第34話 真相
「……は?」
何のことを言っているんだ? 俺の親は、たしか……
「お母さんが襲ってきたんだよね。君が言うことを聞かなかったから、あんたなんか家の子じゃない、て言われてさ」
「お母さんに……襲われた?」
ズキン
「う!?」
なんだ!? 頭が……痛い!!
「写鳴!!」
奈津菜が駆け寄ってくるのが聞こえる。だが俺は今、頭が痛くて返事が出来ない。
母親……母親……
あんた……何で言うことが聞けないの!?
ただでさえ生まなければ良かったのに!!
あんたがいなくなれば……
「ぐ……うぅ……」
なんだ……何か母親の言葉が頭に直接響いてくる。
「君のお母さんは君を生んだことを後悔していた。君に対して不満も感じていた。どうしてこの子にこんな申し訳なさそうな気持ちにならないといけないんだろうかとかそんなことも考えていた。全部、君のお母さんが言っていたことだよ」
くそ……なんだ……この記憶は……母親が包丁を持って襲ってくる。それを俺はバットで殴って……。
「殴ったんだ……俺は……母親を殴ったんだ」
思い出した。言い合いの末に包丁を持って襲ってきた母親を俺はバットで殴り殺したんだ。
あの時は母親が人間じゃない何かに見えて、鬼か何かだと思って散々なぐりつけたんだ。
それを京も見ていた。
だって京を家に入れた時に母親が怒ったから。家に誰も入れるなって言ったのにどうしてそれを守ることが出来なかったのって。そんなことで殺されそうになったんだ。そんな下らない理由で殺されそうになったんだ。それで俺はあんなことを……。
「本当に驚いたよ。まさか君が何の躊躇もなく自分の母親を殺すなんてさ。やっぱり犯罪者の子は犯罪者なんだってことを理解したよ」
「あんたねぇ!!」
奈津菜が激昂しそうになったが、俺はそれを手で止めた。
「良い……俺が母親を殺したのは事実なんだから」
「でも……」
「良いんだ……俺は……結局は、殺人鬼と変わらない」
「違う……」
「え?」
「アンタは違う!!」
見ると奈津菜はボロボロ大粒の涙を零して泣いていた。
「違うって言ったって俺は母親を……」
「違う。アタシが違うって言ったら違うの!!」
「なんだよそれ……めちゃくちゃじゃねえか」
「胸を張って生きるんでしょ!!」
「!?」
『胸張って……いき……て……やくそ……く』
そうか、そう言えば言われていたな……さっき桃子の奴に……俺はダメだな……相変わらずすぐ忘れてしまう。
奈津菜の手を取り立ち上がる。
「写鳴……」
おいおい、そんなに心配そうな顔しないでくれよ、俺はもう大丈夫だから。
「ああ、京、続きを話して良いぜ」
俺お顔が気にくわないのか、京は睨むような顔をして俺を見ている。
「もう一つの事実。これはお前というより僕の事実だ」
「あ? お前の事実? どういうことだ」
「聞けば分かるよ」
そう言って京は話を続けた。
「僕は糸田家と血がつながっていない」
「……何だって?」
「僕はあの家族と血がつながっていないってことさ。僕は孤児院から引き取られた子だ。元の親がいる。そしてその親は……」
まさか……いや……そんなはずは……。
「君の親が殺した家族だよ。僕は君の家族が殺した母親の息子だったんだ」
「嘘……だろ……」
俺の家族は計画的に殺人をした。父親が遊びに遊びまくって子どもを相手の母親に授からせてしまい、養育費やら莫大な金を要求され続けていた。それに耐えきれなくなり起こしたのだ。
だが、その家族の息子が目の前にいる京だとは思わなかった。
「驚いたかい? 多分、君の中では今、どうして俺と友だちになったんだ、とか思ってんだろうな。うん、正直に言うと初めは君には同情していたんだ」
「同情?」
「ああ、立場は違えど自分が大変な目に遭っている者としては同じだったからね」
どういうことだ? 俺の家族のように迫害を受けたということか? 答よえはすぐに言ってくれた。
「ああ、僕はデキ婚のシングルマザー、男をたぶらかして騙した女の息子として嫌われていたんだ。世間から。分かるかい? ここら辺は僕と君は同じなんだよ」
ああ、そうだな。俺もあの嫌われ者の日々は今でも思い浮かべたくない。
「だけど、君は違ったね。君は本当に狂っていた。いや、君の家族も君も、どっちも狂っていたんだ。そういう意味で言ったんだ。やっぱり犯罪者の息子だって」
ギリッと奈津菜が歯を食いしばるのが聞こえた。
「そうか……じゃあ、俺が君が引き取られた糸田家に入るなんてことになったら拒否をしたんだろう?」
すると、小馬鹿にするように京は鼻で笑った。
「当たり前だろ? でも、あの家族は引き取りやがった。しかも挙げ句の果てには少しは写鳴を見習うべき所もある、だってよ。はぁ!? ふっざけんな!! こんなカスを見習うべき所なんて何も無い!!」
「まさか……だから殺したのか!? 糸田さんたちを!!」
「ああそうさ。俺を理解できない奴は死ねば良い。あいつら、俺と写鳴のテストの点数を比べやがって。俺が何一つ、こんなカスに劣る所なんてないのに、見習えなんて言うから……」
ふざけるな、そんなことであの善良な親は殺されたと言うのか。そんな下らない理由で。
「なんだ? その顔は」
俺の感情が表に出ていたのか、京は不満そうな顔をしている。
「ふざけんな、お前は性根が腐ってやがる。こんな下らないことで殺すなんて本当の殺人鬼はお前だ。お前は犯罪者そのものだ」
「お前がそれを言うのか!!」
京は激昂する。ふざけんな、激昂したいのはこっちの方だ。
「もういいや、このモニターに映っている所の爆弾を発動させる」
「なっ……!!」
そうだ、何を勘違いしていたんだ。こいつは今、ここにいる訳じゃない。
だから、全く追い詰めたわけじゃない。京が有利な状況にいることには変わらない。
「ほら、写鳴ぅ、お前のせいでまた人が大量に死んじまうなぁ!!」
「やめろ!!!!!」
大きく高笑いする京に対して俺はそうするしか出来ない。すると京はなにやらスイッチが埋め込まれている機械を持ってきて目の前で押そうとする。
「まってくれ、やめろ!! やめてくれ!!」
「そう言われて止める馬鹿がどこにいるんだよぉ!!」
京は容赦なくスイッチを押す。
だが、何も起こらない。
「は? おい、どういうことだ。何故だ。何故爆発しない!!」
京は何回もスイッチを押すも全く爆発しない。
「ま、警察も馬鹿じゃないって所だねえ」
俺たちは一斉に笹山の方を見る。
「な、なんでここに爆弾が仕掛けられているって分かったんだ!?」
「う~ん、警察の後輩にね~すこ~し前に電話をかけていたんだよぉ。まあ、わしからの電話で何も応答がなかったらそれはそのまま聞いていろって合図だったんだよねぇ」
「だが、それだけで分かるものか!!」
そうだ、それだけでなんで分かったんだ? 爆弾がモニターに映っているドーラにあるってことが。
「あぁ、それは、君が言ってくれたんだよ? 写鳴くん」
「え? ……あ」
そうか、俺は確かに場所を言っていた。
新しくできたドーラだと確かに言っていた。
「そう、だからこの場所を救ってくれたのは写鳴くん、君なんだよ? 誇りに思うと良いねぇ」
「くそ、だが……な、なんだお前らは!?」
京がここから逃げだそうとしたが、その時、何かハプニングが起こったようだ。
京はいかつい顔をした男たちに体を押さえつけられていた。
「離せ!!! なんだお前らは!?」
京が一生懸命、逃れようとしても全く離れることがない。こいつらはヤクザ?
奈津菜の方を見ると、奈津菜はニッコリと笑っている。
「今時のヤクザってのは声聞いただけでどこにいるか分かっているようなもんなのよ。スマホを回収とかしなかったのが仇となったわね」
笹山と同じ手法を使って、京の声で逆探知したってことか!? 最近のヤクザ怖いな!!
「くそ、クソオオオオ!!!」
京の叫び声が空しくこだましていた。
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