第35話 指輪

その後、吉野は京と協力していたということもあり、後から来た警察に逮捕される形となった。残りの俺たちは保護、ただ一人、笹山は何やら警察官と話していた。何を話しているのかは全く聞こえない。

「これで、終わったんだな」

 俺がそう呟くと横から奈津菜がジトッとした目で俺の顔を覗き込んできた。

「何だよ」

「いや、これから始まっていくんでしょって思っただけ」

「……始まりか……そうかもしれない」

 これまで、ずっと俺は犯罪者の息子として、罪がある両親の息子として生きていた。

 でも、この二日間で分かった。人間ってのはどこまでも残酷になれるって。そしてそこに誰の子どもかどうかなんてことは全く関係ないってことに。

「そうだな……俺の人生はこれからだ」

 なんとなくそう言った言葉に奈津菜は驚いた目で見て、そしてにっこりと笑っていた。

 事件は間違いなくこれで終わったんだ。そう実感した。




 数日後、俺はあのホームレスたちがいた公園のベンチに座っていた。

 隣のベンチには笹山が座っている。

「どうやら、吉野が色々と個人情報を京に渡していたらしい。わしのスマホにメッセージを入れたのもその個人情報の中に混じっていたらしい。それを京が使ってわしのスマホに直接メッセージを送っていたんだとさ」

「そうですか」

「そちらは大丈夫なのかい?」

 正直、何が大丈夫なのか分からない。だけど思い出したことがある。

「あの時、俺が母親に抵抗した時。父親が庇ってくれたんです。母親の頭を原型が留まらないほど殴って殴った証拠を消してくれたんですよ。その後、自殺をした。俺は結局、誰かに助けられてばかりだ。今回の時も、康仁さん、桃子、そして笹山さんに奈津菜、俺だけだったらもっと酷いことになっていた。いや、解決できなかったと思う。だから、ありがとうございます」

 俺がそう言うと笹山は、ふむ、と気が抜けたような返事をして無精ひげを撫でる。

「そうそう、これは彼女からの遺品でね、何か君に渡して欲しいと言うことだったので返すよ」

「遺品?」 

 そう言われると、まるで結婚指輪が入っているような小さな箱を渡された。

「これは……」

「まあ、中に何が入っているかは分からないねぇ、さて、そろそろおじさんはどこかに生きますかね」

 そう言って笹山は立ち上がった。そして振り向きざまに手を振ってここから去って行った。

「何が入っているんだ」

 箱の中を開けると、そこには、やっぱり指輪が入っていた。

 だが、それは子どもが作るような下手くそな造りをした、草で作られた指輪だった。



「なんだよこれ……まるで幼稚園生が……」

 そこで思い出した。

 幼少期、俺と桃子が遊んでいる時、「じゃあさ、約束しようよ。この先、何があってもくじけないって」と桃子が言って俺に今あるような草の指輪を渡したことを。

 結婚指輪みたいだ、とか言ったら桃子は恥ずかしそうに頬を赤らめて慌てていた。

 今、思えばあれはそういう意味だったんだね。

「ありがとう、桃子」

 俺は草の指輪を抱きしめた。抱きしめる瞬間、陽光でダイヤモンドよりも輝いているように見えた。多分、それは本物だ。


 

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俺の家が爆破された件 @ugounosyuu

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