第三章はキーパーソンの説明
「えっと、その、ごめんなさい…
お姉さんの趣味には合わなくて…。」
女の人の顔が怖くて、謝った。
だってもう、取って食べられるんじゃないかって
思ってしまうくらい、睨まれてしまったんだ。
「はぁ。いいわよ、別に。
嘘を言われる方が私は嫌いだし。
だからそんなに怖がらないでくれる?」
どうやら自分は
ビクビクと震えてしまっていたようだ。
「いや、この状況が怖いのかしら。
まあ大丈夫よ。その内慣れるわ。」
「ええと、お姉さん、ここは一体なんなんですか?
お姉さんもここに連れてこられたんですか?」
「……。まず、私はミドルというの。
お姉さんでも構わないけど、
私にもちゃんと名前はあるわ。
そしてここは私の図書館よ。
私が貴方のこと、環を呼んだのよ。」
「えっ、どうして名前を知ってるんですか?
あと、あの高速移動はなんなんですか?
それに私の図書館って一体どういう――」
「あー、あー、黙ってちょうだい。
一気に質問をしないでもらえる?
一つずつ丁寧に、全部答えてあげるから。」
お姉さん――ミドルさんが呼んだのに…。
だなんてこっそり思いながら、しぶしぶ頷いた。
ミドルさんはゆっくりと口を開いた。
「名前を知ってるのと、高速移動は秘密。」
「えっ、秘密って、そんなのあり?」
「少しくらい謎がある方が面白いでしょ?」
ミドルさんは少しだけ微笑んだ。
この人――美人だ。
「そして私の図書館ってのは、そのままの意味よ。
ここの本は、全部私のものなの。」
「ええと、ミドルさんが買った――
訳じゃないですよね、こんなに多いですもん。」
自分はこの謎の図書館の全体を見回した。
本って意外と高かった気がするんだよね。
「そうね、これも秘密にしましょうか。」
「秘密ばっかりなんですね。――あ、
お風呂とかご飯とか服って
一体どうしてるんですか?」
「それ、聞く?」
「すみません、気になっちゃって。」
「女の人にそんなことは
あまり聞くものじゃないわよ。
お風呂に入らなくても私は汚くならないし、
空腹を感じることもないし、
服もずっと綺麗よ。」
結局教えてくれるんだ。
というか魔法みたいだ。だなんて思いつつ、
ミドルさんをじっくり見つめた。
って待って、大事なことを忘れていた。
「自分は家に戻れるんですか?
そもそも、ここは現実世界なんですか?」
「ここは貴方のいる世界ではないわ。
そうね、別世界の図書館としておきましょうか。
そしてこの私の図書館に、
私が貴方を呼び出したの。」
「どうして呼び出したんですか?」
「それはトップシークレットよ。」
またミドルさんは静かに微笑んだ。
やっぱり綺麗な人だと思った。
――まぁそれよりも、
秘密が多くて気になるんだけどね。
「そして貴方の世界には
貴方の意志でいつでも戻れるわ、安心して。」
「ふぅ、それは良かったです。」
自分は胸を撫で下ろす。
自分の勝手で適当な予想だけど
この人も、この図書館も、
危険ではなさそうだと思う。
更に胸のつっかえも取れた。
この図書館は、図書館ということを除けば、
自分にとってすごくいい場所なのかもしれない。
そうなったら、気になるのはここだよね。
「時間とかってどうなっているんですか?」
「現実世界の一時間は、この図書館での三十分よ。
半分の速さで時間は進行していくわ。
そして、貴方がこの図書館にいる間は
貴方は貴方の世界にはいないことになるわ。
――さて、説明はこれくらいでいいかしら。
一気に質問してるけど、覚えられてる?」
「ちょっと……。」
自分は記憶力に特別自信なんてないからね。
「そう、なら後は逐次説明していくわね。
またその時になったら説明してあげる。」
そう言い終えたミドルさんは
机の上の本に目を向けた。
「ねぇ、長い付き合いになる気がするから
良かったら一冊読んでみない?」
「すみません…
小説は読んでいたら眠くなるんです…。」
「でも貴方は本を開いたから
ここに来たんでしょう?」
「それはどうしょうもなく暇だったからです…。」
ミドルさんの目つきは少しずつ鋭くなってきた。
でも、でも!嘘をつくのはいけないじゃないか!
だから自分はありのままを話すんだ!
「はぁ。ここに来たからには、
絶対に本好きにさせてあげる。
本の虫にしてあげる。いいわね、環さん?」
ミドルさんはじっと睨んできた。
「は、はい。よろしくお願いします。」
「ふふっ、何よ。よろしくお願いしますなんて。」
三回目になるけど、
やっぱりミドルさんは綺麗だ。
今日は学校を休んで良かったかもしれない。
自分は辰野のこととか、厄介事は全部忘れて、
ミドルさんに図書館についての説明を求めた。
一応、相手にはある程度応えてあげないとね。
「わかったわ、
この図書館について説明してあげる。」
「よろしくお願いします!」
自分が意気揚々と答えると、
「はい、よろしくお願いします、環さん。」
四回目になるけど、やっぱり素敵だ。
図書館のアウトサイダー 伊砂リオテ @ISKROT
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