
「――――」
『あいつとのキスを忘れるくらい、情熱的なのを頼むぞ』
もう少し冷静になった発言すればよかったと後悔しそうになったけど、しそうになっただけだ。
だって、僕もしたいから。
あるかもしれない考える才能を使って、できるだけ鮮明に。
上栫さんの体の大きさ、柔らかさ、温もりを布団の中に仮定して、そして。
顔を。唇を。
「……いくよ」
『う、うん』
年相応の女の子らしい恥じらった声は、確かに隣から聞こえてきた。
恥ずかしさで温度を増す布団の中には、僕以外の温もりが確かにあった。
アンチ時間遡行 木川田三本 @erituub258
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