第33話 告白
そのまま階段を上がっていく。
背中に妙な視線を感じたので振り返ると奈津菜が少し悲しそうな目で見ていた。
「どうした?」
俺が声をかけると「なんでもない」と言って奈津菜はそっぽを向く。
変な奴だと思っていると清はもじもじと震えていた。
「な、なあ、この上には何があるんだ? さっきの女みたいに入ったら即死とかそんな風には」
「ちょっとあんた、うるさい」
清の言葉を奈津菜はぶった切る。清は、ひ、と怯えて身を引いた。
「う~ん、何があるか分からないね~」
笹山の言う通りこの先は何があるか分からない。
しかし、とうとう上についてしまう。もう後悔することも許さなかった。
上に上がると、そこは何も見えない真っ黒な空間だった。
「なんだ……ここ……」
ブーブーブーブー
その時、スマホが鳴り始めた。見るとあるメッセージが書かれてあった。
『おめでとう、とうとうここまで来ることができたね。ステージ1 ホームレスの襲撃 ステージ2 投票ゲーム どうだったかな? 人を殺した感覚。そろそろ気付いてきたんじゃ無いかな。自分が何者なのか』
「こいつ……」
思わずスマホを握る手が強くなってしまう。メッセージはまだ続いている。
『ここらでそろそろ最終ステージにしようか』
そのメッセージを読んだ時だった。
ブンッ
何かが映るような音がした。
前を見ると、そこには大型スーパーマーケットのモニター画面が映ってた。
「たしか、ドーラだったか? 新しくできた」
何が起こっているのかわからなかったが、俺はメッセージの続きを見る。
『最終ステージは簡単だよ。これまでの事件の犯人を判明させることだ。君の家の爆破、ホームレスにビラを配った犯人、そして廃ビルに閉じ込めた犯人、それを当てることだよ。君が当てるんだ』
「犯人を……当てる……?」
俺は後ろにいる全員を見渡す。
「どうしたの? 写鳴」
奈津菜が尋ねてくる。
「ああ、今からこれまでの事件の犯人を当てろって書かれている」
「それって今までの?」
奈津菜は隣にいる奴らの顔を見ながら言う。
「ひっ、お、俺じゃねえよ?」
清は口の前で手をふりながら言う。
他の二人は、吉野はずっと俯いている。
「おぉ~、わしだと思うかい~?」
笹山は相変わらず飄々とした態度を取っている。
でも、間違い無く犯人はいるのだ。間違い無く。しかし、そのまま確かめなければいけないことがある。
「吉野君、一つ聞きたいことがある」
吉野は顔を上げて笹山を見る。その目は出会った時のような生命力に溢れておらず、意気消沈しているような目をしている。
「ああ、なんだ」
「俺に盗聴器をつけたのは父親の指示だって言ったねぇ」
「あ、ああ、そうだ」
「う~ん、あれ、嘘だろ」
笹山がそう言うと吉野は慌てふためき始めた。
「な、何を言ってんだよ。あんたもさっき納得していただろうが」
「うん、それなんだけどねぇ。よくよく考えたらおかしいんだよ。警察にもプライバシーの侵害を犯さない義務がある」
「だが、新聞で追ったって俺が言っただろ?」
「新聞、それだけかい?」
「なに?」
「本当に新聞以外の情報源は無かったのかい?」
「それは……」
吉野が言葉につまると笹山が説明し始めた。
「いやねぇ、わしも未だにその事件を追っているんだけどねぇ、みんな餓鬼道 写鳴っていう名前はピンとくるんだけど、糸田って名前にはピンと来なくてねえ。それなのにどうやって調べたんだい?」
「それは……」
再び吉野は言葉に詰まる。
「うんうん、吉野君。そういう時は嘘でも親戚とかを洗いざらい調べてたどりついた、とかいわなきゃねぇ」
それを聞き、吉野はハッとして笹山の顔を見る。笹山はニヤニヤ笑っている。
「お前、カマをかけたのか」
「うん、その返事で完全に嘘だと分かったねぇ」
「くそっ」
完全に笹山に言い負かされて吉野は悔しそうにしている。
「どうする? 写鳴くん、多分もう犯人が決まったんじゃないか?」
吉野は俺の方を見る。その顔は皺が寄り必死の形相になっている。だけど――
「笹山さん、おそらく吉野は犯人じゃありません」
吉野は目をまんまるにして俺の方を向く。
「犯人じゃない? どういうことだい? この子以外に犯人候補がいるのかねぇ、いるとしたら、そこにいる清くらいのもんだねぇ」
清は、お、俺じゃ無い、と言うように首を横に振っている。
「他に、犯人の候補はいます。実は……」
俺の言葉に全員が驚愕の表情をして俺の方を見る。
「他に犯人候補がいるってどういうことなの?」
奈津菜が冷静に俺に問う。
「ああ、吉野は真犯人に脅されて俺に近付いてきたんだ。そしてその真犯人は吉野のお父さんじゃない。だけど、俺の苗字を糸田と餓鬼道、二つとも知っている人物だ。そんな人物は絞られていく」
すぐに笹山の方を見ると、笹山は「おやぁ? どうやらわしが疑われている感じかい?」と両手を小さく挙げる。だが、俺はかぶりを振った。
「確かに笹山さんは怪しいです、でも、それよりも一人、俺の二つの苗字を知り、そしてこの状況を作り出せる人物がいます」
俺はその人物がいるであろう方向に顔を向けた。
「そうだろ、きょう。糸田 京。お前が引き起こしたんだろ、今回の事件を」
「糸田……京?」
誰? と言うように奈津菜は周りを見ている。
誰もが分からないと言うように首をすくめたり、手を振ったりしている。
「糸田……京? そりゃあ誰なんだい?」
そうか、笹山は知らないか、俺には糸田家で一人、血のつながらない弟がいた。それが京だ。
『きょうはどうなの?』
『ああ、遅くなるみたい』
昨日は、幸子さんから帰りが遅いと聞いていたんだが、もしかしたらと思った。
「なあ、そうなんだろ。京。お前がこの事件を引き起こしたんだろ!?」
しばらく沈黙が流れる。誰も反応しないかと思った時だった。
「クックック」
感情を押し殺すような笑い声が聞こえたかと思うと一気に高笑いに変わった。
すると、モニターがブンッと鳴ったかと思うと、そこに端正に整えられた顔の男子が現れた。
「良く分かったね、写鳴、いや、今は兄さんと答えた方が良いかな?」
「兄さん……か……元々は一緒に遊んでいた子どもなのにな」
「ああ、そうだね。僕たちは元はただの友だちだったね」
そうだ、京は俺がまだ家族が自殺めいたことをしなかった時、近所で俺と仲良くしてくれた奴だ。でもいつしか遊ばなくなり、糸田家に俺が引き取られた時はもう遊ぶような仲ではなかった。というより京の方から離れていったような気がする。いや、今はそんなことはどうでもいい。
「何でこんなことをしたんだ。京。俺を殺すように仕向けて何がしたかったんだ!! 吉野をけしかけたのもお前だろう!?」
すると、京は「ああ、なんだ。そんなことか」と興味無さそうな声を出して答える。
「偶然だよ、そこにいる吉野が万引きしたのを見たから、それを脅したら簡単に引き受けてくれたよ」
「万引き……」
そんなことをしていたのかと吉野を見ると、吉野は申し訳なさそうに頭を下げていた。
「そうそいつ、本当に馬鹿だったよ。たった万引き一つで人生終わったみたいな顔してさ。そんなゴミの掃除をするのはすこぶる楽しかったよ」
「あんた……ゲスね」
奈津菜は京を睨み付けるも京は全く意に介さない。
「うん? そんなことを言われても何も響かないなぁ。それよりさ、話の続きだったんじゃないの? どうして僕がこんなことをしたのかっていうさ」
京は見下すように顔を持ち上げてこちらを見る。その顔を見て癇に障ったのか眉間に皺を深くしてますます険しい顔をした。
「ああ、そうだな。改めて聞くこう。どうしてそんなことをしたんだ」
糸田家、康仁、そして桃子を思い出す。
「四人も死んで、お前は何がしたかったんだ。京」
すると京は俺を睨み付けた。
「まるで、僕のせいで死んだと言っているみたいじゃないか、本当は、君のせいなのに」
「なに? それは、どういう意味だ!!」
すると京は手でピースを作り「これから二つ君の知らない事実を言おう。君が知るべき知らないことを二つ言おう」と言った。
「二つ? そんなにあるのか?」
そういうと京は答えた。
「ああ、そうだ。君は自分のことを何も知らない。だから引き起こす必要がある。君の記憶を」
「俺の記憶?」
何だ、何の話だ。分からない。何も分からない。何を言おうとしているんだ京は。
すると京は口を開いてこう言った。
「君のお母さん。本当は君が殺したんだよね」
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