あの頃...
中学2年、将来に漠然とした希望と気の合う友達、部活全力を尽くせる毎日の昼休みのサッカーに俺はこの上ない幸せを感じていた。そんな俺は小学校の頃から共に過ごした女友達を異性として見ることは難しいと思っていた。周りの男友達はいつも誰が可愛い、デートに行きたいと話していて、大人だなと感じていた。
「なぁ、晋平?本当に女子に興味ないの?男子中学生としてどうなの?」
隣でこんなことを言うのは同じ部活で、いつも一緒にいる智也だ、智也は目が大きくて鼻筋がシュッとしている。口は少し歯が出ていて、下唇が出ているが、笑うとクシャッとなる笑顔や持ち前の人懐こさから女子にモテる。その分智也自身も女子に対しての興味はすごくあるようで、部活以外ほとんどの時間で誰が可愛いかなんて話をしている。
「興味ないよ。女子と遊んで楽しいのかよ。」
モテない思春期男子の得意文句だ。
「晋平は性格良いし、彼女くらい作れると思うけどな〜」
「俺は今昼休みのサッカーが世界の全てなんだよ。」
「はーぁ。つまんねーやつ。ダブルデートしたいんだよ俺は!」
こんな具合で智也が女子の話をする、俺がそれをかわし続ける。このやり取りがなんだか心地よかったし、なにより楽しかった。
そして、当時の俺は本当に昼休みのサッカーが世界の全てだった。隣のクラスや3年生のクラスと本気でサッカーをする昼休みの20分が全力で生きてる気持ちにさせてくれた。
その日は本格的に寒くなり始め、給食の音楽もクリスマスソングや冬の曲が流れ始める11月の中旬だった。給食当番だった俺はクラスで残ったスープを給食室に運んでいたが、その途中でひっくり返してしまい、掃除をしていた。智也やいつもサッカーをする友達は「晋平もはやく来いよ!今日3年の先輩達と試合だぞ!」とだけ言い残し、さっさと外に出て行ってしまった。
「そんなに言うなら手伝ってくれよ。」
少し薄情だと思ったのと、自分がもしあっち側なら絶対に手伝わないなという思いが交錯し、俺も薄情なのかもしれないなどと考えながら掃除を済ませて、給食室にスープの入れ物を返す。時計を見ると昼休みの時間は残り5分で、今から外に出てもほとんどサッカーはできないし、寒さにやられるだけだと思った俺はなぜか、図書室に向かった。昼休みに図書室なんて行ったことも行きたいとも思っていなかったが、図書室だけは空調が完備されていて、この日も暖かいだろうと思い向かった。図書室の扉を開けると温かい空気と少し埃の匂いがしたが、嫌いじゃなかった。本を読む習慣はなかったからどんな本を選べばいいのか分からず、適当に周りを見渡す。すると数人の友達と大人しく楽しそうに話す女の子に目が止まった。その女の子達の横には花瓶に入った綺麗な花があった。その花と重なる。ただ友達と話しているだけなのに、埃の匂いが少し漂う図書館の中で、花瓶の中に咲く綺麗な花とその女の子は重なった。目が離せない。いや、正確には何度目を逸らしてもその子のことを見てしまう。そうこうしてるうちに昼休み終了の鐘がなる。俺はここで何もできなければその子と関わりなんて持てないと感じたが、話しかけられるわけもなく、ネームプレートに書かれた「相沢」という文字だけを見て絶対に忘れないように自分の教室に戻る。
「おい晋平!なんでこなかったんだよ〜負けちまったじゃねーかよ!」
「あぁ、、時間なくて。」
「え?どうかしたのかよ?なんか?ん?なんもねーか」
「ん?あぁ、なんもないよ。」
あの子のことが頭から離れない。願わくば今すぐ相沢という苗字の女の子をこの学校中から見つけ出したいだなんてそんなしょうもないことを考え、午後の授業を受け、部活をした後の智也との帰り道で、
「なぁ相沢って子、知ってる?」
「ん?なにいきなり?あいざわ〜?何組?」
「いや、何組かまでは知らない。」
「おいおい俺は探偵かよ?苗字だけでわかるかよ!」
「だよな〜実は今日図書室でその子のことを見て、、。そのさ、あのなんてゆうか考えちゃうんだよ、ね。」
「え、それって、、一目惚れしてんじゃん!やば!誰だよあいざわって!」
「だから分かんないから智也に聞いたんだろ。」
「あいざわ〜?んーーもしかして1組の相沢美奈かな?俺らの学年で相沢って苗字のやつそいつしかいなくね?」
「相沢、美奈?小学校おなじだっけ?」
「いや、小学校は別。隣の小学校から来た子だよ」
「お前やっぱ詳しいな。」
「まーな!名探偵なもんで!」
「はいはい、さすがだよ。」
その次の日の朝、俺は智也に無理やり1組に連れてかれ、相沢美奈が俺の一目惚れの相手なのかを確かめさせられた。だが、他のクラスの男子が「おいあの子だよな!?晋平!」だなんて大声で言うもんだから1組の人達は騒然としていた。俺は恥ずかしさとあの子にこんな姿を見られたかもという羞恥心からすぐさま自分の教室に戻る。
もう終わりだ、、。変な人って認定された。
俺の初恋。初一目惚れ。さようなら。
その日は昼休みのサッカーをする気にはなれなかった。智也達には適当な嘘をついて教室に残った。ほとんどの人が教室には残らないのでガランとしている。ここにいても何もないだろうから図書室に向かった。扉を開けるとその日は数人の友達はいなく、あの子、いや、相沢美奈が1人でいた。真っ直ぐ俺に視線を向け、俺も視線を真っ直ぐ向けていた。少しずつ近づき、近くの椅子に腰掛ける。まじまじと見てもとても可愛らしい。背は大体150センチ中盤で、白い肌に思春期特有の赤ニキビが少しだけあり、奥二重の目と形は綺麗だが決して高くはない鼻、薄い唇に顔はとても小さく、髪は肩まで伸ばし、後ろで結んでいる。なによりその雰囲気はまるで花のようで、寒くなり始め木々も葉を落とすこの時期にどこか弱々しいけど咲く花のようだった。
「いつもここに来てるの?」
勇気を振り絞って話しかけた。
「、、、。」
返答は無いし、どこか頬が赤らんでいるように見えた。
「昨日もここにいたよね?」
「はい。」
小さく返事が返ってくる。
「俺は山本晋平。2年3組。部活はサッカー部。」
「あ、はい知ってます。」
「え?」
「その、あのえっと、いつも昼休みサッカーしてるの見てました。」
「あーたしかにここからならグラウンドよく見えるもんね。でも、なんで俺のこと?」
「いや、それは、、。」
「あ、いいんだ実は昨日君を見てその、。」
俺はなにを言いかけたんだ。一目惚れしたとでも言うつもりなのか?共通性が無く、話題に困ったせいでこんな突飛なことを言いかけてしまう自分に驚いた。
「えっとその、もし良かったら明日もまたここに来るから、また話そうよ。相沢さんて呼んでいい?」
「え、あ、はい、わかりました。私も山元くんて呼びますね。」
「うん。同じ2年だしタメ口でいいよ。おっけーまた明日ね。」
それから次の日、そしてその後は週に1度図書室で相沢さんと話をした。冬休みになる1週間前に思い切って地元の図書館で一緒に勉強をしようと誘うと、「行きたい。」と返事が来たので、その週の土曜日に部活の午前練が終わった後の14時から図書館で勉強会をすることになった。
あの頃の君が好きだった @messissi
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