ハズレスキルの侯爵家次男坊は、追放されて辺境で村長をします ~ハズレスキルだって集まれば成り上がれる!~
たろいも
追放されて成り上がるまでの短編第1話(完結編)
「お前を辺境へ追放とする」
侯爵家の次男坊である彼は、父である侯爵の執務室で、"追放"を言い渡された。
「ち、父上! なぜ私を!?」 どん!
「いや、↑ソレだから。その無駄に威圧感出してくる↑ソレ」
「スキル"覇王のどん!"のせいですか!」 どん!
「いちいち鬱陶しい……」
「す、すみません……」
「と、とにかく、お前のようなハタ迷惑な"ハズレスキル"持ちを、これ以上侯爵家には置いておけぬ。お前を、領の辺境にあるハズ・レ村の村長に任命する」
「そ、村長……」
「そうだ。せめてもの餞別だ。お共としてハズレメイドを一人付ける」
「は、ハズレメイド?」
侯爵の合図で、入室する黒髪黒目のメイド。
見たところ至って普通。むしろ、容姿も整い、清楚で清潔感のある姿は、どちらかと言えば美女に分類される。
「お供させていただきます。よろしくお願いいたします」
恭しく頭を下げるハズレメイド。
「そのメイドのスキルは"剛力無双"だ。邸内の物品を破壊して回るため、扱いに困っている」
「侯爵様、恥ずかしいですわ」 ドォォン!
「それメイドなのか!?」 どん!
ほほを赤らめ、ビンタで調度品を破壊するメイドと、威圧感マシマシのツッコミを炸裂させる次男坊。侯爵の執務室でスキルが暴走している。
「やめろ、私の執務室が荒野になる」
恥じらっていたハズレメイドはピリッと姿勢を戻し、次男坊へ視線を向ける。
「それと、私、身も心も"男♂"ですので、くれぐれも欲情いたしませんように」
「職業選択がハズレだった!!」 どん!
「あと、その大ゴマで見得を切るヤツ、鬱陶しいのでやめてください」
「いや、大ゴマて……、これ文章だから、コマ割とか無いですから……、いや、はい、努力します」
かくして、辺境へ向けて旅立つ次男坊あらため、ハズ・レ村長(予定)とハズレメイド。
「なんで、ハズレ持ちは、大体いつも"辺境へ追放"になるのでしょうか?」
「ハズレだから、"外れ"に追放、とか?」
「……」
「ハズレだから、"外れ"に追放!」 どん!
「威圧感出して言い直さないでも聞こえています。恥ずかしい発言を聞き流してあげた私の気遣い、無下にしないでほしいですね」
「……」
詮無いやり取りをする二人の前には、立派な箱馬車があった。これも侯爵から温情の餞別として与えられた物である。彼らはこれで辺境へと向かうのだが……。
「馬がいないな」
「はい、ですので、私が引いていきます」
「メイドだよね?」
「これも嗜みです」
「世のメイドさんに謝れ」
街道を快走する箱馬車。
「これはすごい」
前方、街道脇から数匹のモンスターが躍り出た。
「憤ッ!!」
メイドの発する圧で、モンスターが吹き飛ぶ。
「快適なんだけど……、なんだろう、何かが違う……」
「坊ちゃま、前方でモンスターに襲われている人物がいます」
「助けよう!」
「ヒィィィィ!」
二体のゴブリンに迫られ、腰を抜かすように這いずっている男がいる。
「破ァァァァァァッ!!」 バシャッ!
メイドが発した怒声と共に不可視の何かが放出され、ゴブリン二体は血袋のように弾け飛んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」
目の前でスプラッタな惨状を見せられた男は、本日一番の悲鳴を上げた。
「いやぁ、助かりました」
男は金髪碧眼の優男で、服装は清潔感があり仕立ての良い物だが、とても一人で旅をするような風体ではない。
「こんなところで何を?」
「実は、勇者パーティーの一員として旅をしていたのですが」
「おぉ、勇者パーティー!」
「魔王も存在しないのに旅をしている"自称勇者"ですね」
「身もふたもない」
「ハズレスキルだからということで"追放"されてしまいまして……」
「そ、それはそれは……」
「スキル"贈収賄"は不要だと」
「勇者の採用基準が謎かよ!」 どん!
「"金勘定"と"交渉能力"に定評のあるスキルです。村の財政担当として雇ってはいかがですか?」
「確かにそれっぽいけど、それ大丈夫? 明らかに不正経理しそうなんだけど?」
「ええ! お任せください! 粉骨砕身! どのような相手とも手段を択ばず交渉し、必ずや最大限の利益を引き出して見せますよ!」
「贈賄する気満々じゃね?」
新たな仲間を加え、再び街道を爆走する馬車。
その目の前に、フラフラ歩く、土色の髪の少年が一人。
「お退きなさい!!」
「少年相手に無慈悲!?」
メイドが怒声砲を発射する。ゴブリンを血だまりに変えたソレは、しかし、突如出現した強靭な石壁により防がれた。石壁は少々削れたが、いまだ健在である。
「っ!!」
メイドは速度を緩めず、そのまま石壁へと飛び蹴りを加える。
砕けた石壁の向こう側では、少年が右手の魔力を集中し、超高硬度の岩石弾を生成していた。
「ストーンバレット!」
「どらぁぁぁぁぁっ!!」
発射された岩石弾と、メイドの右鉄拳が激突する。 衝突で発生した凄まじい衝撃波は、周囲の木々をなぎ倒す。
「「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」」
箱馬車の中で、ハズ・レ村長(予定)と贈賄男が悲鳴を上げながら転げまわる。
「僕のストーンバレットが完全に防がれた……」
「私の拳に傷を……」
少年は手をかざしたまま、メイドは右拳を振りぬいた姿勢のまま、お互いに静止していた。
メイドの右拳からは一筋の血が流れ落ちたが、シューシューという音と共に、その傷がふさがっていった。
「旦那、あの方はどうしてメイド服を着ていらっしゃるので?」
「え? メイドだから?」
「え?」
ハズ・レ村長(予定)と贈賄男は、箱馬車の中でひっくり返ったまま、顔を見合わせている。
「スキル"土砂魔法"はハズレ魔法だからって、高難易度ダンジョンの中で、パーティーメンバーに置き去りにされまして……」
土色の髪の少年が、ポツポツと身の上を語る。
「そ、それはそれは……、土砂? 土とか石じゃなくて?」
「まぁ、ダンジョンは埋めてきたのですけど」
「埋めれちゃったのかよ」 どん!
「旦那、どこが"ハズレ"なんですかね?」
「知らん!」 どん!
「"土地整備"や"土木・建築"に役立ちそうなスキルです。村の建設担当として雇ってはいかがですか?」
「いや、明らかに"戦力"としても役立ちそうだったよね?」
「僕行き場が無いんです……、なんでもやりますから、お願いします!!」
「あ、うん。よろしく」
「今日はこの村で宿泊しましょう」
昼を過ぎ、夕暮れに差し掛かろうかというタイミングで、メイドが引く馬車は、とある村に到着した。
「ハズ・レ村までは、あとどのくらいかな?」
「そうですね……、私が全力で走れば、あと1時間ほどでしょうか」
「ただの寄り道かよ!」 どん!
「ほぅ、私のご主人様は、メイドたる私にあと1時間の全力を強いると……」
「うっ……」
「休憩も無しに、この先も馬車馬のごとく走り続けろと……」
「うっ……」
「事実、馬車馬ですけどね……」
「ここの温泉を無視し、先に進めと……」
「温泉狙いかよ」 どん!
「このあたりで読者サービスが必要でしょう?」
「え? メイド、男♂だよね?」
「旦那、男の娘も、場合によっては需要ありますよ?」
「……」
温泉宿に向かう一行だが、道端でにらみ合うエルフとドワーフに遭遇。
「坊ちゃまどうぞ」
「え? 私が行くの?」
「他に誰が? このくらいしか役に立たないのですから、四の五の言わずに行ってください」
「実はスキル"辛辣"とか持ってないよね?」
「こ、こんな往来のど真ん中でもめ事は……、とりあえず落ち着きましょう」
渋々ながら、エルフとドワーフの諍いに介入するハズ・レ村長(予定)。
「む? おらぁ、こういうエルフ野郎が大嫌いでな!」
「自分も、貴方のようなドワーフには虫唾が走ります」
聞いてもいないのに、事情を説明してくれる意外と親切なエルフとドワーフは、再びにらみ合った。
二人して同じように説明してくれるあたり、実は息ぴったりなのでは?と思いつつ、ハズ・レ村長(予定)は、二人をなだめて話を聞くことに。
「自分、エルフなのですが、精霊を見ることも、言葉を届けることもできず……。製鉄や鍛冶が得意なのですが、エルフの面汚しとして"精霊の森"から追放されまして……」
「おらぁ、ドワーフなんだが、水と風の精霊に愛されてよぅ、火が扱えねぇんだ。製薬は得意なんだが、鍛冶で役立たずってんで、"火山都市"から追い出されちまってよ……」
これまた、そんなに根掘り葉掘り聞きだしてもいないのに、事細かに事情説明してくれる息ぴったりな二人。
「うん、なんだろ。どちらも追放キャラなんだけど、二人並んでると、お得なセット販売感が半端ないんだけど……」
「"鍛冶師"に"薬師"は、辺境の村には必須ともいえる職業です。雇ってはいかがですか?」
「自分でお役に立てますか!?」
「おらぁ、きれいな水があるところで暮らしたいぜ?」
「あ、うん。なんとかしてみるよ」
かくして、一行はついにハズ・レ村へと到着した。
「旦那! 読者サービスは!? 読者サービスはどうしたんですか!?」
「え? 見たいなら君だけ見てきたらいいんじゃないか?」
「えぇ!? いいんですかい!?」
「私、そんな安い女ではありません」
「そうだね、"女"じゃないしね……」
「そちらの"少年"なら吝かではありませんが」 ポッ
「ひっ!?」 青ざめる土砂魔法の少年
「私が居ないところでやってくれ!」 どん!
「よくぞ、おいでくださいました」
ハズ・レ村にて一行を出迎えた老人。その老人をハズレメイドが紹介する。
「このご老人は現村長です。もうすぐ元村長になりますが」
「辛辣……、私に恨みでも……?」
「なんでこんな辺境に……」
「やっぱり恨まれてた!」 どん!
「ここの村人たちは、皆"ハズレ"なのです」
現村長、もうすく元村長は、ハズ・レ村長(予定)に告げる。
「と、いいますと?」
ハズ・レ村長(予定)の問いかけに、いつの間にか集まっていた村人たちが、次々と自分のスキルを告げていく。
「ワシのスキルは"参謀"ですのじゃ」
「俺は"一騎当千"」
「私は"衛生兵"」
「僕は"戦いの
「自分は"風林火山"」
「オラは──」
「アレ? ここは騎士団か何かかな?」
「"農耕"や"飼育"のスキル持ちがいません。確かに村人としては"ハズレ"かと」
「いくら何でも、これだけの能力者が"ハズレ"扱いで集まってるのはおかしいって」
「旦那。"追放もの"ってのは、こういうもんですよ」
「本当のハズレは坊ちゃまだけですね」
「うるさい!」 どん!
この後、ハズ・レ村の村人たちは、新たに"ハズ・レ傭兵団"として各地で活躍し、"ハズ・レ傭兵王国"を樹立した。
ハズ・レ村長(暫定)は、傭兵王国の初代国王、通称"覇王"として語り継がれた。
「第一部完!!」 どん!
「いや、続きませんよ」
ハズレスキルの侯爵家次男坊は、追放されて辺境で村長をします ~ハズレスキルだって集まれば成り上がれる!~ たろいも @dicen
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