声劇用台本

@WritingReading

【声劇台本】龍か蛇か

ーーーーーーーーーーーーーーー

龍か蛇か

https://kakuyomu.jp/works/16817330649726558064/episodes/16817330649728271229

Cast

・胤禛(いんしん)/第一皇子/不問:

・玄燁(げんよう)/第二皇子/不問:

・付き人/胤禛いんしんの付き人/不問:

ーーーーーーーーーーーーーーー


付:ご命中でございます


胤:ふぅ…、……っは!(矢を放つ


付:またもやご命中。お見事でございます


胤:…何になる…


付:胤様いんさま…?


胤:矢は確かに的を射た。だが、それが一体何になる…?


付:胤様いんさま


胤:それで民がうるおう訳でも、国が治まる訳でもない。

父上の命により久方ひさかたぶりに弓を手にしたが、やはりその答えは出ぬ


付:父君父君皇帝陛下こうていへいかは、胤様いんさまのご心配をなさっておいでなのでしょう。

大切なお世継よつぎにあらせられますゆえ


胤:それはどうであろうな。

書庫にこもりきりで、武芸ぶげいうとい私がそのように言われるのは、父上の長子ちょうしであるからにすぎぬ


付:そのようなことはございません!

胤様いんさまは学問に明るく、そのお心もお優しくあられます。

長幼ちょうようじょ”をおもんじるわが国において、ご長子ちょうしであられる胤様いんさまは、正統な跡継あとつぎにございます。


胤:…誠に父上がそのように私を跡継ぎと認めておいでなら、皇太子こうたいしの座にも任ずるはずだ…


付:…! へ、陛下は時期を見ておいでなのでしょう。

皇太子の柵封さくほうまつりごとに大きく影響しますゆえ


胤:…いや、慣れない事をしているゆえか、弱音を吐いてしまった。

すまない。さぁ、もう一本矢をくれないか


付:とんでもないことでございます。どうぞこちらを


胤;ふぅー…(ため息)。……っ、はっ!(弓を構えて矢を放つ)


SE:手を叩く音(ぱちぱちと拍手をしながら二人の元へ来る人物)


玄:ご命中めいちゅう!さすがは兄上あにうえ


胤:げんか!長らく見なかったな!達者であったか


玄:はい。兄上こそお元気そうで何よりだ。ここしばらくは、屋敷やしき四書五経ししょごきょう寝食しんしょくを共にしておりましたが…いやはや退屈でなりませぬ


胤:ははは。武術ぶじゅつにかけては右に出る者がないと言われるお前が、書物しょもつにはを上げたか


玄:ありがたきお言葉にはございますが、学問に置いては兄上の聡明さには並ぶものはないと耳にする。国中の学者達でさえ一目いちもく置いているとか


付:…玄様げんさまおそれながら申し上げます。弓術場きゅうじゅつじょうは、ただいま第一皇子だいいちおうじであられる、胤様がご使用されております


胤:よい。かまわぬ。兄弟水入らずだ。なぁ、玄よ


玄:まったく兄上の聖人ぶりには頭が下がる。お邪魔させていただくとしよう


付:失礼いたしました。

…おふたりがこのように仲睦なかむつまじく、ご一緒のお姿を拝見するのは幾年ぶりでしょう。

幼き頃は毎日のように共に遊んでおられたものを…。

物心ついてからは、玄様げんさま第二皇子だいにおうじとしての立場をまえた上で、兄君の胤様いんさまと接しておられますゆえ


玄:かような環境に生を受けたのもまた定めよ。いたかたあるまい…。

さて、ところで、兄上!おお、見事なものだ。られた矢はすべて赤丸に納まっておる


胤:…ああ。確かにな。だが、それが一体何になるのかと自問自答していた所だ


玄:…自問自答ですと?


胤:…ああ。認めよう。

弓術きゅうじゅつの腕前…いや、武芸ぶげいに関しては私よりそなたの方が優れておる。だが私は、第一皇子というだけで王位継承おういけいしょうを期待されておる。ならばどうすべきかとな


玄:……


胤:学びて思わざればすなわち暗し。いくら学んだとて、何もせねば意味もない。

故に、せめて己の信念で動くべきではないかと近頃はよう考えるようになった


玄:……ほぅ。兄上の信念とは…?


胤:国は、人だ。では人はどうあるべきか。

世をおさむるに心得こころえるべき何か。

それはことわりだ。みちだ。

義理ぎりを忘れた時に摩擦まさつが起こる。

忠心ちゅうしんを捨てた時に謀反むほんが起こる。

それすなわち道理どうり

…よってそれを探すべきだと、書物と向き合い続けておる。


玄:…ふ、ふふ…、ふははははははっ!


付:げ、玄様げんさま?いかがなされいましたか?


玄:みちことわり!…なるほどなるほど、いかにも、兄上らしい!


胤:どのような意味だ、玄


玄:よいですか、兄上!

愚鈍ぐどんな私でも知る言葉がある。

衣食いしょく足りて、礼節れいせつを知る!

つまり、兄上の考えはまるで女子供の様に甘いということ…っ!!(空に向かって弓を放つ)


付:ひっ…!空飛ぶ鳥を撃ち落とすなど…!

胤様いんさま、わたくしめの後ろにお隠れ下さい!

あぶのうございます!


胤:…げん、何の振る舞いだ!


玄:兄上は全てをお持ちだ!

そんなおかたには見えない世界もあろう!

ころもがなくこごえる者に書物を渡してもたきぎにしかならぬ。

えているものに道をいたとてあるくことすらままならぬ。

変えるべき家もなく途方に暮れる者にことわりを説いたとて、何を信じて立ち上がるというのか!(胤に向けて弓を引く)


胤:…玄、私に弓を向けながらそのような言葉を放つのは誠にお前なのか…


玄:兄上は私の望むものを全てお持ちだ!

時期じき皇帝こうていも、身分の高い母親も!


胤:何を申しておる!?


付:た、確かに、お二方ふたかたのお母上は別々のおきさきにあられます…。

胤様の母君ははぎみは皇帝の本妻ほんさいでありくらいの高い正室せいしつ

一方、玄様の母君は…公認こうにんとはいえ、おめかけにあたる…側室そくしつにございますれば…


胤:…そうか。玄、そのように考えていたのだな…


玄:…っ!(にらみつける)


胤:…これは皇室の話だ。お前は下がれ。


付:い、いけませぬ!

命に代えて主君しゅくんをお守りするのが私の使命にございりますれば!


胤:…お前の忠心はわかっておるつもりだ。悪いようにはせぬ。

………玄!


玄:はっ!兄上はこんな時まで優雅であられる!

高貴こうきまれのなせるわざなのか…。

忌々いまいましい…。


胤:…玄よ。お主の考えにも気が回らず…。全く、何が兄だ…。

それで、お主はどうしたいというのだ…


玄:くっ!愚問ぐもんだ!

私は兄上がうらやましゅうてたまらぬ!

産まれた時より自然とそなわっていたであろうその全ては

私が長年 がれたほどのものだということすら、おわかりであるまい…!


胤:…そうか、わかった

…では、その矢を放て。


玄:…っ!?


付:胤様いんさま…!?


胤:私の持つものを望むというのならくれてやろう。

私は、皇太子の肩書かたがきもない無冠むかん長子ちょうし。いわばおかざりよ。相応な物など持ち合わせてはいない。

それでもよいのならるもくも好きにするがよい。


玄:くっ…!兄上…!私がられぬとお思いか…!?

それとも嘲笑あざわらっておいでなのか…!


胤:お前を嘲笑ったことなど一度も無い

さぁ、どうした!そのげんの張りつめた弓矢で、私の心の臓を射抜くがよい!龍になれぬまま蛇で終わるやも知らぬこの国の第一皇子、胤禛だいいちおうじいんしん

その命と玉座ぎょくざ継承順けいしょうじゅんくれてやろう!


玄:…っ!!


付:なりませぬ!胤様いんさま玄様げんさま!お止め下さい!

ご、護衛兵はおらぬのか…!


玄:…は、はは…


付:…? げ、玄様げんさま…?


玄:…ほんの…たわむれでございます…。兄上…


胤:…。


玄:醜態しゅうたいさらしてしまい、お恥ずかしい限り…。

本来、忠誠ちゅうせいちかうべき兄上に、このような無礼を働いた罪は万死ばんしあたいします…。

罰をお受けいたしますゆえ、父上にご報告を…。


付:っ!玄様げんさま、お手元てもとの弓を、失礼いたします!

胤様いんさま、すぐに陛下へいかにご報告に参ります!


胤:…待て。…何を報告するというのだ。


付:先ほどのお振舞ふるまいについてです!

目上の者に対する無礼ぶれい、場合によっては謀反むほんともなる大事だいじ

これは臣下しんかとして見過ごせませぬ!


胤:……おおげさだ。これは、ただの兄弟喧嘩…。そうであるな、玄?


玄:…っ!?


付:!? な、何を仰っておいでなのですか!

ひとつたがえれば、お命を落とされていたやもしれぬ事態です!


胤:…私の解釈は間違っておるか、玄…?


玄:……いいえ。兄上のおっしゃる通りに…ございます…


胤:だそうだ。たわいない兄弟喧嘩で父上のお手をわずらわせるでない


付:そ、そんな…!いけませぬ、胤様いんさま!!


胤:ただし、だ。玄。


玄:…はい…


胤:…私への忠誠ちゅうせいが変わらぬ事を証明するために

今ここで三跪九叩頭さんききゅうこうとうれいをしてみせよ


玄:…っ!?


付:…!?さ、三跪九叩頭さんききゅうこうとうれい!?

そのようなことを皇室の方々がなされては、皇族としての威信に傷がつきます!


胤:…非を認めず、謝罪もしない事が皇室の、いや、お前の誇りだというのならそれでも構わぬ。

…夜が深くなってきたな。それでは、私は先に失礼する


玄:……あ、あ、兄上!!


胤:……。


玄:……ひざまずき

一礼いちれい二礼にれい三礼さんれい

胤禛いんしん兄上に忠誠ちゅうせいを誓います…

ホイ一叩頭イーコートゥ再叩頭ツァイコートゥ三叩頭サンコートゥチー


付:……っ!?げ、げん…さ、ま…

…うう、なにゆえ…このような事に…!


胤:…屋敷に帰って休め。……ご苦労であった……


ーーそのままひとりその場でうずくまる玄ーー


玄:くぅぅ……っ、兄上ぇぇぇ!!!

この玄燁げんよう!決してこのままで終わりませぬぞぉぉ!!!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

声劇用台本 @WritingReading

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ