同じ穴の狢

「せ、正義のロイデア?」

「そうだ、しかも偶然ではなく意図的に吊り上げている。

 即ち、あの青年は形はどうであれが強い人間ということだ」


 ぐるんと椅子を回転させて、ラプラスの悪魔は椅子から離れ哲也てつや達の方に歩いてきたかと思えば、瞬月しづきの横にポスッと座ると、空いている正面をちらっと見てから哲也てつやの方を見る。


「立っていても疲れるだろう?

 座るといい。

 はかり隊員、お茶をお願いしてもいいかな?」

「へいへい、参謀さんの仰せのままに」


 瞬月しづきはそう言うと、ポッケに手を入れたままキッチンの方へと歩いていく。


「お言葉に甘えて座るか」

「え、あ、うん」


 スタスタと何事もないように歩いていくカゲに付いていき、椅子に2人で腰掛ける。

 ラプラスの悪魔からすれば、広々と使えばいいものを端に寄って座っている様に見えているだろうに、彼女は何も言わずの方を見据える。


「何処かの誰かが正義のロイデアと契約したこと、その誰かに閑古鳥カッコウ組が接近した事は予測として出た。

 が、あくまでもわえの能力は『未来予測』。

 過去の因果の連なる先にある未来を計算しているだけに過ぎない故に、帯雷体たいらいてい関係は詳細までは詰めきれん」


 お茶を3つお盆に乗せた瞬月しづきは、湯呑を各自の前に置いた後、ポッケからスマホを取り出すと何処かに電話をかけ、そして真ん中の机へとコトリと置いた。

 液晶では数値が刻まれており、隊員グループと書かれた名前からここに不在の隊員職員が各自のスマホで此処から先の話を聞くのかと、哲也てつやは目線を上げながら目をパチパチとした。


「ロイデアも帯雷体たいらいていも、ある程度の物理法則を突破出来る。

 それは、こいつも同様だが…何度も言っているがロイデアはエネルギー体だ。

 そのエネルギー体を常に体に纏っている、そしてエネルギーは常に未来を不安定にさせる」

「早い話、未来予測の精密さがガクッと下がるという話だ。

 正直、これはどうしょうもない…アツっ」


 お茶を飲もうとして湯呑を触ったが、あまりの熱さに手を引っ込めたラプラスの悪魔は、まるでカゲの話している内容が聞こえているかのようにカゲの注釈に付け足して説明をする。

 哲也てつやの頭は、その歪さに処理落ちをし出し、頭痛がする気がした。

 見た目相応の幼い少女に見えるが、その言動の所々にカゲと同じ人間の形をした別の何かということが見え隠れしている。


『正義感が強い奴なら確かに一般人に危害を加えるような可能性は低いだろうが。

 加えて、任侠もの…じゃねーが、悪でありながら悪を成敗するというのなら尚更か』


 電話の向こうから、少し音声は悪いが少し不機嫌そうな声色でぶっきらぼうに話す男性の声が聞こえる。


『だとしても、危ない橋過ぎやしないか?

 そいつって、帯雷体たいらいていになりたてのド新人だよな?

 それは、俺等とそいつを接触禁止にする程のことなのか?』

『そ~だぞ!そ~だぞ!

 職権濫用だ〜職権濫用だ〜』

『うるせぇ!!』

『アハハハハ』


 酒でも飲んでいるのかと思える程に、テンション高めな女性が聞こえるとポツリポツリと他の人も思い思いに電話の向こうで話し始める。


「それについては……まぁ、彼の能力上問題ないと思ってな」

「なんだ、参謀さんは彼から能力の中身聞いていたのか」

『…納得はしきれてないが、今回は説得されてやる。

 で?こうやって通話で全員に聞かせるというくらいだ、はないだろ?』


 哲也てつやは、チラッとラプラスの悪魔を盗み見る。

 カゲは、つまんなさそうに肘掛けを土台に頬付を付いて彼女を見ている。

 瞬月しづきは、お茶をズズッと飲みながら彼女の言葉を待っている。


「ふむ……そうだな、まどろっこしく引き伸ばしてもあれだしな」


 ラプラスの悪魔は湯呑を机に置くと、んんっと咳払いをして声が聞こえるようにスマホを持ちながら話を続ける。


閑古鳥カッコウと、ちょっとばかし小競り合いをするぞお前ら」

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ロイデアー化物と人間社会の共存論ー 朝方の桐 @AM_Paulownia

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