あの頃の君が好きだった

@messissi

再開

 大学3年生の冬、地方から就活インターンのために東京に出てきた。大学生活、サークルもバイトもしないでただ無気力に過ごしてきた俺にとっては、東京という街はひどく明るく見えた。肝心のインターンでは周りの就活生や上司の顔を伺うばかりで全くうまくいかなかった。東京という街は俺には合わない。その決断をするには致し方ない1日となった。せっかく東京に出てきたのだし、なにか記念になるものを食べたいと思い、駅の喫煙所で近くの美味しいご飯屋さんを携帯で探していると

「山本?だよね?」

自分の名前を呼ばれているのだと気づくのに数秒かかった。声の方向に目を向けると、根本から先までブリーチのかかった金髪に厚化粧、地方の学生では見たことのない高そうな服を着たキンモクセイの匂いを纏う女性が立っていた。それが初恋の相手であり、忘れられない相手の美奈であると気づいた時には向こうは話し始めていた。

「山本じゃん!何してんのこんなところで!大学東京なんだっけ?」

「違うよ、今日はインターンで東京に来ただけ。大学は栃木だよ。」

「栃木なんだ!わざわざ大変だね〜。山本、成人式出てなかったら中学ぶり?まじなついね!」

「そっかそしたら6年ぶり?くらいになるのか。美奈はなにしてたの?」

「私は予定あったんだけど、キャンセルされちゃってさ〜最低だよね?山元時間あるでしょ?ご飯行こうよ!」

久しぶりに女性と話した。自然と緊張はしなかったし、忘れられなかった美奈とこんな再会の仕方をして、ご飯に誘われてる。東京に来た意味はこれだったのかもしれない。そう強く感じた瞬間だった。俺は快く了解し、美奈のおすすめのお店にご飯を食べに行くことになった。

「ここインスタでめっちゃバズっててさー行きたかったんだよね!」

美奈のおすすめで入ったお店はいわゆる映えるお店で、店内は明るい装飾と流行りの音楽がかけられていて、お店にいるお客さんも地方では見ないような人達ばかりだった。

「見て!めっちゃ映えるでしょ!まじ綺麗!」

「すごいね、こんな料理はじめて見たよ。食べていい?」

「いや、待って?写真撮るから」

そう言うと美奈は写真を撮っては、「違う」と言って何度も撮り直していた。ようやく写真の時間が終わり、食べ始めたのが美奈は半分も食べないで、お腹いっぱいになったと言いトイレに行ってしまった。俺もお腹が空いていることもあったし、量が少なかったので、美奈が席に戻る頃には食べ終わっていた。

「じゃあそろそろ行こっか?」

「わかった。3,000円か、1人1,500円だね。」

「え?払ってくれてないの?」

嘲笑するかのような美奈の顔に俺は驚きを隠せなかった。

「普通トイレ行ってる間に払っとくでしょ〜山元経験少ないでしょ?」

「そうなんだ。ごめんごめん払っとくよ」

下手なことを言ってまたあの顔をされたくなかった俺はレジで3,000円を出して、美奈とお店を出た。

「てか、まじ久しぶりだね〜!なんかゆっくり話したい気分!」

突然の一言に俺は美奈に対する懐かしさから反射で「公園行く?」と言った。

「いや〜公園じゃなくてもっと綺麗なところがいいな〜例えばさほら!」

美奈の指差した先にはいかにも高そうなバーがあった。

「いや、俺酒飲めないし、そんなお金も持ってないからちょっと無理かな。話したいならあそこじゃなくても良くない?」

「そっかーじゃあいっか!私予定あるからもう帰るね!ご飯ご馳走さま!」

そう言って美奈は駅の方に歩いて行った。


なんだか、心に引っかかる。

忘れられない人と再開し、ご飯に行った。けど、話した内容といえば、自分にお金を使ってくれる年上の男性から買ってもらったというブランドもののカバンやアクセサリー、化粧品の自慢話。その年上の男性が社長をやっていてお金をたくさん持っていると言う話。今後絶対注目されそうな俳優にバーでナンパされ、その後飲み友達になったという話など、俺が聞きたい話したい話は何もできなかった。


 美奈と俺が付き合っていたのは中学3年生の時だけだ。あの頃の俺は友達も多く、勉強も運動もできたのでクラスの中心にいた。そんな俺はクラスの端っこいた美奈に恋をした。

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